気候変動影響評価報告書 総説(2025年度版)
発表日:2026.02.16
この報告書は、わが国における気候変動影響を体系的に把握するために取りまとめたものである。最新の科学的知見 2,186 件を基礎として、農業、水資源、自然生態系、災害、健康、産業、国民生活の 7 分野・80 項目を対象に、影響を「重大性」「緊急性」「確信度」の三指標から総合的に評価している。三指標の統一的整理により、分野間の比較可能性が高まり、政策立案や適応計画策定に資する評価体系が一層明確となった点が、本版の特徴である。
評価手法は、IPCC第6次評価報告書および英国CCRA3の方法論を踏まえつつ、国内向けに再構築されたものである。重大性は〈現状(約1℃上昇)〉・〈1.5〜2℃上昇時〉・〈3〜4℃上昇時〉の三段階で影響を捉え、不可逆性・閾値・連鎖的影響などを含む多基準で判定する。緊急性は、影響の発現時期と適応策が効果を発揮するまでの“リードタイム”を比較し、早急な意思決定が不可欠かを評価する。確信度は、知見の種類・量・整合性、ならびに見解の一致度を基礎に三段階で示される。これらは分野横断的に統一された枠組みであり、各項目の評価表において整然と比較できるよう設計されている。
今次報告書によれば、現状段階でも既に52項目(65%)が「重大性レベル2(重大)」以上に分類され、23項目(29%)は「レベル3(特に重大)」に到達している。影響が将来の懸念ではなく「既に顕在化している」との位置づけは、本報告書の中心的示唆である。また、緊急性では54項目(68%)が「レベル3」とされ、適応策の効果発現に要する時間を踏まえると、現時点での迅速な意思決定が不可欠であることを示している。確信度については39項目(49%)が「レベル3」に達し、知見の充実が評価の精緻化に寄与していることが確認された。
深刻度・緊急性・確信度の三指標がいずれも高い項目としては、水稲の品質劣化・果樹の着色不良・沿岸生態系のサンゴ白化・洪水の頻発化・熱中症増加・インフラの脆弱化などが挙げられる。これらは、自然科学的プロセスと社会経済的影響が渾然一体となって連鎖的に現れる典型例であり、特に地域社会・産業基盤・健康リスクが同時に増幅する様態が明瞭に示されている。――本報告書は、こうした複合的影響の重要性を強調するとともに、次期適応計画において優先的に取扱うべき領域を示唆している。
▲ページ先頭へ
新着情報メール配信サービス
RSS