ESCO事業とは、省エネルギーの改修経費をエネルギー削減からまかなう、比較的新しい省エネサービス事業です。日本に導入されて10年を経たいま、国などによるさまざまな支援策が打ち出されています。温室効果ガスの削減に向けて「待ったなし」の時を迎え、省エネルギー推進の切り札としてESCO事業に期待が集まっています。ESCO事業の最近の動向を紹介します。
※外部リンクは別ウィンドウで表示します
ESCO(Energy Service Company)事業は、1970年代の石油危機による原油価格の高騰を契機として米国で誕生し、わが国にも広がりつつある「省エネルギーサービス事業」です。ESCO事業者が省エネルギーに関する包括的サービスを顧客に提供し、改修に必要な経費を顧客のエネルギー削減からまかなうビジネス形態をいいます。
一般的な省エネルギー改修工事の場合、設計、工事、設備の運転管理のそれぞれの契約は別々となることが多いため、省エネルギー効果が保証されるわけではありません。しかし、ESCO事業の場合は、省エネルギーの予備診断、詳細診断、実施計画の立案、施工、省エネルギー効果の計測・検証などを一括して請負うため、省エネルギー効果の保証が可能となります。さらに、設備の運転管理・保守・点検まで契約に含めることもでき、より多くのメリットを期待することができます(図1)。
図1 ESCO事業と一般的な省エネルギー改修工事との比較
(出典:(財)省エネルギーセンター「ESCO導入のてびき」)
ESCO事業では、省エネルギーで実現する経費節減分で省エネルギー投資をまかなうために、顧客に新たな費用負担が発生しません。また、省エネルギー効果の保障を含む契約形態をとることによって、顧客の利益の最大化を図ることができるという特徴があります。もし省エネルギー効果が発揮できず、顧客が損失を被るような場合には、これをESCO事業者が補填します。こうした契約は一般的に「パフォーマンス契約」と呼ばれ、ESCO事業の重要な要素になっています(図2)。
図2 ESCO事業の仕組み
(出典:(財)省エネルギーセンター「ESCO導入のてびき」)
ESCO事業は、わが国では1990年台半ば頃から注目されるようになり、1996年に資源エネルギー庁内に「ESCO検討会」が設置されて以降、行政や民間企業の間で急速に関心が高まりました。1999年には、ESCO事業の普及・啓蒙、省エネルギーの推進や新技術の開発支援などを目的としたESCO推進協議会も発足しました。
また、ESCO事業による省エネルギー効果は、顧客のコスト低減だけではなく、発電所における化石燃料の消費削減、すなわち温室効果ガスの排出削減にもつながります。このため近年では、温室効果ガスの排出抑制の観点からもESCO事業が注目されるようになっています。
わが国における温室効果ガスの総排出量は、2005年現在で、京都議定書による基準年(1990年)の総排出量に比べて7.8%上回っており、議定書の6%削減約束の達成には、かなりの努力が必要とされています。なかでも二酸化炭素の排出量増加には、エネルギー起源が大きく寄与しています(表1)。
また、エネルギー起源の二酸化炭素の排出量は、産業及び運輸部門では減少傾向にあるものの、家庭部門や業務その他部門では大きく伸びており、これらの分野での二酸化炭素排出量の削減が一層求められています(表2)。
温室効果ガスの種類 | 京都議定書の基準年 [シェア] | 2004年度 (基準年比) | 2004年度からの 増減 | 2005年度 (基準年比) |
---|---|---|---|---|
合計 | 1,261 [100%] | 1,357 (+7.6%) | →+0.2%→ | 1,360 (+7.8%) |
二酸化炭素(CO2) | 1,114 [90.7%] | 1,288 (+12.5%) | →+0.5%→ | 1,293 (+13.1%) |
(エネルギー起源の二酸化炭素) | 1,059 [84.0%] | 1,199 (+13.2%) | →+0.3%→ | 1,203 (+13.6%) |
(非エネルギー起源の二酸化炭素) | 85.1 [6.7%] | 88.9 (+4.5%) | →+1.9%→ | 90.6 (+6.6%) |
メタン(CH2) | 33.4 [2.6%] | 24.3 (-27.1%) | →-1.1%→ | 24.1 (-27.9%) |
一酸化二窒素(N2O) | 32.6 [2.6%] | 25.9 (-20.6%) | →-1.8%→ | 25.4 (-22.0%) |
代替フロン等3ガス | 51.2 [4.1%] | 19.1 (-62.6%) | →-11.6%→ | 16.9 (-66.9%) |
(単位:百万t-CO2)
(出典:環境省「2005年度(平成17年度)の温室効果ガス排出量(確定値)<概要>」)
出典URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9670&hou_id=8419
部門 | 京都議定書の基準年 [シェア] | 2004年度 (基準年比) | 2004年度からの 増減 | 2005年度 (基準年比) |
---|---|---|---|---|
合計 | 1,059 [100%] | 1,199 (+13.2%) | →+0.3%→ | 1,203 (+13.6%) |
産業部門 (工場等) | 48.2 [45.5%] | 467 (-3.2%) | →-2.4%→ | 456 (-5.5%) |
運輸部門 (自動車・船舶等) | 217 [20.5%] | 262 (+20.3%) | →-1.8%→ | 257 (+18.1%) |
業務その他部門 (商業・サービス業・事業所等) | 164 [15.5%] | 229 (+39.4%) | →+3.8%→ | 238 (+44.6%) |
家庭部門 | 127 [12.0%] | 168 (+31.5%) | →+4.0%→ | 174 (+36.7%) |
エネルギー転換部門 (発電所等) | 67.9 [6.4%] | 73.9 (+8.9%) | →+6.2%→ | 78.5 (+15.7%) |
(単位:百万t-CO2)
(出典:環境省「2005年度(平成17年度)の温室効果ガス排出量(確定値)<概要>」)
出典URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9670&hou_id=8419
こうした状況の中、わが国では「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」の改正、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」の改正、「国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(環境配慮契約法)」の施行など、二酸化炭素の排出量削減あるいは省エネルギーの促進に関する法律の制定・改正が相次いでいます。これらの政策動向は、今後のESCO事業の展開にも影響を与えると考えられます。
ESCO推進協議会が会員86社を対象に行った市場調査によると、2006年度のESCO事業の受注額は278億円と、省エネルギー改修工事全体(492億円)の半数以上を占めるまでに成長しています(図3)。しかし、2004年には原油価格の高騰で受注額が大幅に減少するなど、市場が不安定な面もあるため、新規事業者の参入が伸び悩んでいるという傾向も否めません。そのため、ESCO事業のさらなる促進に向けて、国などによってさまざまな支援策が進められています(表3)。
図3 ESCO事業の仕組み
(出典:(財)省エネルギーセンター「ESCO事業の市場規模」)
区分 | 事業名 | 事業主体・関連URL | |
---|---|---|---|
導入支援 | エネルギー使用合理化事業者支援事業 | (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) | |
住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業(建築物に係るもの) | |||
住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業(BEMS導入支援事業) | |||
エネルギー供給事業者主導型総合省エネルギー連携推進事業 | |||
二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(地方公共団体) | 環境省 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local.html | ||
二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(民間団体向け)のうち業務部門二酸化炭素削減モデル事業 | |||
金融上の助成措置 | 大企業用 | 総合省エネルギー推進事業(省エネルギー対策事業) | 日本政策投資銀行 沖縄振興開発金融公庫 |
総合省エネルギー推進事業(産業部門省エネルギー推進事業) | 日本政策投資銀行 沖縄振興開発金融公庫 | ||
総合省エネルギー推進事業(建築物省エネルギー推進事業) | 日本政策投資銀行 沖縄振興開発金融公庫 | ||
中小企業用 | 資源エネルギー資金 | 中小企業金融公庫 国民生活金融公庫 沖縄振興開発金融公庫 |
(出典:ESCO推進協議会編著『ESCO導入ガイド』、省エネルギーセンター「省エネルギー関連助成制度」)
ESCO事業の市場拡大を図る上で、国及び自治体などの公共機関における導入促進は、重要な課題の1つです。自治体のESCO導入件数は、2005年度は38件、2006年度は50件と増加傾向にありますが、2006年12月現在、公共機関でESCO事業を導入した事例は、1999~2006年までの累積で117件にすぎません。
(財)省エネルギーセンターが2003年に実施した「自治体におけるESCO事業導入に関する調査事業報告書」によれば、ESCO事業が比較的新しい取組みであるため、経験不足からくる人材・知識不足が指摘されているほか、環境関連や財産管理、施設管理など、関連する複数部署間の調整に手間がかかるといった事情もうかがえます。また、単年度ではなく長期にわたる委託契約や、行政財産の使用許可や使用料の徴収にどう対応するかなど、クリアすべき制度的検討課題が指摘されています。
しかし、京都議定書の第一約束期間が2008年に始まり、すべてのセクターにおいて省エネルギーは重要度を増していることから、公共機関におけるESCO事業の取組みは進展していくものと考えられます。資源エネルギー庁では、「自治体ESCO導入のためのモデル公募要項集」を2007年4月にまとめ、自治体がESCO事業を導入する際の支援情報として提供しています。
また、環境省では、地方公共団体によるエネルギー対策を促進するために、2007年度から、「公共・公益サービス部門率先対策補助事業」を実施しています。この事業は、公共・公益サービス部門における地球温暖化対策を促進するため、医療施設・社会福祉施設などが率先して先進的な代替エネルギーや省エネルギー対策を導入したり、地方公共団体等がシェアード・セイビングス契約によってESCO事業を導入する際に、補助金による支援を行うものです。2007年度は合計10件の事業が採択されています。
2008年1月、調布市市庁舎・文化会館が、(財)省エネルギーセンターが選定する「第3回優良ESCO事業」の金賞を受賞しました。この事業では、ガス方式の空調熱源を空気熱源ヒートポンプに変更し、割安の夜間電力で冷房用の氷を蓄える「氷蓄熱方式」を採用することなどにより、空調用のエネルギー消費量を大幅に削減しています。また、ヒートポンプ給湯器の導入により、給湯用のエネルギー消費量を削減するなどの手法も採用されています(図4)。この事業によって、初年度の2006年度には、年間約495tのCO2排出量、約314KLの1次エネルギー(原油換算)および約2,250万円のエネルギーコストが削減となりました。
図4 調布市市庁舎のESCO事業の概要
(出典:調布市ESCO事業:事業詳細(調布市庁舎))
滋賀県では、家庭部門におけるESCO事業の普及を図るため、「家庭版ESCO事業」に取り組んでいます。この事業スキームは、環境省の平成18年度第6回NGO/NPO・企業の環境政策提言で最優秀賞を受賞したもので、提言の実現に向けて、びわこ銀行、滋賀県電器商業組合、滋賀県、滋賀県地球温暖化防止活動推進センターによる滋賀県家庭版ESCO推進協議会が、2007年7月に設置されました。協議会では現在、環境省の支援を受けてパイロット事業を展開しています。
この事業は、行政機関、金融機関、地域の家電販売店などが連携し、地域密着型の省エネ診断や、優遇金利による省エネ製品買換ローンを提供することで、家庭部門においてエネルギー消費の大きい給湯器やエアコンなどを省エネ製品に転換しようとするものです(図5)。
省エネ製品が比較的高額であるがゆえに、導入が難しいとされていた家庭部門へのESCO事業に取り組む本事業は、地域商店の活性化の視点からも関心が寄せられています。
<事業の流れ>
図5 家庭版ESCOのイメージ(フロー図)
(出典:滋賀県「家庭版ESCO事業についてのお知らせ」)
日本でESCO事業が産声をあげてから10年が経過し、省エネルギーに果たすESCO事業の役割や重要性に対する認識は定着しつつあります。環境配慮契約法が2007年11月に施行され、同法律に基づく基本方針が12月に策定されましたが、そのなかでもESCO事業の必要性や意義、導入フローが示されています。
今後、ESCO事業の市場をさらに拡大していくためには、これまで主に導入が進んできた工場や大規模ビルなどの産業部門のほかに、公共機関や家庭部門への展開、大企業から中小企業への展開、生産部門から業務部門への展開を積極的に進めていくことが求められます。
また、新しい動きとして、従来から提供してきたエネルギー消費量削減の保証に加え、CO2排出削減量を保証するサービスも登場しています。その第一号として2008年4月から開始される「明治薬科大学清瀬キャンパスESCO事業」では、環境省の補助金(自主参加型国内排出量取引制度)を活用し、キャンパス全体の省エネルギー設備をESCO方式で導入することにより、CO2排出量の約14%削減を見込んでいます。
このように、これからのESCO事業には、従来のような熱源設備の更新を主体とした内容に加え、企画力や資金調達力などを備えた総合的なエネルギー・コンサルティングとしての役割が求められようとしています。