環境技術解説

アスベスト対策技術

アスベスト(石綿)は、これまでに約1,000万トンが輸入され、耐熱性、耐候性などが高いことから、その大半が建材として建築物に使われてきました。しかし、アスベストによる健康被害が深刻な社会問題となり、吹付けアスベストが1975年に原則禁止されて以降、数次にわたってアスベストの製造や使用に関する規制が行われました。2012年3月からは、アスベスト及びアスベストをその重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供及び使用が全面的に禁止されています。

アスベストが使われた建築物の老朽化が進み、建て替えや改修の時期を迎えているなかで、これらのアスベストを安全かつ早期に処理することが求められています。今回は、主に建築物に使われているアスベストの除去技術について、その概要をご紹介します。

※掲載内容は2017年1月時点の情報に基づいております。
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1.アスベスト製品

アスベストは、図1のとおり40年以上の長期にわたって大量に輸入されてきました。

図1 石綿の輸入量の推移(財務省貿易統計)
出典: 環境省「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」
http://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/manual_td_1403/

こうして輸入されたアスベストは、耐薬品性、耐火性、断熱性、防火性、保温性、耐候性電気絶縁性、吸音性などに優れ、加工しやすく安価なことから、表1のように各種のアスベスト含有製品が作られてきました。

ところが、アスベストによる中皮腫やがんの発症など、健康被害の実態が明らかになり、これらアスベストを使った製品を早急に処理し、健康被害のリスクを低減することが求められていました。2006年10月には「石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止等の一部を改正する法律」及び改正建築基準法施行令が施行され、アスベスト使用の規制強化やアスベスト飛散防止対策の推進が図られました。さらに2014年6月には「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が施行され、建築物解体などの工事の前にアスベストの有無の確認が義務付けられています。

表1 主なアスベスト含有製品
  • 鉄骨等の耐火被覆・結露防止としての吹付けアスベスト
  • アスベスト含有吹付けロックウール
  • アスベスト含有吹付けひる石(バーミキュライト)
  • 建築物の天井、壁、外壁、屋根材、煙突材としてのアスベスト含有窯業系建築材料
  • ビニル床タイル
  • 自動車、鉄道車両、産業用(エレベーター、クレーン等)のブレーキ、クラッチ等のアスベスト含有摩擦材
  • 上下水道管用、温泉配管、給排水管としてのアスベスト管
  • 石油プラント、ボイラー・タービン本体及び配管へのアスベスト含有保温材、同塗材
  • アスベスト含有パッキン・ガスケット
  • 防火カーテン等のアスベスト紡織品
  • 耐熱性を有する箇所の接着としての接着剤 など
※アスベストを含有する建材に関する情報については、石綿(アスベスト)含有建材データベースを参照してください。

2.建築物へのアスベスト使用状況の事前調査

建築物に使われた吹付けアスベストを露出状態のまま放置すると、劣化などによってその繊維が飛散するおそれがあり、住民や利用者にとってばく露の危険性につながります。また、アスベストを板状に固めた製品である石綿成型板や、天井裏・壁の内部にある吹付けアスベストからは、通常の使用状態では室内に繊維が飛散する可能性は低いと考えられていますが、建築物自体の老朽化によって解体、改修などが行われる際に、住民や利用者だけでなく工事作業者にもばく露の危険性が生じます。

図2 劣化が進んだ吹付けアスベストの例
出典:中皮腫・じん肺・アスベストセンター「写真で見る石綿(せきめん・いしわた)・アスベスト製品」 http://www.asbestos-center.jp/asbestos/byphoto/

2006年の改正建築基準法以降、どこに吹付けアスベストなどが使用されていても既存不適格の建築物になります。また、2014年の大気汚染防止法改正より、建築物の解体・改修時などにアスベストの有無を調査・届出する義務を負うのは工事発注者となり、確認しないまま工事に着手しアスベストを飛散させることのないよう定めています。

なお、アスベスト使用の有無を判断する手段として表2のように、設計図書などによるもの、目視調査によるもの、分析調査によるものがあります。

表2 アスベスト使用有無の判断方法
設計図書などによるアスベスト使用有無の判断フロー
目視調査等によるアスベスト使用有無の判断
アスベスト含有吹付け材には、吹付けアスベストやアスベスト含有吹付けロックウールなどがありますが、アスベストを含有しない吹付け材と見分けるのは実際には難しいので、明らかに判断できる場合以外は分析調査を行う必要があります。
分析調査
設計図書等、あるいは目視調査等によるアスベスト使用有無の判断を行っても、その含有の有無が判定できない場合は、該当する吹付け材を採取しその試料を分析します。この分析は高度な技術を必要とされることから、専門の機関に依頼することが望ましいとされています。(建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6 付録2.3)

3.アスベストの飛散防止措置

建築物の解体時には、原則として解体に先立って、吹付けアスベストやアスベストをその重量の0.1%を超えて含有する吹付けロックウール、アスベストを含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材などの特定建築材料を「除去」しなければなりません。また、特定建築材料のある既存建築物については、増改築、大規模な修繕・模様替えの際に、原則として特定建築材料を除去することとされていますが、ある条件下では「封じ込め」あるいは「囲い込み」の措置も許容されます。

アスベストの飛散防止措置としてあげられた「除去」「封じ込め」「囲い込み」の内容や特徴を整理すると次のようになります。

表3 アスベストの飛散防止措置の種類と特徴
項目 除去 封じ込め 囲い込み
内容 吹付けられたアスベストなどをすべて除去して、他のアスベストを含有しない建材などに代替する方法 吹付けられたアスベストなどの表面に固化剤を吹付けることにより塗膜を形成すること、または吹付けられたアスベストなどの内部に固化剤を浸透させ、アスベスト繊維の結合力を強化することにより吹付けられたアスベストなどからの発じんを防止する方法 アスベストなどが吹付けられている天井や壁、またアスベスト含有保温材が使用された配管などを、アスベストを含有しない建材で覆うことにより、アスベストなどの粉じんを室内などに発散させないようにする方法
適用できる例
  1. 表面がもろいか、吹付け石綿が基層によく接合していない場合
  2. 石綿含有吹付け材などが漏水により著しい損傷を受けていたり、劣化・剥離が進行したりするおそれがある場合
  3. エアコンダクト内にある場合
  4. 空気中の石綿粉じんの濃度が高い場合
  5. 他の防止技術が適当でない場合
  1. 除去作業が困難か、不適当な場合
  2. 基層にしっかり接合している場合
  3. 損傷を受けにくい場合
  4. 構造物の耐用年数が短い場合
  5. 定期点検が十分であり、目で見てすぐわかる場合
  1. 除去工事が極端に困難な場合
  2. アスベスト繊維が囲い込みの中に完全に密封できる場合
  3. 特定建築材料の大部分に近づけない場合
  4. 囲い込む場所が狭くては入れないか、中に入ることがまったくできない場合
適用できない例
  1. アスベスト含有吹付け材等が複雑に組み込まれており、表面に近づけない場合
  2. 除去作業が極端に困難で、他の満足すべき代替技術がある場合
  1. アスベスト含有吹付け材等が老化・剥離しかけている場合
  2. 薬剤の使用によって建材に損傷を与えるおそれがある場合
  3. 漏水・振動によって損傷を受けるおそれがある場合
  4. アスベスト含有吹付け材等の損傷範囲が大きい場合
  1. 囲い込みが原因で損傷を受けるおそれがある場合
  2. 漏水による損傷を受けるおそれがある場合
  3. 特定建築材料の全面を完全に囲い込みができない場合
長所
  1. 危険性が除去される
  2. それ以上の対策を必要としない
  1. 早くて短期的には経済的な方法
  2. 石綿粉じんの飛散を防止する簡便な手段
  1. 建築物居住者への工事に伴う粉じんばく露のおそれが除去より少ない
短所
  1. 除去作業の従事者に直接汚染の危険が高まる
  2. 建築物内でのその他の作業に支障がある
  3. 一般的に工費が高く、複雑で工事期間が長くなる
  4. アスベスト除去によって建築物の防耐火性等が減少するので、代替品が必要になる
  5. 除去作業が不完全な場合は、建築物全体や周辺環境へ汚染を引き起こすおそれがある
  1. 危険性は依然として残る
  2. 工事部分が大きいと工費は除去工法と変わらなくなる
  3. 建築物の使用におけるアスベスト管理計画を立て、処理後の維持管理に留意する必要がある
  4. 除去工事が必要となったとき、工事がより難しく、費用がよりかかるようになる
  1. 危険性は依然として残る
  2. 囲い込み施設のメンテナンスを続けなければならない
  3. 建物の使用における石綿管理計画を立てる必要がある
  4. 石綿除去工事を行う必要が生じたとき、囲い込み施設も撤去しなければならないので費用がよりかかる

4.除去の方法

特定建築材料の除去方法は、開発、施工会社によって使用する処理剤の違いや工法など種々さまざまです。ここでは、「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」(環境省水・大気環境局大気環境課)に記載されている特定建築材料の除去作業手順を紹介しますが、具体的な除去の方法は各事業者によって工夫されています。

図3 アスベストの除去とウォータージェット工法
出典:(左)中皮腫・じん肺・アスベストセンター「写真で見る石綿(せきめん・いしわた)・アスベスト製品」
http://www.asbestos-center.jp/asbestos/byphoto/index.html
(右)環境省「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」
http://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/manual_td_1403/

図4 石綿含有吹付け材などの除去作業手順
出典:環境省「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」
http://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/manual_td_1403/

5.アスベスト粉じん飛散防止処理技術の現状と今後

アスベスト粉じんの飛散防止処理技術は、これまでに数多く開発されています。これらの技術のうち、一般財団法人日本建築センターが建設技術審査証明事業に基づいて審査・証明した技術については、「吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術一覧」に紹介されています。この他、研究機関、建設業、化学工業などさまざまな分野の企業が、現在も処理技術の研究開発に努めています。

現在、粉じん飛散防止処理剤も不燃性の高い無機系のものが開発されたり、ドライアイスや砂などの研磨剤を空気噴射する除去方法なども開発されたりしています。今後もさらに、住民や利用者、工事作業者などの安全を確保し、確実にアスベストを除去できる処理剤や工法、また廃棄アスベストの処理方法などについて、一層の研究・開発が期待されています。

引用・参考資料など

[1] 環境省. "石綿(アスベスト)問題への取組".
http://www.env.go.jp/air/asbestos/index.html, (参照2017-01-25).

[2] 厚生労働省. "アスベスト(石綿)情報".
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/index.html, (参照2017-01-25).

[3] 国土交通省. "アスベスト問題への対応".
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/asubesuto/top.html, (参照2017-01-25).

[4] 文部科学省. "アスベスト対策への取組".
http://www.mext.go.jp/submenu/05101301.htm,(参照2017-01-25).

[5] 住宅情報提供協議会. "住宅とアスベスト". 住まいの情報発信局.
http://www.sumai-info.jp/asbestos/, (参照2017-01-25).

[6] 一般財団法人日本建築センター. "アスベスト情報のページ".
http://www.bcj.or.jp/c12_rating/category/asbestos/asbestos01.html, (参照2017-01-25).

[7] 中皮腫・じん肺・アスベストセンター.
http://www.asbestos-center.jp, (参照2017-01-25).

[8] 環境省. 建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6. 2014,
http://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/manual_td_1403/, (参照2017-01-25).

[9] 中皮腫・じん肺・アスベストセンター. 写真で見る石綿(せきめん・いしわた)・アスベスト製品.
http://www.asbestos-center.jp/asbestos/byphoto/index.html, (参照2017-01-25).

[10] 一般財団法人建材試験センター. 石綿(アスベスト)含有建材データベースサイト,
http://www.asbestos-database.jp, (参照2017-01-25).

(2017年1月現在)
2007年10月:掲載
2017年6月15日:改訂版に更新