湖沼水質改善に向けた取組と技術開発の進展
環境基準の達成率の伸び悩みが指摘される湖沼水質は、健康や生活環境などに大きな影響を与えることから、国や地方自治体をはじめ、関係各機関や企業などによる水質改善のための積極的な対策、技術開発が進められています。
平成18年に施行された改正湖沼法では、面源対策や工場・事業場に対する規制の見直しなどが盛り込まれました。また、平成15年度から開始された環境省による環境技術実証モデル事業も、試行段階を終えて平成20年度から環境技術実証事業として実施され、湖沼浄化技術も引き続き実証事業が行われています。こうした法整備や施策の強化のなかで、指定湖沼をはじめとした全国の湖沼の水質改善に、地方自治体や研究機関、民間企業、市民の懸命な取組が続けられています。
湖沼水質改善に向けた取組と浄化技術の開発について、具体的な事例をまじえながら紹介します。
霞ヶ浦(北浦)でのアオコ発生状況(平成17年9月)
出典:国土交通省「第1回霞ヶ浦河川整備計画公聴会」配布資料
(出典URL:http://www.kasumigaura.go.jp/seibi/0703_seibi1_shi_com/03_genjyou_kadai.pdf)
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水質の汚濁は人間の健康や生活環境、水生生物に大きな影響を与えることから、わが国では水質の基準が環境基本法に基づいて環境基準として定められています。昭和46年の環境基準の告示以来、河川ではBOD(Biochemical Oxygen Demand;生物化学的酸素要求量)の環境基準達成率が大幅に改善され、平成19年には90.0%に上昇しています。一方、湖沼のCOD(Chemical Oxygen Demand;化学的酸素要求量)の環境基準達成率はきわめて低く、ここ数年である程度改善されたものの、いまだ50%程度の水準に過ぎません(図1)。
図1 環境基準達成率の推移(BODまたはCOD)
出典:環境省「平成19年度公共用水域水質測定結果」
出典URL:http://www.env.go.jp/water/suiiki/h19/full.pdf
水質環境基準は「人の健康の保護に関する環境基準」と「生活環境の保全に関する環境基準」の2種類の項目が設けられており、前者の健康項目にはカドミウムなど26種類の化学物質が対象とされ、後者の生活環境項目は、河川、湖沼、海域ごとに基準値が定められています。
有機汚濁の代表的指標とされるBODやCODは、生活環境の項目に含まれるものですが、河川ではBOD、湖沼や海域ではCODが使われます。
表1に、湖沼における水質環境基準(生活環境項目)の概略をまとめました。
項目 | 内容 |
---|---|
pH | 水素イオン濃度指数。水溶液の酸性、アルカリ性の度合いを表す。 |
COD | 水中の有機物を加熱分解する時に消費される酸化剤の量を、酸素量に換算したもの。主として、有機物による水質汚濁の指標として用いられており、湖沼及び海域で環境基準が適用される。 |
SS | Suspended Solid(浮遊物質量)の略称。懸濁物質ともいう。水の濁り度合いを表し、水中に浮遊、分散している粒の大きさが2mm以下、1μm以上の物質を指す。 |
DO | 溶存酸素量。水中に溶けている酸素量のことで、主として、有機物による水質汚濁の指標として用いられている。 |
大腸菌群数 | 大腸菌または大腸菌と性質が似ている細菌の数。主として、人または動物の排泄物による汚染の指標として用いられている。 |
全窒素(T-N) | 窒素を含む化合物の総称。大量に流入すると富栄養化が進み、植物プランクトンの異常増殖を引き起こすとみられている。 |
全リン (T-P) | リンを含む化合物の総称。大量に流入すると富栄養化が進み、植物プランクトンの異常増殖を引き起こすとみられている。 |
全亜鉛 | 亜鉛を含む化合物の総称。大量に流入すると水生生物に影響を与えるとみられている。 |
参考資料:
(独)国立環境研究所「公共用水域の水質測定結果データの説明」
http://www.nies.go.jp/igreen/explain/water/sub_w.html
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構「水質汚濁について」
http://www.nedo.go.jp/expo2005/ecodrain/b02.html
湖沼等の水質に影響を与える原因にはさまざまなものがありますが、大きく分類すると、流域から流れ込む「外部負荷」、湖沼内の生物などによる「内部負荷」、及び降雨などによる「直接負荷」に分けることができます(表2)。
区分 | 影響を与える負荷の例 | |
---|---|---|
外部負荷 | 点源負荷 | ・生活排水 |
・工場、事業場排水 | ||
・畜産排水 | ||
面源負荷 | ・市街地 | |
・農地 | ||
・森林 | ||
内部負荷 | ・底泥からの溶出 | |
・湖沼での生物生産 | ||
直接負荷 | ・降雨 | |
・養殖 |
注 ) | 外部負荷: | 流入河川および残流域から湖沼等へ流入する負荷 |
内部負荷: | 底泥からの溶出、湖内での生物生産等の負荷 | |
直接負荷: | 湖面に直接降る雨および湖内での養殖等による負荷。湖沼等に直接湧出する地下水による負荷も含む | |
点源負荷: | 汚濁物質の排出ポイントが特定できる負荷 | |
面源負荷: | 汚濁物質の排出ポイントが特定しにくく、面的な広がりを持つ負荷 |
参考資料:国土交通省・農林水産省・環境省「湖沼水質のための流域対策の基本的考え方」
出典URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=8329&hou_id=7355
また、こうした直接的な汚濁負荷に加え、湖沼が閉鎖性水域であるため水の滞留時間が長く、汚濁物質が蓄積しやすいことも、湖沼の水質改善が進んでいない背景の1つとして挙げられます。
例えば、湖沼における代表的な水質汚濁の問題である「富栄養化」は、窒素やリンなどの栄養塩類が必要以上に蓄積され、濃度が高くなった状態のことです。富栄養化が進行すると、窒素やリンなどを栄養分とする植物プランクトンなどが異常増殖し、アオコの大量発生や魚介類の大量へい死を引き起こすだけでなく、上水道や農工業用水、水産資源への影響など、水利用の観点からも大きな影響を及ぼすおそれがあります。
写真1 霞ヶ浦(北浦)でのアオコ発生状況(平成17年9月)
出典:国土交通省「第1回霞ヶ浦河川整備計画公聴会」配布資料
出典URL:http://www.kasumigaura.go.jp/seibi/0703_seibi1_shi_com/03_genjyou_kadai.pdf
水質汚濁の著しい湖沼の水質保全を図るため、昭和59年に「湖沼水質保全特別措置法」(略称、湖沼法)が制定され、水質保全を推進するための事業計画を作成し各種の対策を講じるとともに、水質汚濁の原因となる施設に対する必要な規制を行うこととされました。制定された当初は規制基準の対象項目はCODだけでしたが、ほとんどの湖沼で窒素とリンが環境基準を達成していないことから、平成3年から全窒素(T-N)、全リン(T-P)が対象項目に加わっています。さらに、平成17年1月に出された中央環境審議会答申「湖沼環境保全制度の在り方について」を踏まえた改正湖沼法が平成17年6月に公布され、平成18年4月から施行されています。 改正湖沼法では、湖沼水質の一層の浄化を図るため、従来の対策に加えて表3に示す対策を追加しました。また、湖沼法に基づく指定湖沼についても、平成19年12月に八郎湖が指定され、これまでの10湖沼から11湖沼となりました(図1)
対策 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
湖沼に流入する汚濁負荷の一層の削減 | 流出水対策地区の新設 |
|
工場・事業場に対する規制の見直し |
|
|
水質浄化機能を確保するための、湖辺の環境の適正な保護 | 湖辺環境保護地区の新設 |
|
その他 | 湖沼計画の策定手続に関係住民の意見聴取を位置づける等 |
参考資料:環境省「逐条解説 湖沼水質保全特別措置法」
出典URL:http://www.env.go.jp/water/kosyou/law_kaisetsu.pdf
図1 湖沼水質保全特別措置法に基づく11指定湖沼位置図
出典:環境省「湖沼水質保全計画」
出典URL:http://www.env.go.jp/water/kosyou/map_jokyo.pdf
このように法整備が進むなかで、国では「琵琶湖等湖沼水質保全対策高度化推進調査」の実施をはじめ、さまざまな事業を行って湖沼水質の改善を図っています。また、各自治体でもそれぞれの湖沼が抱える諸課題の解決に向けて種々の事業を推進しています。
湖沼等の水質浄化技術は、これまでも多くの方法が開発され、実用化されています。これらの技術を分類すると、表4のように、流入河川対策、湖内対策、流域対策に分けることができます。
対策区分 | 技術区分 | 具体例 |
---|---|---|
流入河川対策 | (1)直接浄化 | 吸着法、土壌処理法、植生浄化法等 |
湖内対策 | (2)底泥対策 | 浚渫、覆砂 |
(3)植生利用 | 植生帯・ウェットランド、人工内湖、浮島、ビオトープ等 | |
(4)流動制御 | 分画フェンス、散気装置、密度流拡散装置等 | |
(5)酸素供給 | 曝気(ばっき)装置、高濃度酸素水の導入等 | |
(6)直接回収 | 藻類回収、衝撃殺藻装置、紫外線殺藻装置等 | |
(7)その他 | 浄化用水の導入、水草管理、流入水の流路変更、干し上げ・水位低下、魚類除去 | |
流域対策 | (8)点源負荷対策 | 生活排水対策(下水道の整備等)、畜産排水対策、工場・事業場排水対策等 |
(9)面源負荷対策 | 農業系負荷対策、非特定負荷対策等 |
出典:国土交通省「湖沼における水理・水質管理の技術」第5章 湖沼水質の保全・改善対策
出典URL:http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kankyo/kankyou/kosyo/tec/pdf/5.pdf
表4の各浄化技術について、ここではまず、実用化が進んでいる一般的な対策例を紹介します。
(1)流入河川対策<直接浄化>
湖沼に流入する河川水を直接浄化する方法として、「吸着法」「土壌処理法」「植生浄化法」など、さまざまな方法があります。これらの方法の多くは、浮遊物質(SS)の除去に優れていますが、吸着法のうち接触酸化法等では窒素・リンの除去率が低くなります。また、土壌処理法や植生浄化法は、比較的広い面積が必要になります。
図2 流入河川対策による湖沼水質の保全・改善対策のイメージ
出典:国土交通省「湖沼における水理・水質管理の技術」第5章 湖沼水質の保全・改善対策
出典URL:http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kankyo/kankyou/kosyo/tec/pdf/5.pdf
(2)湖内対策<底泥対策>
湖底に堆積した土砂・ヘドロ等の底泥対策として、浚渫船およびポンプ等で回収・除去する「浚渫」と、砂で覆う「覆砂」という方法があります。これらの対策により、底泥からの有機物や栄養塩類の溶出を低減することができます。ただし、底泥の再堆積等により効果が低下するため、効果を継続させるためには流入負荷量の削減等により栄養塩等の再堆積を抑制する必要があります。
図3 浚渫船による底泥除去作業イメージ
出典:国土交通省関東地方整備局「環境共生・創造マスタープラン」
出典URL:http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/region/kankyousougou/1_13_18.htm
(3)湖内対策<植生利用>
植生を利用した方法として、湖岸の浅い水域に「植生帯」を整備する方法や、流入河川の河口部に「人工内湖」(人工的な小さな湖沼・池)を設ける手法などがあります。植生帯では、植生による浮遊物質(SS)の吸着や窒素・リンの吸収、微生物による分解などにより、湖水の水質を改善できるほか、植生を刈り取ることにより、SSや窒素・リンの吸収除去も期待できます。また人工内湖では、流入河川の負荷を削減するとともに、沿岸の生態系機能を向上させることができます。
写真2 湖岸に整備された植生帯の例
出典:国土交通省「湖沼における水理・水質管理の技術」第5章 湖沼水質の保全・改善対策
出典URL:http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kankyo/kankyou/kosyo/tec/pdf/5.pdf
(4)湖内対策<流動制御>
湖沼水の流動を制御する方法として、湖沼表層を止水性の「分画フェンス」などで仕切り、アオコ等の拡大防止を図ることによって、植物プランクトンの増殖を抑制する方法があります。また、「散気装置」で浅層曝気(ばっき)を行うことにより、湖水に比べて低温・高密度の流入河川水を生産層より下層へ送り込み、栄養塩の供給を断って藻類の増殖を制御する方法もあります。
写真3 湖沼表層部における分画フェンス
出典:(独)水資源機構「環境報告書2008」
出典URL:http://www.water.go.jp/honsya/honsya/news/kankyo/h19_data/envrep2008.pdf
(5)湖内対策<酸素供給>
湖沼水に酸素を供給する方法として、「深層曝気(ばっき)」などの方法があります。深層曝気では、湖内底部に空気を送り込み、酸素濃度の低い底層水を水面まで上昇させて溶存酸素(DO)を供給した後、底層に還流することによって、底層の還元的環境を改善することができます。
図4 深層曝気のしくみ
出典:阿木川ダム管理所「水質保全のページ」
出典URL:http://www.water.go.jp/chubu/agigawa/kanri/hozen/index.html
(6)湖内対策<直接回収>
湖内の汚泥や藻類等を直接回収する方法として、回転ドラムろ過法(図5)や砂ろ過法など、ろ過による除去・回収を行う方法があります。また、アオコや赤潮を含んだ水を吸い込み、高圧・高速で衝撃板に噴射し、衝突時の物理的ショックを利用して処理する方法などもあります。
図5 微細な網を用いた回転ドラムろ過のしくみ
出典:水道機工(株)微細網ろ過機
出典URL:http://www.suiki.co.jp/
(7)湖内対策<その他>
その他の湖内対策技術として、湖沼よりも水質が良好な近傍の河川水などを湖沼に人工的に導入する「浄化用水」があります。これにより、湖沼水の汚濁物質を希釈し、水質を改善することができます。また、水草を刈り取り、水草に含まれる有機物を系外に持ち出す「水草管理」では、枯死した植物体を湖内に堆積させることなく、枯死植物からの溶出を回避することができます。なお、水質改善に有効な水草は、浮葉植物(アサザやヒシなど)よりも沈水植物(シャジクモ類など)であるとの考え方注1)もあります。
注1)「湖沼環境保全における水生生物の役割」(山室・浅枝,2007)
図6 水草管理による湖沼水質の保全・改善対策のイメージ
出典:国土交通省「湖沼における水理・水質管理の技術」第5章 湖沼水質の保全・改善対策
出典URL:http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kankyo/kankyou/kosyo/tec/pdf/5.pdf
(8)流域対策<点源負荷対策>
流域の点源負荷対策としては、下水道整備の推進、工場・事業場の排水対策と水質汚濁防止法・各種条例などによる規制、畜産排水対策(家畜排せつ物法)など、水質汚濁物質の排出源に近い段階での対策によって負荷を削減する取組みが実施されています。
(9)流域対策<面源負荷対策>
農地からの汚濁負荷を削減するため、水田からの濁水の流出防止や、減農薬・減化学肥料栽培などの環境保全型農業の推進が図られています。また、雨天時に宅地や道路などの市街地から公共用水域へ流入する汚濁負荷を削減するために、初期雨水の貯留や、路面排水処理施設の設置などの対策例があります。
(1)環境技術実証事業
環境省では、平成15年度から「環境技術実証モデル事業」を実施し、環境技術の普及を図ってきました。この事業は、すでに適用可能な段階にありながら、客観的な評価がなされていないために利用者が安心して使うことができず、普及が進んでいない先進的な環境技術について、その環境保全効果などを第三者機関(地方公共団体、公益法人など)が客観的に実証するものです。
湖沼等の水質浄化技術についても、平成17年度から実証モデル事業(湖沼等水質浄化技術)として実施され、表5のとおり15の技術について実証試験を終え、試験結果報告書が一般に公表されています。また平成20年からは、「モデル事業」における試行期間の成果を踏まえて「環境技術実証事業」が実施されており、「あま~る式電気分解処理装置(シグマサイエンス(株))」と「炭素繊維を用いた水質浄化技術(帝人(株)、群馬工業高等専門学校)」の2件がその対象に選定されています。
この事業では、水質浄化技術のうち、水中や底泥等に蓄積した汚濁を直接浄化する技術、または汚濁負荷の内部生産を抑制するための技術を対象としており、現場で直接適用可能なものが基本で、しゅんせつ等大がかりな土木工事等を要するものは除いています。
表5 「環境技術実証モデル事業 湖沼等水質浄化技術」実証技術一覧(平成17~19年度)
施策の名称 | 申請者 | 実証機関 | 技術区分 |
---|---|---|---|
ピーキャッチ(リン吸着材)による水質浄化システム | (株)クレアテラ、 りんかい日産建設(株) | 埼玉県 | [6]直接回収 |
水質浄化システム(TAWS) | 東洋建設(株) | 埼玉県 | [6]直接回収 |
微細気泡による水質浄化技術 | (株)マイクロアクア | 大阪府 | [5]酸素供給 |
水質浄化装置「みずきよ」 | (株)共立 | 広島県 | [5]酸素供給 |
施策の名称 | 申請者 | 実証機関 | 技術区分 |
---|---|---|---|
浄化ブロック | (株)ホクエツ関東、 (株)ホクエツ |
埼玉県 | [7]その他 |
カーボンリバースシステム | (株)フォーユー商会 | 埼玉県 | [7]その他 |
複合型植生浮島浄化法(フェスタ工法) | (株)フジタ | 埼玉県 | [3]植生利用 |
微細オゾン気泡による水質浄化技術 | 野村電子工業(株) | 大阪府 | [6]直接回収 |
エカローシステム | 積水アクアシステム(株) | 香川県 | [5]酸素供給 |
ジェットストリーマー | (株)石井工作研究所 | 愛媛県 | [5]酸素供給 |
施策の名称 | 申請者 | 実証機関 | 技術区分 |
---|---|---|---|
多機能ガラス発泡体による水質浄化法 | (株)石川再資源化研究所 | 石川県 | [7]その他 |
多機能セラミックス浄化システム | スプリング・フィールド(有) | 石川県 | [6]直接回収 |
噴流式水質浄化システム | (株)サリック | 石川県 | [5]酸素供給 |
浄化藻床樋による自然浄化工法 | (有)パイプ美人 | 石川県 | [6]直接回収 |
アオコ制御方法・アオコ制御のための施工装置 | (有)アクアラボ | 大阪府 | [4]流動制御 |
※技術区分は、表4のどの分類に該当するかを示しています。
図7 「環境技術実証モデル事業」における実証技術の事例(酸素供給による水質浄化)
出典:環境技術実証モデル事業 湖沼等水質浄化技術実証試験報告書(平成17年度)
出典URL:http://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h17/02_g5.pdf
図8 「環境技術実証モデル事業」における実証事例(植生浮島浄化法)
出典:環境技術実証モデル事業 湖沼等水質浄化技術実証試験報告書(平成18年度)
出典URL:http://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h17/02_g3.pdf
(2)指定湖沼における取り組み事例
[1]琵琶湖
日本最大の淡水湖である琵琶湖(670km2)では、面源負荷対策の1つとして、市街地排水浄化対策事業が行われています。市街地では、屋根や道路に堆積した汚れが雨水とともに洗い流され、「市街地排水」となります。こうした市街地排水による汚濁負荷を軽減するため、排水の一部を貯留して汚濁を沈殿除去し、さらに植生を利用して上澄み水を浄化する取り組みが実施されています(図9)。
図9 琵琶湖における面源負荷対策の事例(市街地排水浄化対策)
出典:湖沼における下水道事業推進協議会「滋賀県(琵琶湖)取り組み事例」
出典URL:http://www.kosyoukyou.jp/torikumi/shiga/shiga_jirei.pdf
[2]八郎湖
平成19年の改正湖沼法により指定湖沼の指定を受けた八郎湖(4,732ha)では、湖内対策の1つとして、湖内に生息するブラックバスなどの外来魚やコイ、フナなどの未利用魚を捕獲し、窒素・リンの回収を図るとともに、これらの未利用魚を魚粉肥料として使うことによって、環境配慮型農業を推進する取り組みが行われています(図10)。
図10 八郎湖における湖内対策の事例(魚獲による窒素・リンの回収、リサイクル)
出典:秋田県「八郎湖に係る湖沼水質保全計画(第1期)(案)について」
出典URL:http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1198633075173/files/hatirouko.pdf
(3)その他の研究・開発事例
このほかに、近年研究・開発が進められている新しい浄化技術の例を以下に紹介します。
[1]水質浄化植物を原料とした高性能重金属吸着剤の製造に関する研究・開発
湖沼等の水辺の水質浄化機能を担うヨシなどの植物を原料として、高性能な重金属除去・回収性能を持つ吸着剤に関する研究・開発です。吸着剤原料としてのヨシの利用の拡大や、刈り取ったヨシの循環利用手法の確立により、湿地生態系の保全にも寄与します。
[2]湖沼底泥用の溶出物質吸着バリア材
高いリン吸着特性を有する材料を湖沼底泥上に覆土材として敷設し、底泥から水域へのリンの溶出を低減させる技術です(図11)。現在、基礎研究が進められています。
図11 吸着覆土材による底泥浄化イメージ
出典:第12回霞ヶ浦浄化技術研究会資料「湖沼底泥用の溶出物質吸着バリア材に関する基礎研究」小峯秀雄
出典URL:http://www.i-step.org/kasumi/cleanup/image/012.pdf
[3]パルスパワー生成水中ストリーマ状放電プラズマによる湖沼浄化
大容量ストリーマ状放電プラズマを水中で生成し、アオコを殺藻することによって湖沼水質の浄化を図る技術です。
[4]炭素繊維による河川・湖沼浄化技術
直径7ミクロンの炭素繊維の束を汚濁した水中に浸漬させることで、炭素繊維表面に付着した微生物の働きにより有機物を分解し、水質の浄化を図る技術です。
[5]マイクロバブルによる水環境の浄化技術
直径50μm以下の気泡であるマイクロバブル(図12)は、消滅するときに化学反応性の強い原子・分子(フリーラジカル)を発生し、水溶液中に存在する様々な化学物質を分解する効果があるといわれています。このマイクロバブルを湖底で発生させると、アオコが減少する効果が確認されており、現在、その水質改善のメカニズムの解明と、効率的な適用方法の確立に向けた研究が進められています。
図12 通常の気泡とマイクロバブルの違い
出典:第15回霞ヶ浦浄化技術研究会資料「マイクロバブルによる水環境の浄化技術の確立」高橋正好
出典URL:http://www.i-step.org/kasumi/cleanup/image/015.pdf
近年、多くの湖沼において、難分解性と考えられる溶存有機物(DOM)の増加に関する報告があります。難分解性DOMは、従来の湖沼等での水質汚濁とは異なる新しいタイプのもので、濃度が上昇すると、湖沼の微生物生態系や水道水源としての湖沼の水質などに大きな影響を与える可能性があります。そのため、難分解性DOMの生成メカニズムなどに関する研究が進められています。
湖沼水質の環境基準達成率については50.3%にとどまるなど改善が進んでいないことから、改正湖沼法によって、面源負荷に関する対策の強化などが盛り込まれました。さらに国土交通省・農林水産省・環境省の3省は、平成18年3月に、面源負荷に関する調査分析、対策の立案および実施に当たっての基本的考え方、留意点等を整理した「湖沼水質のための流域対策の基本的考え方」を公表しました。
今後、こうした負荷削減への取組が一層推進されるとともに、水質浄化技術の研究・開発がさらに進展することによって、指定湖沼のみならず全国の大小の湖沼水質が改善されることが期待されます。