東京大学大気海洋研究所と三重大学は、「オカミミガイ」辺縁集団の遺伝的な違いを分析し、希少性が高い地域集団を特定した。オカミミガイは東アジアのみに分布するカタツムリの仲間(全長3 cm程度、アーモンドナッツ様)。干潟のヨシ原などの「塩性湿地」を好み、堤防工事等に伴う環境改変の影響を受けやすく、環境省RL2020では絶滅危惧Ⅱ類(VU)に記載されている。両大学は、オカミミガイが塩性湿地生態系の指標生物であるという視座から、全国7地域の集団(津、岡山、山口、宇佐、伊万里、佐賀、出水)および韓国の5集団について、ミトコンドリア遺伝子塩基配列の比較検証を行った。その結果、各集団が高い遺伝的多様性を示し、集団間の遺伝的交流の頻度も比較的高いことが明らかになったが、国内の集団間には有意な差異も確認された。とりわけ伊勢湾に面する「津」の集団は遺伝的に大きく分化していた。こうした分化の進行は、生息環境が飛び地的に分布することと、浮遊幼生期間が比較的短いことに起因すると考えられ、同地域集団の保全の重要性が示唆されたという。幼生期の長さや行動を含めた生態的知見を蓄積するとともに、他のオカミミガイ科絶滅危惧種についても集団構造を比較し、塩性湿地のベントス保全や生態系保全により一層貢献できる研究を進める、と今後の展望を述べている。