南三陸町、京都大学、一般社団法人サスティナビリティセンターの研究グループは、宮城県志津川湾の干潟において、これまで生態がほとんど知られていなかった希少魚クダリボウズギスを地中から発見し、その繁殖行動として口内保育を行っていることを初めて確認した。クダリボウズギスはテンジクダイ科に属する小型魚で、半透明の体に赤い色素を持つ美しい外見を特徴とする。今回の発見により、同種がテンジクダイ科としては最も北方で繁殖することが明らかとなった。
調査は2022年6〜7月に実施され、志津川湾の水戸辺川河口の干潟を掘削した結果、地中約28〜43cmの空洞から13個体を採集。そのうち4個体は雄で、口内に約250個の卵を保持していた。卵は直径1mm程度の球形で、細い糸でつながれた塊状であった。これにより、クダリボウズギスが干潟の地中にある空洞を繁殖場として利用し、口内保育を行うという特殊な生態が初めて明らかとなった。
また、採集地点の空洞にはテッポウエビ類やアナジャコ類といった甲殻類の巣穴が多数確認されており、クダリボウズギスがこれらの巣穴を利用している可能性が高い。体表には感覚孔と呼ばれる器官が多数存在し、視覚の効かない地中環境において水流の変化を感知しながら空間を把握していると考えられる。
本研究は、震災後の環境変化が著しい志津川湾において、干潟の地中という未踏の生息環境に着目したものであり、沿岸開発によって失われやすい干潟環境の保全に向けた基礎資料として重要である(掲載誌:Plankton & Benthos Research)。