環境技術解説

砂漠緑化

 砂漠緑化とは、砂漠化した土地に植生を回復するために用いられる手法の総称である。
 国連によれば、乾燥地域は世界の陸地面積の約41%を占めており、乾燥地域の10~20%は気候変動や人間活動によって土地が劣化しているとされている。その原因は、気候的要因(気候変動、干ばつ、乾燥化等)と人為的要因(過放牧、森林の伐採、過耕作等)が複雑に組み合わさっている。
 砂漠緑化に利用される主な技術としては、植物を根付かせるための砂防・植栽技術、水を有効に活用する水管理技術、灌漑等によって塩害が発生するのを防止する土壌管理技術、さらには乾燥などのストレスに強い植物を育てる技術がある。また、砂漠化の状態を監視するリモートセンシング技術も広い意味で砂漠緑化のための技術に含まれる。実際の砂漠緑化では、各地の状況に応じて、これらの技術を適切に組み合わせて行く必要がある。
 環境省の「地球環境研究総合推進費」では、平成19年度から「北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究」が実施されている。この研究では、衛星画像解析、環境制御実験、野外実験を組み合わせて、砂漠化防止のための適切な技術の組み合わせを明らかにすることを目指している。

北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究
出典:環境省「地球環境研究総合推進費」
http://www.env.go.jp/earth/suishinhi/jpn/projects_underway/pdf/G071.pdf

※外部リンクは別ウィンドウで表示します

1.背景

1)世界の砂漠化の現状

 世界各地の乾燥地域の分布を図1に示す。乾燥地域とは、乾燥度指数(AI:Arid Index、「年間降水量/年蒸発散量」で定義される指数)の低い地域のことを指し、「極乾燥地域(砂漠)」「乾燥地域」「半乾燥地域」「乾燥半湿潤地域」に分類される。
 国連の調査によれば、こうした乾燥地域は、世界の陸地面積の約41%を占めており、乾燥地域の10~20%は気候変動や人間活動によって土地が劣化しているとされている。その原因は、気候的要因(気候変動、干ばつ、乾燥化等)と人為的要因(過放牧、森林の伐採、過耕作等)の2つがあり、これらの要因が複雑に組み合わさって脆弱な土地をさらに劣化させ、人の生活や生態系を脅かしている。

図1 砂漠化の影響を受けやすい乾燥地域の分布
出典:環境省「砂漠化する地球」
(原図:国連「ミレニアム生態系評価」)
http://www.env.go.jp/earth/shinrin/sabaku/index_1_2.html

2)砂漠化対処条約

 砂漠化の現状に対処するために、1994年に砂漠化対処条約(「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約」)が採択され、1996年に条約が発効した。日本も1998年に同条約を受諾した。この条約では、アフリカ諸国を中心とした開発途上国が直面する砂漠化の問題に対して、先進国が資金等を提供するとともに、砂漠化に対処するための技術、知識などの移転を促進することが盛り込まれている。こうした背景から、砂漠化地域の緑化を進めるための技術が必要とされている。

2.砂漠緑化技術の概要

 砂漠緑化を進めるためには、砂の移動を抑えて植物を根付かせるための砂防・植栽技術、水を有効に活用する水管理技術、灌漑等によって塩害が発生するのを防止する土壌管理技術、緑化に適した植物の育種技術等が挙げられる。また、砂漠化の状態を監視するリモートセンシング技術も、有効な技術の1つといえる。これらの概要を以下に紹介する。

1)砂防・植栽技術

 砂漠では植物や土壌の被覆が乏しく、地表面が保護されていないため、風による侵食作用(風食)が顕著に見られる。そこで、緑化のためには、風による砂の移動を抑えながら、植栽を行う必要がある。

(1)草方格(そうほうかく)
 草方格とは砂防技術の一種で、稲わらや麦わらなどの枯れ草を地中に碁盤の目状(1m四方程度の格子状)に差し込んでいくことで、地表面の風速を低減し、砂の移動を止める技術である(図2)。
 実際の施工作業では、まず、その地に適した植物(牧草が好ましい)の種を播き、その上に枯れ草を並べた後、枯れ草の中心をスコップなどで地面に挿し込んでいく(図3)。この時、先に播いた種も同時に水分のある地中へと入っていくため、砂防と植栽を同時に行うことが可能になる。草方格は麦わらなどでできているため、保水力を持っており、わらが分解すると肥料にもなることから、草方格に植えられた植物は生育が良い。また、草方格を砂丘の中腹部に設置しつつ、上部には草方格を施工せず、風を利用して砂丘上部の砂を飛ばすことによって、砂丘をほぼ平らな土地へと変えることもできる。

図2 草方格が施工された砂丘斜面
出典:一般社団法人地球緑化クラブ「砂漠化・緑化資料室」
http://www.ryokukaclub.com/souhoukaku/kouka1.htm


(左)格子線上に牧草などの種を播く、(中央)その上に枯れ草を並べ、スコップなどで地面に挿し込む、(右)スコップで挿し込んだ様子(断面イメージ)
図3 草方格の施工作業
出典:一般社団法人地球緑化クラブ「砂漠化・緑化資料室」「草方格による緑化」
http://www.ryokukaclub.com/souhoukaku/kouka1.htm
http://www.ryokukaclub.com/tour/setumei3.htm

(2)苗木の植栽
 苗木を植えることによっても砂の移動を防ぐことができる。列または碁盤の目状に植えることで強風を緩和させる。草木がないところでは、ブルドーザーのような重機でV字の溝を掘り、根をなるべく地下水近くに深く植えるためにその底をさらに50cm位掘って植える。草が覆っているところでは重機は使わず、スコップで苗の丈に応じて深く穴を掘る。樹種は、ポプラ、マツ、ニレ、アカシア、ニンキョウなどで、地形・地質に適した苗木を植える。草は表土、木は深土を改良して土中微生物を増やすため、木と草が共生することで緑化が飛躍的に進む。そのため、樹木のみを密集させて植えるよりも、樹木と草本類を一定の間隔で共存させて植栽することが望ましい。また、いわゆる砂防林もこうした砂防・植栽技術の一種である。

図4 苗木の植栽作業(左)と植栽後の生育状況(右)
出典:一般社団法人地球緑化クラブ「写真で見る砂漠緑化ツアー」
http://www.ryokukaclub.com/tour/tourphoto1.htm
http://www.ryokukaclub.com/tour/tourphoto4.htm

2)水管理技術

 水資源の限られた砂漠では、効率的な灌漑と排水が必要である。以下、砂漠緑化に用いられる灌漑と排水技術について紹介する。

(1)灌漑技術
 灌漑に用いられる主な技術を表1に示す。
地表灌漑は、最も一般的な灌漑方法で、水路から一定の周期で畑地に水を供給するものである。このうち、畦間灌漑は土でできた畦の間の溝に通水する方法で、水盤灌漑は畦で囲んだ区画内に水を張る方式である。傾斜地の場合は、圃場を帯状に区切り、区画の上端から水を流入させるボーダー灌漑が用いられる。これらの地表灌漑は、施設費は安いが、灌漑操作に多くの人手を要し、損失水量が多くなるため、地下水位の上昇や塩類集積を招きやすい。
散水灌漑は、ポンプで圧力をかけた水をノズルから噴射させ、雨滴あるいは噴霧状に散水する方式で、スプリンクラー等の設備が用いられる。この方式も水の利用効率はあまり高くない。
 マイクロ灌漑は、植物の根本などにピンポイントで灌漑する節水型の灌漑方式である。代表的な方式である点滴灌漑では、作物の周囲に多数の孔のあいたホースを配置し、孔から少量の水を滴下させる。また、小型のスプリンクラーを用いて水を散布するマイクロスプリンクラーという方式もある。これらのマイクロ灌漑は、水の利用効率が高く、塩類集積を引き起こすことも少ないが、単位面積当たりのコストが高くなる欠点がある。

表1 代表的な灌漑方式
灌漑方法概要
地表灌漑畦間灌漑、水盤灌漑、ボーダー灌漑、など
散水灌漑スプリンクラー灌漑(小型~大型スプリンクラー灌漑、自走式スプリンクラー灌漑、センターピボット灌漑も含む)など
マイクロ灌漑点滴灌漑、マイクロスプリンクラー灌漑など
植物スプリンクラー深根性植物を利用して地下水を表層の土壌に浸透させる。

出典:鳥取大学乾燥地研究センター「乾燥地と砂漠化について」
http://www.alrc.tottori-u.ac.jp/japanese/desertification/46j.html
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プレス発表「新発想!植物で植物を灌漑する技術【産技助成Vol.24】」をもとに作成
http://www.nedo.go.jp/informations/press/200826_1/200826_1.html

 「植物スプリンクラー」と呼ばれる技術(開発者:名古屋大学 矢野助教)は、地中深く根を下ろす「深根性植物」を利用して地下水を表層土壌に浸透させることで、地表に植えた作物に水を供給するものである(図5)。キマメのような深根性植物は昼間に深層水(地表下2m前後)を吸収するが、夜間は葉の気孔が閉じて葉からの蒸散がなくなるため、行き場を失った水が表層付近の根を通じて乾いた表層土壌(地表下50cm前後)に放出される。これを用いて地表に植えた根の浅い作物に生物学的に灌水を行う。このように、植物の根を用いて水を供給することから、植物スプリンクラーと呼ばれている。
 図5は、地表面の植物の発育状況を示す写真と、その地下で起きている現象のイメージを合成したものである。上部の写真に示すように、植物スプリンクラーであるキマメ(右端の深根性植物)の周囲にトウモロコシを植えたところ、キマメに近づくほどトウモロコシの生長が良好であった。これは、図4下部のイメージ図に示すように、キマメの根が深層水を表層まで吸い上げたと考えれば説明できる。この方法は、塩類集積も起こしにくく、低コストで環境調和型の灌水技術として期待される。

図5 植物スプリンクラーの実証試験
(キマメを一定間隔で植えたトウモロコシ畑、ザンビア共和国)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プレス発表「新発想!植物で植物を灌漑する技術【産技助成Vol.24】」
http://www.nedo.go.jp/informations/press/200826_1/200826_1.html

 なお、海岸に近い砂漠では、灌漑に利用される水源としては、雨水、地下水以外に、海上の暖かい空気が陸上で冷やされた空気と接することで生じる霧の水分を集める研究も進められている。
 さらに、吸水性の高い合成高分子からなる保水剤を土壌に添加することで、土壌の保水力を高め、灌漑効率を向上させることも試みられている。

(2)排水技術
 乾燥地の農業では、植物が必要とする以上に多量の水を灌漑し続けると、地下水位が上昇し、土壌の毛細管効果によって地下水が地表に上昇し、水の蒸発にともなって地下水中の塩類が地表に集積する(塩類集積)。そこで、灌漑と合わせて効率的な排水技術が必要になる。
 排水技術のうち、人工的な設備を利用するタイプには「地表排水」と「地下排水」がある。地表排水は、排水路などを整備することにより、地表にある過剰な水を取り除くものである。一方、地下排水は、地下に排水管を通すことにより、地表排水で対応できない地表残留水や難透水性土壌中の水を排除したり、地下水位を低下させるものである。
 このほか、樹木や灌木の吸水力を利用して行う生物的排水(バイオ排水)という技術もある。この技術は、図6に示すように吸水性の強い樹木を植栽することにより、低地での排水、水路沿いの地下水上昇の防止、圃場での地下水位制御等を行なう方法である。この場合、防風効果も期待できる。

図6 バイオ排水による地下水位の変化
出典:鳥取大学乾燥地研究センター「乾燥地と砂漠化について」
http://www.alrc.tottori-u.ac.jp/japanese/desertification/46j.html

3)土壌改良技術

 塩類集積が問題となる砂漠化地域での土壌改良技術としては、農地に集積した塩分を除去しながら、土壌を改良して耕作可能な状態を保持する方法がある。塩類集積の状況に応じて、様々な方法を複合的に適用する場合が多い。いずれの方法も、広い面積に適用する場合、相当な費用を要するため、現地の実情に適した方法を選択することが必要である。

(1)リーチング(塩類洗脱)
 畑地に灌漑に必要な量以上に水を入れ、塩類を溶解させて洗い流す方法で、蒸発の少ない冬に行われる。洗い流された塩類は土壌の深い部分へ移動する。

(2)土壌改良材の施用
 塩類が集積した土壌は、土壌がアルカリ性に傾く。そこで、土壌改良材を用いることで、土壌のpHを下げることが行われる。土壌改良材としては、石膏(CaSO4・2H2O)、リン酸カルシウム、亜硫酸カルシウムあるいはパイライト(Fe2S)などが用いられる。

(3)その他の方法
 塩類の除去には、上記の方法以外にも、ブルドーザー等の機械で地表を機械的にはぎ取る方法や水稲栽培を取り入れて畑作期間に集積した塩類を除去する方法などがある。

4)耐ストレス性(耐乾性・耐塩性)新品種の開発

 乾燥地では植物は、温度、乾燥、塩類などの様々な環境ストレスにさらされている。このため植栽に当たっては、耐乾性、耐塩性などに優れる品種を選択する必要がある。例えば、耐乾性に優れた作物としては、キビ、アワ、モロコシ、コムギ、オオムギ、ワタ、サツマイモなどが知られている。さらに品種改良により、耐乾性、耐塩性などに優れた植物を開発することが考えられる。
 従来、このような品種改良は、交配と選抜によって行われてきた。この方法では、様々な性質を持った原種を集め、それらを乾燥条件、高塩分条件で栽培選抜し、耐乾性・耐塩性の形質を多収性などの優良形質を持つ他の系統に取り込む。一方、最近では遺伝子工学の進展により、耐乾性などに関わる遺伝子が分かっている場合は、その遺伝子を外部から新たに導入したり、植物がもともと持っている遺伝子の働きを高めることで品種改良を行うことが可能となりつつある。
 図7は、実験植物であるシロイヌナズナにおいて、ストレス耐性に関与する遺伝子(AHK1遺伝子)の働きを高めて耐乾性を向上させた研究事例である。AHK1遺伝子は、乾燥や塩類ストレスを感知して、ストレスに抵抗するための指令を出すタンパク質であることが知られている。そこで同研究では、遺伝子組換え技術により、AHK1遺伝子がシロイヌナズナの体内で強く働くように改変した。その結果、通常のシロイヌナズナ(野生株)では、乾燥処理後の生存率は約18%で、多くの植物が枯死したが、AHK1遺伝子の働きを強めたシロイヌナズナ(ProAHK1:AHK1)では、生存率がそれぞれ88%と78%に向上した(図の中列、右列)。

図7 乾燥耐性が向上したシロイヌナズナの育種
出典:(独)国際農林水産業研究センター 国際農林水産業研究成果情報 第15号(2007)
http://www.jircas.affrc.go.jp/kankoubutsu/research/seika2007/2007_07.html

5)砂漠の気象条件に適した緑化植物の育種

 中国北部の乾燥・半乾燥の砂漠化地域では強風と共に舞い上がった砂塵である「風砂流」あるいは「砂塵暴」が問題となっている。国立環境研究所では、同地域の植生に及ぼす風砂流の影響機構や植生による砂塵暴の防止、また砂漠化地域の植生再生/回復を明らかにする研究の一環として、生理生態学的手法を用いて、植物の環境応答性を実験的に解析している。
 この研究を進めることにより、砂漠化地域の様々な環境要因に対する植物への影響や、複数の植物種の適応能力の差異を明らかにし、各砂漠化地域の環境条件に適した緑化植物種を選定することができると期待される。

6)リモートセンシング技術

 砂漠化防止のためには、まず砂漠化の実態を把握することが重要である。砂漠化の分布や進行度合を調査する上で、航空写真や人工衛星画像を解析するリモートセンシング技術は大きな武器となっている。最近の研究では、塩類集積荒廃地を見分けることも可能である。後述の図9に示す環境省地球環境研究総合推進費「北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究」では、研究手法の1つとしてリモートセンシングによる衛星画像解析が取り入れられている。

3.技術を取り巻く動向

1)環境省における国際協力

 環境省では、国内の関連機関と連携しながら、途上国での砂漠化防止に関する国際協力を行っている。砂漠化への対処に当たっては、当該地域で伝統的に生活してきた地元住民の知識を最大限に活用しながら、支援を行っていくことが必要と考えられている。
 そこで、環境省はブルキナファソの砂漠化地域を対象に伝統的知識・在来技術の技術移転に関するパイロット・プロジェクトを実施し、その結果をリーフレット「伝統的知識・在来技術を活用した技術移転のあり方」として公表している(図8)。それによれば、砂漠の緑化にあたっては、導入技術の選定等において、現地の伝統的な意思決定方式を尊重すること、一部の関係者が利益や技術を独占しないような仕組みを作ること、現地住民が現地の条件にあわせて技術を改善(応用)できるようにすることが重要とされている。

図8 伝統的知識・在来技術を活用した技術移転のあり方
出典:環境省「伝統的知識・在来技術を活用した技術移転のあり方」
http://www.env.go.jp/earth/shinrin/sabaku/index.html

2)地球環境研究総合推進費における関連研究

 環境省「地球環境研究総合推進費」の中では、広域的な生態系保全・再生分野の研究が推進されており、その一環として、平成19年度から「北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究」が実施されている。図9に示すとおり、この研究では、北東アジアの放牧草地を対象に、リモートセンシングによる衛星画像解析、環境制御実験、野外実験を組み合わせて、様々な技術の環境修復メカニズムを解明し、どの場所にどのような技術を適用すれば砂漠化が防止できるかを明らかにし、適切な防止技術のパッケージを提供できるようにすることを目指している。国立環境研究所もこの研究に参画し、荒廃した草原の回復に関わるkey species(カギとなる生物種)の環境適応性の解明等の研究を分担している。

図9 北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究
環境省「地球環境研究総合推進費」
http://www.env.go.jp/earth/suishinhi/jpn/projects_underway/pdf/G071.pdf

引用・参考資料など

(2009年6月現在)