北陸先端科学技術大学院大学の吉岡秀和准教授は、アユ(Plecoglossus altivelis altivelis)稚魚の遡上に関する新たな数理的知見を発表した。従来、アユの遡上は日単位で観測されてきたが、本研究では10分毎の高解像度データを用いて、遡上の時間的変動を詳細に分析した。
注目すべきは、数理科学における「橋(Bridge)」と呼ばれる確率過程モデルを用いた点である。このモデルは、現象の終端に向かって係数が爆発する特異な性質を持ち、日の出から日の入りまでの間にのみ生じる遡上現象を記述するのに適している。このモデリングにより、アユの遡上が間欠的に発生し、1日平均1〜2回、1時間程度継続することが示された。
実観測は、世界農業遺産に指定される木曽川水系の長良川にて、水資源機構の協力のもと2023年・2024年に実施された。遡上数と水温の関係性、日内の揺らぎの大きさ(平均値の3〜6倍)などが明らかとなり、遡上が非常に予測困難な生物現象であることが示唆された。
本研究は、従来の人力観測による日単位データの限界を指摘し、観測手法の再考を促すものである。特定の時間帯に遡上が集中することから、観測時間の選定が推定結果に大きく影響する可能性がある。さらに、確率過程モデル「橋」の数学的解析も行われ、特定条件下で解が一意に定まることが証明された。アユの回遊行動の理解を深めるとともに、数理モデルの応用可能性を広げる成果と言える(掲載誌:Chaos, Solitons & Fractals)。