南限のサケが遡上しなくなった?!水温上昇よりも餌不足が主因
発表日:2025.09.11
海洋研究開発機構(JAMSTEC)、水産研究・教育機構および東京大学の共同研究チームは、利根川におけるサケ(<i>Oncorhynchus keta</i>)の個体数減少の要因を解明するため、20年間にわたる粒子追跡シミュレーションを実施した(掲載誌:PLOS One)。
利根川は北太平洋西部におけるサケ分布域の南限に位置し、2013年には利根大堰での遡上数が18,000尾を超えたが、2024年にはゼロとなった。本研究では、JAMSTECの海洋再解析データ「JCOPE2M」を用いて、サケ稚魚に見立てた粒子の移動をシミュレーションした。しかし、海流の変化や致死水温の限界値を考慮した複数のシナリオを検討したが、いずれも近年の個体数減少を再現できなかった。
一方で、黒潮・黒潮続流および親潮の北偏による平均水温の上昇と、動物プランクトン量の減少が、利根川サケの個体群成長率の低下と相関していることが判明した。特に偏相関分析により、動物プランクトン量が主要因であることが統計的に示された。これは、サケ稚魚が海洋生活初期に十分な餌を得られないことが、生存率の低下につながっていることを意味する。
気候変動による海流の変化は今後も継続する可能性があり、利根川サケの再遡上の可否にも影響を及ぼすと考えられる。また、稚魚期だけでなく、成魚期の成長率や成熟率の低下、繁殖地への到達困難など、分布域南限の個体群が直面する課題は多岐にわたる。研究チームは、「動物プランクトン量の変動がサケの個体群動態に与える影響」を今後も継続調査する方針だ。