神戸大学大学院人間発達環境学研究科と兵庫県立大学自然・環境科学研究所の研究グループは、都市の多様な生育地環境が植物の進化を促進することを明らかにした。本研究は、京阪神地域に生育するツユクサを対象に、都市と里山の環境差が植物の形質に与える影響を解析したものである(掲載誌:Journal of Ecology)。
都市化は生物多様性減少の要因とされてきたが、近年、人間活動による高温化や富栄養化など新しい環境が生物の進化を促進する可能性が指摘されている。従来の研究は「都市」と「非都市」の二分法に基づく比較が多く、生育地の多様性が進化に及ぼす影響は十分に解明されていなかった。
本研究では、都市農地、公園、路傍、里山農地の23集団を対象に、生育環境(土壌pH、水分量、開空度、地表面温度)を測定し、共通圃場で栽培実験を実施した。さらに、MIG-seq法による遺伝解析を組み合わせ、形質分化(QST)と遺伝分化(FST)を比較した。その結果、都市の生育地では草丈が高く、葉面積が大きく、茎・葉の数が少ない傾向が確認され、特に路傍で顕著であった。また、都市農地では開花が遅れる一方、公園では早期開花が見られた。これらの形質分化は中立的な遺伝分化よりも大きく、都市環境への局所適応による進化であることが示唆された。
研究グループは、都市のヒートアイランド化や土壌の中性化が植物の形質進化に強く影響していると考察しており、今後は「複雑な都市環境を再現した実験により、適応のメカニズムを解明すること」が重要だと述べている。