環境技術解説

省エネビル

省エネビルとは、オフィスや商店、ホテル、学校、病院といった、主として業務用のビルにおいて、ビルに関する様々な省エネルギー技術を取り込んで、エネルギー消費の低減(最小化)を目指すビルのことである。ビルの建設から廃棄までの消費エネルギーのライフサイクルを分析すると、運用期間の消費エネルギーが70%を占めるといわれる。このため、省エネビルでは、運用期間における省エネルギーを進めるために様々な技術を使用する。具体的には、図に示すように、空調や照明の制御技術を含めたビル全体のエネルギーマネジメントシステム(BEMS)や外壁の断熱技術、省エネ型の機器導入、未利用エネルギーの利用などがある。

業務部門からのCO2排出削減を進めるためには、省エネビルの普及が重要なことから、省エネビルに対しては各種の表彰制度が整備されており、その導入が進められている。

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1.背景

1)業務部門由来CO2への対策の必要性

我が国では、石油危機を契機に昭和54年(1979年)に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)に基づき、省エネに関する取組が実施されてきた。特に、国内で消費する燃料の大部分を海外に依存し、海外から輸入した原材料を国内で加工して輸出し外貨を得ている我が国では、早くから製造業を中心とする産業部門および運輸部門において、効率的な燃料利用に関する技術開発が実施されていた。

平成9年(1997年)に京都議定書が採択され、CO2排出量の削減目標が設定されて以降、この傾向は顕著となり、景況の悪化に伴う企業のコスト削減への取組ともあいまって、各種省エネへの設備投資は先述の産業部門・運輸部門だけでなく、商業施設やビルなどの業務部門や家庭へも広がりをみせている。

2007年度の我が国のCO2総排出量は約13億トンで、そのうちビルや商業施設に該当する“業務・その他部門” は、間接排出量で約18%(約2.4億トン)を占めている。この割合は、都市人口の増加に伴い漸増傾向にあるため(図1)、ビル等の省エネ化は、地球温暖化防止の観点から喫緊の課題となっている。

図1 我が国のCO2間接排出量の推移

図1 我が国のCO間接排出量の推移
※間接排出量:CO2の排出を伴って作られた電力等を消費したとき、その電力を消費した主体(企業等)がCO2を排出させたとみなして算出した量
出典:温室効果ガスインベントリオフィス「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」を基に作成


2)環境・エネルギー優良建築物マーク

環境・エネルギー優良建築物マーク(図2)とは、省エネルギー対策の推進を図るため、一定水準以上の省エネルギー性能を有する建築物についてその表示を行うもので、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が行っている。用途は、事務所等、物品販売業を営む店舗等、ホテル等、病院等、学校等、飲食店等、集会場等、工場等であり、新築建築物(竣工前可)及び既存建築物を問わない。審査基準は、レベル1とレベル2に分かれるが、どちらも省エネルギー効果が省エネルギー基準(平成15年経済産業省・国土交通省告示第1号)に定める値を上回ることが求められる。なお、平成22年11月交付分までで92件の建築物が交付を受けている。

図2 環境・エネルギー優良建築物マーク
出典:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構 ウェブサイト「環境・エネルギー優良建築物マーク」


3)ESCO事業

ESCO(Energy Service Company)事業とは、顧客の所有するビル等に対して省エネサービスを提供し、省エネによって削減できたコスト分から省エネサービスの費用を徴収する事業のことである。我が国におけるESCO事業の歴史は10年あまりで、市場規模は180億円程度(2007年度)である。ESCO事業の詳細は、「ESCO」の解説を参考にされたい。


2. ビルの省エネ技術の種類

1)省エネに配慮した設計・建築技術

この例として、高反射塗装、屋上緑化、壁面緑化などが挙げられる(図3)。これらはビル内部の冷房による電力消費を抑制でき、さらに冷房使用に伴い発生する高温の排気を削減できることから、都市部で問題となっているヒートアイランドへの対策として有効である。(詳細は、ヒートアイランド対策技術の解説を参照されたい。)

図に示された地上40m(10階建て)のビルに対して壁面(屋上)緑化と高反射塗料を併用したモデルケースでは、CO2量を、ビル内冷房使用に伴い発生するCO2比で11%削減できる見込みである。このほかに、ひさし等を用いて遮光したり、気密性の高い窓、断熱性の高い壁を採用する方法もある。また、自然換気や太陽光を利用するための設計も採用されている。


図3 平均的オフィスビルに対し複合的に省エネ対策を適用したケースのイメージ
出典:環境省「感覚環境の街作り」報告書(平成18年12月)


2)ビル内で使われるシステム

この例には、高効率照明や深夜電力を利用した冷暖房設備等の省エネ型機器の使用がある。他に、コージェネレーションや燃料電池、太陽光発電の採用も挙げられる。さらに、近隣のクリーンセンターから供給される温水や河川等の冷水を利用して、冷暖房の熱源に利用する技術(ヒートポンプ)もある。なお、本解説項目で詳細を解説していないもの(コージェネレーション燃料電池太陽光発電ヒートポンプ高効率照明 など)については、それぞれの解説を参照されたい。


3)機器やシステムの運用方法

省エネに配慮した、機器やシステムの運用方法に、BEMS(Building Energy Management System;ビルエネルギーマネジメントシステム)がある。BEMSとは、ビル内部の空調および照明の出力を、室内の人数などの状況に応じて細かく制御することにより省エネを図る技術である。詳細は、BEMSの解説を参照されたい。


図4 エネルギー効率の一層の改善等
出典:環境省「中央環境審議会 第10回 21世紀環境立国戦略特別部会」 資料


本解説項目では、ビル等の建築物を対象に、電力消費およびCO2排出量の削減を見込める設備等についての省エネ技術と、それらを盛り込んだ施工事例を解説することとする。


3.ビル設備の省エネ技術

省エネビルで採用されている主な省エネ技術および機器のうち、採用事例が多い、変圧、照明、空調・冷暖房に関する技術を以下で紹介する。

1)変圧(アモルファス変圧器)

変圧器とは、発電所等から送られてくる高圧電流を低圧に降圧して、工場やビルで使えるようにする機器のことである。工場やビルに限らず、変電所で使われている大型のものから、住宅地の電柱等で見られる小型のものまで、様々なものがある。

変圧器の寿命は通常20~30年であるため、省エネ化による累積効果は大きなものになる。アモルファス変圧器は、従来製品と比較して、総損失で40%程度の削減が期待できるとされている。

アモルファス変圧器(図5)とは、鉄心部分に「アモルファス合金」を使用することにより、無負荷損(付加電流の大きさとは無関係に通電しているだけで生じる)の大幅な削減を見込んだものである。アモルファスとは「規則性がない」という意味であり、同合金は金属を高温に熱して急速に冷却することで作られる、金属原子がランダムに配置された状態の固体である。そのため、合金内の電子の移動に妨げが無いため、他の合金に比べて効率よく電流を流すことができる。

なお、負荷損(高圧電流を低圧にする際に生じる)は変圧回路に流す電流の大きさの二乗に比例して大きくなるため、一般に、電力消費の多い昼間の方が、夜間よりも大きくなる。深夜電力が昼間電力と比較して割安な要因の一つである。

図5 アモルファス変圧器と、アモルファス合金の模式図
出典:(株)日立製作所「アモルファス変圧器」


2)照明

本解説項目で紹介するHf型ランプの詳細な解説は、「高効率照明」の解説項目に掲載されているので参考にされたい。

  • 光センサーによる自動減灯・減光

    執務スペースの窓側や窓に面したロビー空間などの天井部に明るさセンサーを設置し、机上面照度を監視するシステムである。昼光により照度が高くなった場合、センサーがこれを感知し、自動的に照明器具の出力を下げ、消費電力を削減する。なお、一定以上の削減効果を見込むためには、連続調光が可能でかつ高効率のHf型ランプを適用することが条件となる。

    Hf型ランプとは、高周波点灯専用(Hf:High Frequency)形の蛍光灯のことで、専用の電子安定器(インバータ)と組み合わせて用いられる。電子安定器によって様々な周波数の交流電流が出力でき、それによって細かい光度調節が可能である。

  • 人感センサーによる点灯制御

    トイレや湯沸室の照明器具を人感センサー付きの器具とする。無人の状態が一定時間以上経過すると自動的に消灯し、消費電力を削減する。あるメーカーの試算によると、電力消費の削減量は、Hf形ランプの場合で40%、ラピッド式スタート形ランプ(スイッチを入れてすぐに点灯するように改良されたランプで、Hf式が普及する前は主流だった)の場合で60%である。

  • インテリジェント照明

    図6は、関電ビルディング(2.3)(2)参照)で採用されている「インテリジェント照明」というシステムである。これは、照度センサーと人感センサーを3.6×3.6m毎に配置し、自然光を利用した減光制御、初期照度補正、不在エリアの減光・消灯制御により、照明エネルギーの大幅な低減を実現するものである。図6の例では、減光されている部屋に入室したとき、歩く経路に沿って照明が点灯し、着席後しばらくすると席以外のエリアの照明が減光される。執務者の周辺から不在エリアに行くにしたがって段階的に減光することにより、執務のための照度を確保しつつ省エネルギーを図っている。なお、夜間休日には、部屋は消灯されており、入室して着席すると、しばらくして周辺は消灯される。


図6 関電ビルディングのインテリジェント照明イメージ
出典:大阪府「建築物の環境配慮技術手引き」




3)空調・冷暖房

  • 全熱交換器

    全熱交換器とは、ビル内部の空気を換気するとき、内部の空気と外部の空気の持つ熱も交換することで、ビル内部の温度を極力一定に保ち、冷暖房による追加のエネルギー消費を抑える装置である。

    一般に、外気負荷(ビル外部の空気を取り入れ、ビル内部の温度にするまでに必要なエネルギー消費量)は空調負荷(冷暖房の全エネルギー消費量)の1/3程度を占めるとされている。そのため、なるべく熱損失を抑えて換気することが、省エネに繋がる。全熱交換器を採用することで、外気負荷の70%を削減することができるとされている。

  • 蓄冷熱空調システム

    蓄冷熱空調システムとは、電力が割安な深夜電力を利用して、冷水や氷、温水等の形で熱源を作り出し、それを利用して昼間の冷暖房による電力需要が大きい時間帯の最大消費電力を抑える(ピークカット)ことで、コスト削減を見込む技術である(図7)。深夜電力は昼間に比べて余剰電力が多く、それを有効利用していることから、CO2排出量の削減に寄与できる技術でもある。


図7 蓄熱利用冷房のイメージ
出典:三菱電機(株)「ビル用マルチエアコン」


4.省エネビルの例

1)汐留タワー(東京都)

図8は、汐留タワー(東京都)に盛り込まれた環境配慮技術の概要である。同タワーは地上38階、地下4階の建築物で、「人と環境にやさしい超高層ビル」というコンセプトで設計・施工された。ビルの上層階はホテル、中・下層階はオフィスで構成されている。

同タワーで採用されている省エネ技術の多くは、空調および冷暖房に関するものである。その中心となるのが、“ハイブリッド空調システム”である。この方式は、夏季は、建物の冷房需要がピークに達する午後の時間帯になる前(早朝)に建物全体を冷却しておくことで、ピーク時の消費電力を抑える(アクティブ方式)。一方、夜間が比較的冷涼な春季および秋季は、夜間外気を利用して昼間に蓄積した建物内の熱を冷却する(パッシブ方式)。このビルは自然の換気を取り入れやすい構造を取り入れ、アクティブ方式とパッシブ方式の両方を効率的に行えるように配慮されている。これに加えて、地下部の冷水を低温熱源として利用することで、さらに電力消費を抑えることができる。

また、ビルの外装材にはテラコッタタイルという、国内の土を素材とする陶磁器タイルを使用しており、資源循環性に配慮している。さらに同タイルは、従来のアルミカーテンウォールと比較して、製造工程におけるCO2排出量を4割弱削減できるという。


図8 汐留タワーの環境配慮技術概要
出典:(一財)建築環境・省エネルギー機構「環境・エネルギー優良建築物マーク交付一覧」


2)関電ビルディング(大阪府)

同ビルは、関西電力(株)の新本店ビルとして、「効率経営の推進拠点」「社会との共生・共感の場」「環境共生のモデルビル」をコンセプトに掲げて計画された。図9は、同ビルに盛り込まれた省エネ技術の概要である。(1)の例同様に、冷暖房および空調に関する技術が中心的である。

図10は、同ビルの窓周りの省エネ技術の模式図と、その効果である。エコフレームと称する窓面から1.8m外に出した柱・梁が庇(ひさし)の機能を果たし、夏期の日中における日射を効果的に遮蔽し、冷房負荷を大幅に低減する。さらに、エコフレームは、風雨の影響を受けにくい庇下部から自然風を室内に導く自然換気や、庇下部まで室内天井をおりあげて確保した採光高窓など、自然エネルギーを最大限利用できる、環境にやさしい窓周りシステムとなっている。なお、南面には太陽光パネルが設置されている。この他にも、河川水を利用したヒートポンプによる冷暖房システムなどを採用している。

これらの技術により、同ビルでは、特殊用途を事務所用途に置き換える等して補正し一般的な事務所ビルと比較した場合、約30%の省エネルギー性能を達成している。また、ライフサイクルCO2(建築物の製造から使用、廃棄までの過程全体で発生するCO2)についても30%近い低減が期待できるという。


図9 関電ビルディングの環境配慮技術概要
出典:大阪府「建築物の環境配慮技術手引き」


図10 関電ビルディングの窓廻りの省エネ技術
出典:大阪府「建築物の環境配慮技術手引き」


5. 技術を取り巻く動向(環境省の取組)

1)「学校エコ改修と環境教育」事業

「学校エコ改修と環境教育」(エコフロー事業)は、環境省が文部科学省、農林水産省、経済産業省と連携協力して、環境に配慮した学校施設のモデル的整備を推進している「エコスクール・パイロットモデル事業」の1つである(図11)。

エコフロー事業は、2003年度に行われた環境省主催のNGO.NPO/企業環境政策提言において優秀提言に選定された提言を具体的に事業化したものである。その内容は、ヒートアイランドの抑制・温暖化防止の対策事業として、既存の学校校舎をエコ改修するにあたり、その改修の過程や改修された校舎を、児童のみならず、地域住民や地域の建築技術者など、社会人に対する環境教育の教材としても活用していこうとするものである。

また、平成21年4月に緊急経済対策として「スクール・ニューディール」構想がとりまとめられ、同構想において従来の学校エコ化のさらなる推進に加えるとしている。特に、太陽光発電の普及については、公立小中高等学校において、早期に現在の約10倍の学校施設への設置を目指すとするなど、重点的に取り組む姿勢を示している。

図11 エコスクール(環境を考慮した学校施設)の趣旨
出典:文部科学省「平成16年度文部科学白書」


2)拠点的市街地等における地区・街区レベルの包括的都市環境対策

環境省はCO2削減に意欲的な地区や街区を支援する事業「先導型都市環境形成総合支援事業」を策定し、個別ビルの枠を超えた大規模な省エネ活動を展開している(図12)。このように単一のビルだけではなく、複数のビル間の連携による省エネも今後ますます重要になっていくと考えられる。

図12 先導型都市環境形成総合支援事業の創設
出典:環境省「中央環境審議会 第11回 21世紀環境立国戦略特別部会 資料」


3)業務部門対策技術率先導入補助事業

環境省は地方公共団体および民間事業者が所有する業務用施設に、先進的な省エネ・新エネ設備整備等の対策技術導入など率先的な取り組みを行う事業に対して補助を行っている(図13)。

図13 業務部門対策技術率先導入補助事業
出典:環境省「平成21年度環境省予算要求・要望主要新規事項等の概要」


引用・参考資料など

・環境省ウェブサイト

・(株)日立製作所 「アモルファス変圧器」

・大阪府 「建築物の環境配慮技術手引き」

・三菱電機株式会社「ビル用マルチエアコン」

(一財)建築環境・省エネルギー機構

・文部科学省「文部科学白書」

・温室効果ガスインベントリオフィス(国立環境研究所)「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」

<コンテンツ改訂について>
2013年1月:初版を掲載