環境技術解説

高効率照明

社会の中で照明は欠かせないものとなっており、省エネルギーによる地球温暖化対策を進める上で「高効率照明」が重視されている。高効率照明とは、LEDなどの少ないエネルギーで十分な明るさを実現できる照明のことで、政府は、2030年までに家庭やオフィス、工場などすべての照明のLED化を目指すなど、LED照明を地球温暖化対策の重要な施策として位置付けている。

ここでは、LEDなどの照明技術とその省エネルギー対策を概観するとともに、今後の実用化や普及が期待されている次世代の照明技術やその開発動向を紹介していく。

※掲載内容は2021年11月時点の情報に基づいております。
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1. 照明によるエネルギー消費の現状

照明は古来、私たちの生活に重要な役割を果たしてきた。とりわけ現代は、室内外のさまざまな空間で照明が幅広く利用され、昼夜を問わず不自由のない行動や生活が可能になっている。今日主流となっている照明の多くは電気を利用したものであるが、その技術は、発電機の発明と実用化(1869年)により大きく進展した。1880年前後に白熱灯が実用化されたのをはじめ、1890年代には水銀灯が発明され、1938年には初めて蛍光灯が発売された。20世紀を通じてこれらの照明は改良が重ねられ、利用場面も広がってきたが、それに伴いエネルギー消費量も増加してきた。

家庭では、エネルギー消費は、冷房、暖房、給湯、ちゅう房、動力・照明他(家電機器の使用等)の5用途に分類することができる。エネルギー消費の5割以上を電気が占めているが、なかでも電力を多く消費しているのはエアコンなどの空調機器、冷蔵庫や洗濯機などを動かすための動力や照明器具、テレビなどである。高度経済成長期に家庭でのエネルギー消費量自体が拡大し、動力や照明器具も増加した。その後も、家電の普及や大型化、多様化や生活様式の変化などに伴い、動力・照明他用のシェアは増加していた。近年では、動力・照明他用のエネルギー消費も減少傾向であり、家庭でのエネルギー消費量全体が減少していることから、動力・照明他用のシェアは横ばいで、2019年度では33.9%を占めている(図1)。

なお、家庭内の省エネ技術全般については「HEMS」の解説を参考にされたい。



図1 世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費の推移
出典:資源エネルギー庁「令和2年度エネルギー白書」をもとに作成


事務所やビル、デパート、ホテル、娯楽施設などにおいても、エネルギー源として、電力の割合が高まっている。またOA化などを反映して、動力・照明用のエネルギー消費は、高い伸びを示し、エネルギー消費全体に占める割合は、2019年度では43%に達した(図2)。 こうした施設で省エネルギーを実現するためには、照明などの機器の効率化を行うことやエネルギー管理の徹底が重要であると言える。

なお、ビルの省エネ技術全般については「BEMS」、「省エネビル」の解説を参照されたい。



図2 業務他部門エネルギー消費原単位の推移
出典:資源エネルギー庁「令和2年度エネルギー白書」


2. 照明技術と省エネルギー対策

今日利用されている代表的な照明には蛍光灯とLED照明があり、そのほかに白熱灯、ハロゲン電球、HIDランプなどがある。このうち白熱灯は電力消費が多く、寿命が短いほか、2012年に生産が中止されたこともあり、蛍光灯やLEDへの移行が進められた。

蛍光灯は、発光管に封入されている水銀蒸気中の放電によって発生した紫外線を、蛍光体に当てて可視光に変えることで発光する。寿命が長く、発光効率が80~100 lm(ルーメン)/Wと高いのが特長で、白熱灯と同様の形状に加工され、取替えが可能な「電球型蛍光灯」もある。しかし、「蛍光灯2020年問題」というわれるように、規制基準以上の水銀を使用している蛍光灯は2020年までに製造・輸出入が禁止され、既に主要メーカーは蛍光灯の生産を中止している。

LEDは、発光ダイオード(Light Emitting Diode)の略で、電気を流すと発光する半導体の一種で、きわめて少ないエネルギーで発光する省エネルギーの電子デバイスである。平成26年全国消費実態調査では、総世帯の30%でLED照明器具が導入していると回答しており、現在ではさらに普及が進んでいると考えられる。屋内においてLED化が進んだことから、今後、屋外照明のLED化が期待される。



図3 リニューアル工事用LED街路灯(イメージ)
出典:東芝ライテック(株)ニュースリリース(2020年8月21日)


3. 環境・エネルギー政策における位置づけ

2015年に採択されたパリ協定を受けて、日本では「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。2020年10月に、政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言(2021年3月閣議決定)。2021年4月には、2030年度に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)する目標を掲げた。地球温暖化対策計画は改訂作業が進められ、2021年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」では、「2030年度に13年度比46%削減」の目標に向け、排出量を家庭部門で66%、産業部門は37%減らすといった内訳も示している。

この高い削減目標を達成するための対策のひとつとして、2030年度までに新築住宅で平均20%の省エネを実現させ、すべての照明をLEDなどの高効率なものに変える目標が示されている。

また、経済産業省が2015年7月に策定した2030年度のエネルギーミックスでは、徹底した省エネや再生エネルギー導入などの目標が設定された。エネルギーミックスを実現するためには総合的な政策措置が不可欠であり、関連制度の一体的な整備を行うため、「エネルギー革新戦略」が策定された。ここでも、「徹底した省エネ」が目標として掲げられ、2030年度までにLEDなどの高効率照明をストックで100%にする目標が掲げられている。2021年10月には、第6次エネルギー基本計画が閣議決定され、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、道路照明灯の省エネ化を推進することも示された。


4. 技術開発の動向

1)LED照明

LEDの普及に向け、コスト削減はもちろんのこと、質の向上を目指した技術開発が進んだ。LED照明に使われるLEDチップは、P型半導体( + :positive 正孔が多い半導体)とN型半導体( - :negative 電子が多い半導体)が接合された「PN接合」からなり、LEDチップに順方向の電圧をかけると、LEDチップの中を電子と正孔が移動し電流が流れる。移動の途中で電子と正孔がぶつかると再結合し、再結合された状態では、電子と正孔がもともと持っていたエネルギーよりも、小さなエネルギーになる。その時に生じた余分なエネルギーが光のエネルギーに変換され発光する(図4)。

LEDはこれまでの照明と異なるしくみなので、互換性がなく既存設備に取り付けることができなかった。現在では従来の照明器具に取り付けられるようにしたLEDランプが開発され、電球型のものと蛍光灯型のものが手に入るようになっている。LEDを使用すれば、白熱電球に比べて電力量は5分の1以下になるとともに、寿命も20~30倍と大きく延びると言われている。社会のさまざまなところに設置されている白熱灯や蛍光灯がLEDに転換していくことで、二酸化炭素排出削減に大きな効果を見込むことができる。


図4 LEDの発光原理

このように省エネルギーや二酸化炭素削減に効果のあるLED照明だが、従来の単純な照明器具とは全く異なり、電源となるLEDチップとそれを制御するさまざまなモジュールからなる最先端の電子機器である。そのため、従来の照明ノウハウに加え、高度な電源制御技術が組み込まれているとともに、技術開発もさまざまに進んでいる。たとえば、LEDの光は直進性が高く、広範囲を照らすのが難しいという特性があるが、各メーカーはLEDチップの配置や制御システムを工夫し、その課題を克服している。半導体メーカーのローム(株)は、小型化技術やと高放熱・高耐熱パッケージを展開するなど技術開発を進めている。

また、用途の面でも、一般照明からディスプレイのバックライト、屋内外の照明など利用シーンの拡大と、省エネ、高機能の両立を目指した技術開発が進んでいる。


2)高効率蛍光灯

高効率蛍光灯とは、新たな発光・蛍光材料の開発や周辺回路の省エネルギー化などにより、発光効率をこれまで以上に高めた蛍光灯を指す。

現在、高効率蛍光灯として実用化されているのは、専用インバータ(電子安定器)と専用蛍光灯を組み合わせた高周波点灯専用(Hf:High Frequency)形の蛍光灯である。このタイプは、数十kHzの高周波で点灯することにより発光効率が高く、ちらつきも無いという特長があり、各社から100 lm/Wを超える発光効率の製品が発売されている。



図5 高周波点灯回路の基本原理
出典:(公社)日本電気技術者協会「電気技術解説講座」


高効率蛍光灯の開発にあたっては、水銀による環境負荷の低減を図ることも重要になっている。例えば、蛍光灯には、点灯時間とともにガラス管に水銀が付着して黒ずみ、明るさが低下するという課題がある。これはガラス管から析出するナトリウムと水銀が反応するためであるが、この反応を抑えるための保護膜として、従来のアルミナからシリカを用いる技術が開発された。シリカの保護膜は従来よりも厚さが数倍あるため、水銀付着量の低減と高効率維持が可能となっている。


3)有機EL照明

LED照明と並んで次世代高効率照明として期待されているのが有機EL照明である。EL(エレクトロ・ルミネッセンス:Electro Luminescence)とは、物質が電流によって刺激されて発光する現象であり、ELのうち発光材料が有機物質のものを「有機EL」と呼ぶ(図6)。

有機ELは、有機物である電子輸送層、発光層、正孔輸送層を陽極と陰極ではさみ、それぞれの電極から+(正孔)と-(電子)を注入して発光層を励起させることにより、発光層が光ることによる。この発光層の光を取り出すために片方の電極は透明な材料で作られている。



図6 有機ELのしくみ
出典:カネカ「有機EL照明とは」


有機物質自体が発光するためデバイスを軽量かつ薄くすることができるほか、プラスチックや紙などの曲げられる素材の上に貼って自由な形状を得ることができる。テレビやスマートフォンなどのディスプレイとして使われているほか、面発光する特性を利用して、ミラーレスカメラのファインダーに使われる。

ソニー(株)は、マイクロキャビティ(微小共振器)構造とカラーフィルタにより、色純度アップと高コントラストと低消費電力を同時に実現した(スーパートップエミッション方式)を開発した。従来のパネルは、パネル表面に円偏光板(位相差板と偏光板)を設置し、外光反射を防ぐ一方、EL光量が半減してしまう。この方式は、円偏光板を使用せず、マイクロキャビティ構造にカラーフィルタを組み合わせることで、外光反射を防ぐと同時に、色純度を向上させた。これにより、消費電力の低下につながっている。



図7 スーパートップエミッション方式
出典:ソニー(株)「ソニーの有機EL技術」


4)半導体照明

半導体照明とは、半導体を使った照明のことで、SSL(Solid State Lighting)ともいわれている。これまでは、SSLといえばほぼLEDのみであったが、近年では、有機ELや半導体レーザーも含めてさまざまなタイプの照明が開発されている。例えば、半導体レーザーとは半導体に電流を流してレーザー発振させて発光するもので、LED似たような仕組みとなっている。用途としては、ディスプレイやスポット照明などが考えられている。


5)タスク・アンビエント照明

タスク・アンビエント照明とは、照明器具とその利用方法の両面を組み合わせたシステムで、室内照明において、人や書類などの対象物(タスク)を照らす照明と、天井や壁、床などの周辺(アンビエント)を照らす照明の両方を設置して、明るさも含めて照明の必要度合いに合わせて使い分けるしくみである。

従来の照明では、部屋全体を一律で明るく照らす場合が多く、無人の場所や不要な場所まで明るく照らしてしまうために消費電力も比較的大きくなっていた。タスク・アンビエント照明は、アンビエント照明で部屋全体の最低限の明るさを確保し、作業に必要な場所にのみタスク照明を用いるので、節電につながると言われており実用化も始まっている。



図8 タスク・アンビエント照明
出典:(一社)日本照明工業会「快適性をカエル」


6)さらなる次世代照明の研究

現在の高効率照明の研究はLEDが中心で、今後もLEDの機能の向上や用途拡大をめざした研究が進んでいくと考えられている。また、照明そのものの機能を向上させるだけでなく、照明の使い方も省エネルギーにつながり、例えばIoTなどを活用して照明のON/OFFを制御したり、明るさを調整したりといった技術も開発されている。IoTによる温室効果ガス削減については、「グリーンIT/IoT」の解説を参照にされたい。

また、照明の用途を拡張させる技術開発も進んでいる。例えば、日亜化学工業(株)は超広配光LEDパネルを開発し、不二サッシ(株)により建材(光壁)として製品化されている(図9)。その他、調光することで体内時計を正常化する照明器具や、405nmピークの光により除菌効果を併せ持つ照明器具が開発され、企業や家庭で高効率照明に切り替える機会にもなっている。このように「明かりを照らす」に留まらない技術開発も進んでいる。



図9 LEDを用いた建材(光壁)
出典:不二サッシ(株) ニュースリリース(2019年10月2日)


引用・参考資料など

・環境省 報道発表資料(令和3年10月22日)「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定並びに「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について

・環境省 報道発表資料(令和3年10月22日)「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画」の閣議決定について

・環境省 報道発表資料(令和3年10月22日)気候変動適応計画の閣議決定及び意見募集(パブリックコメント)の結果について

・環境省 「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」

・経済産業省 「LED照明産業を取り巻く現状」

・資源エネルギー庁「エネルギー白書」

・(特非)国際環境経済研究所「2030年すべての照明をLED化」

・(一社)日本照明工業会「照明成長戦略2020」

・(一社)日本照明工業会「快適性をカエル」

・カネカ「有機EL照明とは」

可視光半導体レーザー応用コンソーシアム

・パナソニック「タスク・アンビエント照明」

・(公社)日本電気技術者協会「電気技術解説講座」

・ソニー(株)「ソニーの有機EL技術」

不二サッシ(株) ニュースリリース(2019年10月2日)

東芝ライテック(株)ニュースリリース(2020年8月21日)


<コンテンツ改訂について>
2008年9月:初版を掲載 
2021年11月:改訂版に更新