理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループを中心とする国際共同研究チームは、植物が植物寄生線虫などの動物型病原体を分子レベルで認識する仕組みを初めて明らかにした(掲載誌:Science Advances)。
植物は、病原体に共通する分子構造(MAMPs)を認識して免疫反応を起こすことが知られているが、植物寄生線虫のような動物型病原体に対する認識機構は未解明であった。研究チームは、自由生活性線虫C. elegansの抽出液がモデル植物シロイヌナズナに免疫反応を誘導することを発見し、抽出液から活性物質を精製。その結果、分泌型トレハラーゼ由来のペプチド(TreCe24)が強力な免疫誘導活性を持つことを突き止めた。
さらに、根こぶ線虫由来の類似ペプチド(TreMi31)を用いた解析により、植物がこのペプチドを危険サインとして認識するために「LecRK-V.5」という受容体型キナーゼを用いていることが判明した。LecRK-V.5を欠損した植物では免疫反応が起こらず、導入した株では反応が回復したことから、この遺伝子がペプチド認識に不可欠であることが確認された。――驚くべきことに、同様のペプチドは病原性糸状菌やアブラムシなどの害虫にも存在し、植物はこれらにも同じ仕組みで反応することが分かった。これにより、植物が異なるタイプの病原体に対して共通の認識システムを用いて免疫応答を起こしている可能性が示された。
本研究は、植物寄生線虫、害虫、病原性糸状菌に共通する分子構造を植物が“危険サイン”として認識することを示し、広範な病原体に抵抗性を持つ作物の開発に向けた新たな基盤を提供するものである。今後、LecRK-V.5などの遺伝子を他の作物に導入することで、多様な病原体に対応可能な抵抗性作物の育種が期待される。
情報源 |
理化学研究所 研究成果(プレスリリース)
|
---|---|
機関 | 理化学研究所 農研機構 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 植物免疫 | 植物寄生線虫 | トレハラーゼ | MAMPs | LecRK | 受容体型キナーゼ | 病原性糸状菌 | 害虫抵抗性 | 分子認識 | 抵抗性作物育種 |
関連ニュース |
|