総合地球環境境学研究所(地球研)を中心とする国際的な研究者チームは、インド北西部に高密度観測ネットワークを構築し、「わら焼き排出粒子」の動態を定量化することに成功した。インド北西部(パンジャーブ州・ハリヤーナー州、デリー首都圏)では、農村地帯で行われている稲わらの野焼きが大気汚染を招き、甚大な健康被害への影響が懸念されている。このような情勢を踏まえ、地球研で2020年にAakash(アーカッシュ)プロジェクトが立ち上がり、日印協力を基調とする学際研究が進められている(アーカッシュ:ヒンドゥー語の意味は「空」)。同プロジェクトは“大気浄化、公衆衛生の改善、持続可能な農業への転換の実現に向けた社会変容を促すこと”を目的としている。本研究は、独自開発した小型大気計測器(CUPI-G: Compact and Useful PM2.5 Instrument with Gas sensors)の導入実証に相当するもの。安価で正確なCUPI-Gを活用した、広域的な大気汚染観測網により、発生源地域や飛来経路における PM2.5 濃度の綿密な測定を試行した。その結果、水稲収穫後(10~11月)のPM2.5濃度変化が明らかになり、インドの国家大気質基準を上回る高濃度イベントがしばしば発生していることが分かった。高濃度の PM2.5を含む空気塊が北西からの季節風によって輸送される過程を追跡することが可能となった。また、南東の風下側(デリー首都圏近郊)ほど高濃度になる傾向、すなわち輸送中の粒子の二次生成(化学反応により大気中でガスが粒子化する現象)を示唆する新知見も得られた。本成果は、CUPI-Gが特定の大気汚染物質に係わる長時間観測に適していることを物語っている。Aakashプロジェクトのリーダーは大気汚染物質の因果応報(排出者=被害者)についてコメントしており、プロジェクト目標の達成に向けた応用展開が期待される(掲載誌: Scientific Reports、DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-023-39471-1)。