立命館大学と京都大学を中心とする研究グループは、プラスチック原料として広く使用される「ビスフェノールA(BPA)」が、レチノイン酸(RA)と共存する環境下で、神経や頭蓋顔面の発生に異常を引き起こすことを明らかにした。研究成果は2025年5月14日、米国の科学誌「Environmental Health Perspectives」に掲載された。
BPAは、これまでエストロゲン様作用による内分泌かく乱が主に注目されてきたが、本研究では、RAと同時に曝露された場合に、RAシグナルを異常に増強し、発生初期のゼブラフィッシュ胚において脳や神経、頭蓋顔面骨格の形成異常を引き起こすことが示された。厚生労働省の資料によれば、日本では、食品容器などからのBPAの溶出量に対して厳しい規制(2.5 ppm以下)が設けられており、事業者による代替素材への切り替えも進んでいる。一方、RAはビタミンA由来のシグナル分子で、胚発生における前後軸形成や中枢神経系の発達に重要な役割を果たす。
この研究では、ヒトiPS細胞およびゼブラフィッシュ胚を用いた実験により、RA単独では軽微な影響しか示さなかったhox遺伝子の発現が、BPAとの併用により数十〜数百倍に増加することが確認された。さらに、後脳形成に関わるhoxb1a遺伝子の発現領域が前方にシフトし、マウスナー神経や頭蓋顔面軟骨の異常頻度が有意に増加した。結果は、BPAがRAの毒性を増強することで、神経発生や形態形成に多様な異常をもたらす可能性を示しており、環境中に存在する低濃度のRA様物質とBPAの共存が、胎児期の発達に影響を及ぼすリスクを示唆している。──研究代表の高田達之教授は、「本研究は、化学物質が生物の体づくりに与える影響を評価するための新たな視点を提供するものであり、iPS細胞を用いた評価系の有効性も示された」と述べている。
情報源 |
立命館大学 プレスリリース(メディア向け)
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機関 | 立命館大学 京都大学 |
分野 |
健康・化学物質 |
キーワード | ビスフェノールA | 内分泌かく乱物質 | iPS細胞 | シグナル伝達経路 | ゼブラフィッシュ | レチノイン酸 | 神経発生異常 | 頭蓋顔面形成 | HOX遺伝子 | 発生毒性 |
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