環境技術解説

エコマテリアル

持続可能な社会を形成するためには、製品や技術の基盤となる「材料」の環境配慮が重要です。今回は、環境負荷の高い従来の材料に代わるエコマテリアルの事例を紹介します。

※掲載内容は2015年6月時点の情報に基づいております。
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1.エコマテリアルとは

エコマテリアルは、優れた機能や特性を持ちながらも、人にも環境にも優しい材料です。日本の材料研究者の議論の中で1991年に生み出された概念で、「地球環境に調和し持続可能な人間社会を達成するための物質・材料」と定義されました[1]。例えば、リサイクルできる材料や有害物質フリーの材料の他、少ないエネルギーやクリーンな条件で製造できる材料、汚れた水や空気をきれいにする材料、少量で高い性能を発揮できる高効率・省資源な材料などもエコマテリアルと考えられています。また、環境調和型エネルギーシステム(例:太陽光発電、燃料電池など)を実現するために必要な材料もエコマテリアルと位置付けられています[2]

図1 エコマテリアルの性能 (西村ら「エコマテリアルの動向―地球環境問題への材料学のアプローチ―[1]、原田「エコマテリアル―21世紀に向けた材料の新しい課題―[3]をもとに作成)
エコマテリアルは、材料の特性(フロンティア性)、人への優しさ(アメニティ性)、環境への優しさ(環境調和性)の3軸の最大化が目標です。


2.エコマテリアルが必要な理由

これまでの「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の社会は、私たちの暮らしを豊かで便利なものにしました。一方で、資源・エネルギーの消費の増大とそれに伴う廃棄物の大量発生、天然資源の枯渇、資源採取に伴う自然破壊、埋立処分場の問題など、環境に対するさまざまな悪影響を生じることとなりました[4]。今後も持続可能な発展を続けていくためには、「循環型社会」の形成が求められています。

このような社会では、製品等の原料調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で環境負荷を低減させることが求められます。そのためには、製品に使われる「材料」や技術の基盤となる「材料」の環境配慮も重要です。

循環型社会について知りたい

[環境問題基礎知識] 循環型社会の同床異夢:リサイクル社会から持続可能な社会まで (国立環境研究所ニュース24巻6号)
循環型社会がどのような社会であるかのイメージは、その言葉を用いる人によって異なっているようです。このページでは、日本の環境行政における2つの出来事を例に「循環」の意味を読み解きながら、循環型社会の姿を考えていきます。


3.エコマテリアルの主な事例

エコマテリアルは、徐々に身の回りの製品・サービスや技術に採用されるようになってきました。ここでは、エコマテリアルの主な事例を材料分野別に紹介します。

[1] 金属材料

事例 概要 関連する環境技術解説
鉛フリーはんだ RoHS指令の対象でもある有害性の高い鉛を含有しないはんだ 化学物質管理
自動車用高張力鋼板(ハイテン) 従来の鋼板と同じ強度を保ちながら、車体の軽量化による燃費向上を実現する鋼板 リデュース技術
発電用の耐熱材料 タービン入口温度の向上を可能にすることで、発電効率を向上させる耐熱合金やセラミックスなどのタービン翼材 コンバインドサイクル発電

[2] プラスチック

事例 概要 関連する環境技術解説
リサイクルしやすいプラスチック 熱可塑性樹脂などリサイクルやリユースが容易なプラスチック 環境配慮設計(自動車にポリプロピレン樹脂を採用した例)
生分解性プラスチック 微生物と酵素の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解されることから、廃棄物処理問題の解決につながると期待されるプラスチック 生分解性プラスチック

[3] 電子材料

事例 概要 関連する環境技術解説
発光ダイオード(LED) 大きな省エネ効果が得られ、寿命が長いことが大きな特徴のLEDは、一般照明用の他、農業での利用として、作物の生長過程にあう波長の光を選択することによる生長促進、栄養素含量の増加、病害への抵抗性の増大などの効果が注目される材料 高効率照明
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL) 照明器具として期待されているだけでなく、低消費電力のカラーディスプレイとして商品化されている材料

[4] 建築材料

事例 概要 関連する環境技術解説
再生骨材 建設廃棄物や産業副産物、溶融スラグ、下水汚泥などを原料として製造された建築資材 再生材利用土木資材
汚泥処理・資源化
路盤材
透水性ブロック
再生加熱アスファルト

[5] 塗料

事例 概要 関連する環境技術解説
高反射率塗料 建物の屋根などに塗布されることで太陽光エネルギーを反射して建物や地域環境の温度の上昇を緩和する塗料 ヒートアイランド対策技術

[6] 触媒

事例 概要 関連する環境技術解説
光触媒 光のエネルギーを利用して、化学物質や微生物を分解することで浄化・防汚効果等をもたらす触媒 光触媒
脱硝触媒 工場や発電所、ディーゼル自動車より排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を低減させる触媒 排煙脱硝技術
クリーンディーゼル

4.2020年オリンピック・パラリンピックとエコマテリアル

オリンピック・パラリンピックの理念の一つに「環境」が掲げられています。1999年には、国際オリンピック委員会(IOC)が採択したオリンピックムーブメンツアジェンダ21には、「持続可能性」に向けて取り組む方法も記述されました[5]

東京都は、2015年3月に『「持続可能な資源利用」に向けた取組方針』を策定しました。この中では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックと、その後を見据えて、持続可能な資源利用を進めるための柱の1つとして、エコマテリアルの利用の促進を掲げています。

図2 東京がめざす姿と3つの柱 (東京都報道発表資料をもとに作成)
製造・供給者・使用者等全ての主体が、それぞれの資源を使う・処分する活動のなかで、(1)資源ロスの削減、(2)エコマテリアルの利用、(3)廃棄物の循環利用、の3つの行動を進めていくことにより、「活動に必要な資源の継続的な確保」と「資源利用に伴う環境影響を回避」していくとしています。

2020年オリンピック・パラリンピックに向けた国の施策

  • [環境省]2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を契機とした環境配慮の推進について
    大会自身の環境負荷の低減と、大会を契機とした東京都市圏を含む我が国の環境配慮の推進に向け、環境省が主体となって当面取り組む事項として、(1)低炭素化の推進、(2)ヒートアイランド対策の推進、良好な大気・水環境の実現、(3)リデュース・リユース・リサイクル(3R)の徹底、(4)情報発信・おもてなし等を挙げています。

<課題例> 再生骨材コンクリートの利用の促進

東京都は、持続可能な資源利用に向けた取組を進めていく際には、「世界的に対応が求められている課題」や「東京での資源消費量・廃棄物排出量が大きいもの」について重点的に取り組んでいく必要があるとしています。そこで、東京都は、優先的に取り組む必要がある課題の1つとして、建物などの解体工事から発生したコンクリート塊を活用した再生骨材コンクリートの利用の促進を挙げています。

東京都によると、東京は、鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造の建築物の着工床面積で全国の21.6%(2014年)を占めていますが、高度経済成長期に建築された建物やインフラが更新期を迎えていることから、これに伴う資源消費やコンクリート塊などの廃棄物が増加することが見込まれています。解体工事から発生したコンクリート塊は、これまでは主に再生砕石として道路の路盤材などに利用されてきましたが、需給のギャップが生じ始めています。また、自然の保全・自然環境保護の観点からも、東京都は、再生砕石などの更なる用途拡大や利用促進策についての検討を進め、コンクリート塊のリサイクルを一層推進していくとしています。

図3 再生骨材コンクリート(出典:東京都報道発表資料)
再生骨材コンクリートは、解体工事等から生じたコンクリート塊から製造した再生骨材を使用したコンクリートです。再生骨材は、その品質によってJISに規定され、再生骨材L、再生骨材M、再生骨材Hに分類されます。


5.まとめ

持続可能な社会を形成するためには、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減させることが求められます。そのためには、製品に使われる「材料」や技術の基盤となる「材料」の環境配慮が重要です。今後も、あらゆる産業分野において、従来の材料をエコマテリアルに代替することへの要請が強まると考えられます。ここで紹介した事例の他にも、多くの材料の技術革新が進行中であり、エコマテリアルの開発がますます進むことが期待されます。

なお、エコマテリアルに関する議論については、一般社団法人 未踏科学技術協会 エコマテリアル・フォーラム などが中心となり先導的役割を担って展開すると共に、議論のプラットフォームの場を提供しています。

最近の開発動向

国内ニュース
エコマテリアルは、技術の進歩とともに日々増え続けています。環境展望台の国内ニュースでは、最新の開発動向を企業・研究機関等のニュースから随時紹介しています。

参考文献

[1] 西村睦, 多田国之. エコマテリアルの動向―地球環境問題への材料学のアプローチ―. 科学技術動向. 2002, 019, p.29-37.

[2] 一般社団法人 未踏科学技術協会 エコマテリアル・フォーラム

[3] 原田幸明. エコマテリアル―21世紀に向けた材料の新しい課題―. 日本金属学会会報. 1992, vol.31, no.6, p.505-511.

[4] 経済産業省. 資源循環ハンドブック: 法制度と3Rの動向. 2014. 98p.

[5] 日本オリンピック委員会. 環境とオリンピック・ムーブメント.

[6] 東京都. 「持続可能な資源利用」に向けた取組方針を策定. 報道発表. 2015.

[7] JIS A 5023 : 2012. 再生骨材Lを用いたコンクリート.

[8] JIS A 5022 : 2012. 再生骨材Mを用いたコンクリート.

[9] JIS A 5021 : 2011. コンクリート用再生骨材H.

2015年7月6日:初版を掲載