環境技術解説

サンゴ礁保全対策

 国際的に広がるサンゴ礁保全の取り組み
 2007年に出された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書では、約1~3℃の海面温度の上昇にサンゴが適応・順応できない場合、より頻繁な白化現象と大量死がもたらされると予測しています。生物多様性が豊かなサンゴ礁は現在、高水温などによる白化やオニヒトデによる捕食被害など、さまざまな要因によって世界各地で衰退が懸念されています。
 そうしたなかで、国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)では、2008年を「国際サンゴ礁年」と定め、多様な主体(企業、NGO、行政、研究者、市民等)が連携したサンゴ礁保全活動の展開を図っており、わが国でも市民参加型のサンゴマップ作成などの取り組みが行われています。
 また、環境省が中心となって「サンゴ礁保全行動計画」の策定作業が進められているほか、沖縄県の石西礁湖(せきせいしょうこ)などでの自然再生事業やモニタリング活動なども行われています。さらに、サンゴ礁保全のための研究開発も、さまざまな要因ごとに取り組みが続けられています。
 今回は、サンゴ礁の果たす役割とサンゴ礁被害の状況や原因、保全に関するさまざまな対策などについて紹介します。

写真1 1998年の高水温により白化したサンゴ
出典:(独)国立環境研究所「ココが知りたい温暖化」
出典URL:http://www-cger.nies.go.jp/qa/18/18-1/qa_18-1-j.html
(写真提供:波利井佐紀氏[琉球大学理工学研究科COE研究員])

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1.サンゴ礁の生態と役割

1)サンゴ礁の生態

 サンゴ礁とは、サンゴや石灰藻などの生物によってつくられた地形のことをいいます。
 サンゴは、サンゴ礁を形成する「造礁サンゴ」と、サンゴ礁の形成に関与しない「非造礁サンゴ」とに分類されますが、ともにイソギンチャクやクラゲの仲間の動物です。
 ほとんどの造礁サンゴは、岩石などの固い基盤に固着し、ポリプと呼ばれる小さなサンゴ個体がたくさん集まって群体を形成しています。

図1 サンゴ体の構造
出典:国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター「サンゴとは」
出典URL:http://www.coremoc.go.jp/

 造礁サンゴは、海水中のプランクトンを食べて栄養を摂取するほか、体内に共生するたくさんの小さな藻(共生藻)が光合成によってつくるエネルギーを得て成長しています。このため造礁サンゴは、体内の共生藻の光合成のために光の届く浅い海に生息する必要があり、海面近くまで成長して平らな地形をつくります。
  サンゴ礁は、造礁サンゴや石灰藻などの生物が死んだ後に、残された石灰質の骨や殻が固まり、長い間積み重なってつくられます。サンゴ礁の地形は、図2のように大きく3つのタイプに分類されています。

図2 サンゴ礁のタイプ
出典:国際サンゴ礁年2008「サンゴ礁って何?」
出典URL:http://www.iyor.jp/intro/intro_1.html

2)サンゴ礁の役割

 サンゴ礁はたくさんの機能・役割を持っています。そのもたらす恩恵は、人類のみならず多様な生物や陸・海など地球環境全体にも及んでいます(表1)。

表1 サンゴ礁の機能
機能 解説
生物生産機能 生物生産量は高く、熱帯雨林と同等あるいはそれ以上とされる。また、食料としての有用魚介類の豊富な生息は、漁業資源として重要である。
生物多様性の維持機能 微生物やプランクトン、小型底生動物、海藻、貝類、魚類、鳥類など多種多様な生物が生息し、複雑な食物連鎖が形成される。
浄化機能 流入する有機物は動物の摂食活動や微生物の分解により減少し、水質や底質が浄化される。
景観形成・親水機能 サンゴ礁が形成する優れた景観と高い親水機能は、貴重な観光資源である。
防災機能 台風等の高波から国土を守る防波堤となり、また、有孔虫の遺骸片や破砕されたサンゴの骨等が砂浜を形成し、海岸侵食を防止する。
CO2の循環機能 サンゴ礁は石灰化の過程で CO2を放出するが、光合成によってCO2を吸収する。健全なサンゴ礁の維持はCO2吸収にあたる可能性が示されている 注1 )
教育・研究機能 自然体験や自然保護活動などの環境教育の場、サンゴ礁の諸機能研究の場として重要である。
資源供給源の機能 肥料となる魚介類や海藻類、建材となるサンゴや砂、民具など、食料以外の種々の資源の供給源となる。

注1)東京大学ほか「サンゴ礁によるCO2固定バイオリアクターの構築技術の開発」
http://www-sys.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~coral/contents/project/01-1.html
参考資料:『海の自然再生ハンドブック第4巻/サンゴ礁編』ぎょうせい、2003年11月

2. サンゴ礁劣化の現状と要因

1)サンゴ礁劣化の現状

 サンゴ礁は現在、さまざまな原因によって世界的に衰退の傾向をたどっています。1998年に行われた「リーフス・アット・リスク(危機的状態にあるサンゴ礁)」という研究では、世界のサンゴ礁の58%が、沿岸の開発や破壊的な漁業、乱獲、海洋汚染、内陸の森林伐採と農業による土壌流出など、さまざまな人間活動によって脅威にさらされている可能性があると指摘しています。
 また、国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)が1998年に発表した「新・行動の呼びかけ」では、こうした人間活動による影響に加え、サンゴ礁の白化や暴風、オニヒトデの大発生などの自然的要因による攪乱も深刻であり、1997年10月から1998年11月までの14カ月間に、世界の40~50%のサンゴ礁が、白化による深刻あるいは壊滅的な被害を受けたとしています。
  わが国でも石西礁湖(せきせいしょうこ)で1983年から、石垣島周辺で1998年から、環境省によるサンゴ礁のモニタリングが継続されていますが、図3にみるように、生きているサンゴが海底を覆っている割合を示す「サンゴ被度」は年ごとに大きく変動しています。また、国立環境研究所などによる2008年の調査では、石西礁湖のサンゴが2003年から2008年にかけての5年間で、約7割失われていたことがわかっています(図4)。

図3 石西礁湖におけるオニヒトデ出現地点割合とサンゴ被度の変化
出典:(財)自然環境研究センター「日本のサンゴ礁の現状」
出典URL:http://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/apc/conf/01/mat03-2.pdf

図4 石西礁湖の海底に占める生きたサンゴの割合の変化
出典:国立環境研究所トピックス「サンゴ7割消えた 沖縄の石西礁湖」
出典URL:http://www.nies.go.jp/topics/2008/20080910/20080910.html

2)サンゴ礁劣化の要因

 サンゴ礁の攪乱については複数の要因が挙げられていますが、そのうちの主要なものを、自然的なものか人為的なものかによって区分して説明します。なお、分類にあたっては、グローバルな攪乱かローカルな攪乱かによって区分する方法もあります。

(1)自然的な攪乱
[1]白化
 サンゴの白化は、環境の変化によって共生藻による光合成がうまく行われなくなり、サンゴが共生藻を放出することから起こります。共生藻が放出されると、サンゴの骨格が透けて白く見えるため白化と呼ばれます。共生藻が再びサンゴに棲めば健全な状態に戻りますが、環境が回復せず白化が長期間に及ぶとサンゴは死んでしまいます。
 環境の変化を代表する要素は高水温です。サンゴの生息に適する水温は25~28℃といわれていますが、海水温が長い間30℃を超えた状態が続くと白化が起こります。また、ほかの要素として淡水や土砂の流入が挙げられ、高水温とこれらのストレスが複合することにより白化現象が起きやすくなると考えられています。


写真1 1998年の高水温により白化したサンゴ
出典:(独)国立環境研究所「ココが知りたい温暖化」
出典URL:http://www-cger.nies.go.jp/qa/18/18-1/qa_18-1-j.html
(写真提供:波利井佐紀氏[琉球大学理工学研究科COE研究員])

[2]サンゴ食害生物
 サンゴを捕食する生物にはさまざまな種類がありますが、最も大きな被害を及ぼすのはオニヒトデです。
 オニヒトデの大発生の原因は究明されていませんが、自然増減(もともと大発生と沈静化は繰り返される)説、捕食者減少(天敵生物や生態系を保つ役割の生物の乱獲)説、富栄養化(生活排水や畜産業排水、農業肥料などの流入により、海水中のリンや窒素などが高くなること)説があり、このうち富栄養化説が有力視されています。


写真2 サンゴに群がって捕食するオニヒトデ
(撮影:長田智史氏[(財)沖縄県環境科学センター])
出典:日本サンゴ礁学会「サンゴ礁Q&A」
出典URL:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jcrs/

[3]その他
 その他の自然的な攪乱として、台風などによる暴風の影響をはじめ、病原菌による病気や腫瘍の発生、寄生虫による影響なども報告されています注2)

 注2)「イシサンゴ類の病気についての現況」(『日本のサンゴ礁』(財)自然環境研究センター、2004年8月)

(2)人為的な攪乱
[1]赤土汚染
 まとまった強い雨が降ることによって、陸域から土砂が海域に流出し、沿岸のサンゴ礁が衰退することを赤土汚染と呼びます。土砂がサンゴ礁に堆積することや、海水の汚濁によって共生藻の光合成が損なわれることから、サンゴ礁や関連生態系は大きな被害を受けます。赤土汚染は人為的な攪乱の代表格で、農地開発や土木工事などによる流出が大きいとされています。


写真3 大雨後の赤土流出で汚濁した海
出典:サンゴ礁保全行動計画策定会議 第1回(平成20年6月5日)配付資料
沖縄県「沖縄県におけるサンゴ礁保全の取組」
出典URL:http://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/apc/conf/01/mat04_3-2.pdf

[2]魚の乱獲
 サンゴ礁海域で漁をする人々にとって、漁獲量の確保は生活を維持するための重要な課題です。しかし一方で、過剰な漁獲によるサンゴ礁生態系への悪影響が懸念されており、東南アジア地域では、ダイナマイトや青酸化合物を利用した破壊的な漁業が問題となっています。また、レジャー活動による漁業資源の乱獲やサンゴ礁の破壊なども、最近の問題として挙げられています。

[3]直接的開発
 サンゴ礁そのものの改変・消失に直結する土木工事は、人為的攪乱で端的な要因として挙げられます。航路や泊地のための浚渫や、都市用地造成、空港・港湾整備のための埋立てによって、サンゴ礁が消失した例が少なくありません。こうしたなか、わが国では1999年に海岸法が改正され、2000年4月以降は、防護、環境および利用に配慮した計画的な海岸の保全を進めていくことを基本理念に据えています。

[4]その他
 前出のように白化の要因として海水温の上昇が挙げられますが、海水温の上昇をもたらす原因のひとつに地球温暖化があります。CO2の増加による温暖化は、グローバルな人為的攪乱の典型ともいえます。また2の増加は、地球温室効果ガスとして影響を及ぼすだけでなく、海水に溶け込む2の増加によって海水の酸性化が進み、サンゴの炭酸カルシウム生産能力の低下をまねき、サンゴ礁の骨格が形成されにくくなるという研究結果もあります。
 このほか人為的な攪乱には、農業からの化学物質や栄養塩の流出を挙げることができます。

3. サンゴ礁保全対策の動向

1)白化対策

 サンゴ礁の白化は、広域で同時多発的に発生し深刻な被害をもたらすことがあるため、すばやい現状把握や対策策定などのためのモニタリングが重要となります。
  現在、サンゴ礁モニタリングはスノーケリングやダイビングによる現場の目視観察が主流であり、表2のようなさまざまな方法があります。

表2 一般的なサンゴ礁モニタリング手法
名称 内容 特徴
1) マンタ法 観察者が、ボートの船尾から垂らされた曳航板につかまって曳航し、海底状況を観察、記録する方法
  • 広域を短時間で調査できる
  • 目視観察のため主観的になりやすい
2) スポットチェック法 観察者が一定時間スノーケリングで遊泳しながら観察、記録する方法
  • 船を曳航しにくいサンゴ礁域で有効
  • 広域を短時間で調査できる
  • 使用機材が少なく、安価
  • 目視観察のため主観的になりやすい
3) ライン・インターセプト・トランセクト法 海底に一定の長さの調査測線を設置し、測線に接する底質やサンゴ等の長さから、相対被度を求める方法
  • 上記2法より客観的な結果が得られる
  • 成長などの空間的な変化の調査には適さない
4) コドラート法 海底に正方形の調査枠を設置し、枠内の底質やサンゴ等の被度を記録する方法
  • 成長などの空間的な変化を調査できる
  • 時間と手間がかかるため、広い範囲を対象にできない
5) ベルトトランセクト法 3) と 4) の方法の併用。調査測線に沿って一定幅内の底質やサンゴ等の被度を記録する方法
  • 空間的な詳細データが得られる
  • 時間と手間がかかる
6) ラインポイント法 海底に設置した調査測線に沿って一定間隔で測点を設け、測点を中心とした一定の円内を調査対象とする方法。ビデオ撮影し、画面から調査点を設定する方法もある
  • 3)よりも広い範囲を対象にできる
  • 客観的な結果が得られる
  • 時間と手間がかかる

参考資料:『日本のサンゴ礁』(財)自然環境研究センター(2004年8月)

 一方最近では、衛星や航空機からのリモートセンシングによるモニタリングの研究が精力的に行われています。
 リモートセンシングには、広域にわたる同時期のデータを短時間で取得できるなどのメリットがありますが、サンゴ礁のモニタリングに適用するには、以下のような制約がありました。

  • 海水が近赤外から赤外域の光を吸収してしまうため、可視域の光の情報しか使うことができない(近赤外域の光の情報が大きく活用されている陸域の植生のリモートセンシングと比べて、利用できる波長帯が限定される)。
  • サンゴの共生藻が、海草や大型藻類と似た反射スペクトルを示すため、従来型の衛星に搭載されているマルチスペクトルセンサの波長分解能(数10nm)では、サンゴと海草などとの区別が難しい。
  • サンゴ礁が空間的に複雑な構造を持っているため、空間分解能が粗いセンサでは1つの画素内で情報が混ざってしまい、誤分類の原因となる。

 しかし、最近の技術開発により、サンゴに特徴的な蛍光色素の反射スペクトルを捉えることができるハイパースペクトルセンサ(波長分解能:数nm~10nm)や、小規模な白化現象も把握できる空間分解能の高いセンサが搭載されるなど、サンゴやサンゴ礁の白化について、リモートセンシング活用による検出の可能性が高まっています。

図5 ハイパースペクトルセンサによるサンゴ被度画像
(左はハイパースペクトルによって得られた画像。右はハイパースペクトル分類画像)
出典:池間・松永・山野・山里(2002)「リモートセンシングを使ったサンゴ礁の観測技術の開発」
出典URL:http://subtropics.sakura.ne.jp/files/h14coral/H14coral02_remote_sensing.pdf

2)移植および増・養殖技術

 サンゴ礁域でやむをえず工事を行う場合に、サンゴ礁を別の場所へ移植する事例があります。また、さまざまな原因によってサンゴ礁が衰退・消失した場所に対して、修復・再生を施す事例も少なくありません。サンゴ礁の生態は、水深や海流、水温などの環境条件やサンゴの種類によって多様なため、移植あるいは修復・再生の技術も研究注3) 4) 5) 6)が続けられています(表3)。

注 3 ) 大森信編著( 2003 )「 サンゴ礁修復 に 関する技術手法-現状と展望-
注 4 ) (財)沖縄科学技術振興センター( 2003 )「 サンゴ礁に関する調査研 究 報告書
注 5 ) 地球環境研究総合推進費「 サンゴ礁 生 態系の攪乱と回復促進に関する研究
注 6 ) 『海の自然再生ハンドブック』海の自然再生ワーキンググループ著、ぎょうせい、 2003 年

表3 主なサンゴ礁修復技術の比較
  分割群体移植法 稚サンゴ移植法 種苗生産法 幼生放流法 幼生着生誘導法
技術概要 野外における既存群体の分割による断片作成。海底固着 野外からの稚サンゴ採集。移植し、海底固着 室内における採卵あるいは野外における採卵後、胚と幼生を育成。基盤への着生。稚サンゴ着生基盤を海底固着 胚・幼生の育成は左に同じ。サンゴ幼生を運搬し、海底に放流(着生場所にシートを設置) 野外に設置した着生具や表面加工構造物に浮遊幼生を着生誘導
再生まで
の時間
春季海底固着、 3 年程度 通年移植、計 3 年程度 夏季採卵、海底固着、計 5 年程度 夏季着生、海底固着、計 5 年程度 夏季着生、着生すれば計 5 年程度
施設、機材 針金、釘、ケーブルタイ、接着剤 接着剤 育成装置、着生基盤、接着装置 飼育・育成装置、表面加工構造物 表面加工構造物
再生の規模 海底固着数はダイバー数に制限される 海底固着数はダイバー数に制限される 飼育・蓄養施設、海底固着数はダイバー数に制限される 着生場所の施設に制限されるが比較的広範囲 着生具の海底固着数はダイバー数に、構造物の表面加工は規模に制限される

出典:大森信編著(2003)「サンゴ礁修復に関する技術手法-現状と展望-」
(出典URL:http://www.coremoc.go.jp/report/RSTR/RSTR2003a.pdf

 ただし、こうした修復技術の適用については慎重になるべきとの考え方もあります。国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)では、2005年に「人工サンゴ礁による修復・回復に関するICRI決議」を行い、「いくつかの人工的な回復や修復手法は、特定の経済価値があるか、あるいは海難事故や自然災害後など、特定の環境状況下では、小範囲のサンゴ礁において適切な場合もある」としたうえで、「人工的な回復手法や工学的な対処方法が蔓延しているけれども、これら多くの技術や対策は、生態的および経済的効果に関する適切な科学的根拠に欠けていることを憂慮する」と表明しています。そして、「サンゴ礁の保護と保全に関する調査は、サンゴ礁の劣化の原因を取り除き、自然で長期的な回復を促すことに重点を置くべきである」と記しています。

3)オニヒトデ対策

 オニヒトデの駆除は、人が潜水して1匹ずつ船に採り上げる方法を中心に、水中で切断あるいは粉砕する方法、薬品の注入などがあります。
 沖縄県では、1970~80年代にオニヒトデが大量発生した際に、多くの予算を投入したにもかかわらず大きな被害が生じました。その反省に立ち、2002年にオニヒトデ対策会議が設置され、1)オニヒトデの発生状況とサンゴの被害状況の把握、2)駆除海域の設定、3)駆除効果の検証を行うことを決めました。その後、「オニヒトデ簡易調査マニュアル」の策定や、最重要保全区域の選定など、積極的な対策に取り組んでいます。

図6 オニヒトデの駆除数の推移(八重山海域)
出典:サンゴ礁保全行動計画策定会議 第1回(平成20年6月5日)配付資料
サンゴ礁保全に関する環境省の施策
出典URL:http://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/apc/conf/01/mat04_1.pdf

4)人為的な攪乱に対する対策

 赤土流出は、土地改良事業や道路、ダム建設、宅地開発などの人間活動に、降雨などの自然現象が重なって発生するため、社会制度的および技術的な取組に基づく流出防止対策が不可欠です。 沖縄県では1995年に「沖縄県赤土等流出防止条例」を施行し、開発事業において1)発生源対策、2)流出濁水対策、3)濁水最終処理対策の3つの対策を効果的な組み合わせることにより、濁水を排出基準値(SS(浮遊粒子状物質濃度)値=200mg/l)以下で排出することを義務付けています。
 この条例の制定後、開発事業に伴う赤土流出の減少など一定の効果が認められ(図7)、また海域の赤土等たい積レベルも20%ほど改善しました。しかし、農地からの土壌流出は続いていることから、マルチング(裸地部分への被覆)、のり面への種子吹付け、グリーンベルト(傾斜下流側への帯状植栽)、土砂流出防止柵などの研究開発が進められています。また、こうした対策のほか、航空写真やGIS(地理情報システム)を使った赤土流出予測に関する研究も進められています。

図7 沖縄県赤土等流出防止条例施行の効果
出典:沖縄県衛生環境研究所「赤土条例の効果で、海は良くなったか?」
出典URL:http://www.eikanken-okinawa.jp/mizuG/umi.htm

4.今後の展望

 国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)では、2008年を「国際サンゴ礁年」と定め、世界各国の人々にサンゴ礁についての理解を深めてもらうための普及啓発活動や、多様な主体(企業、NGO、行政、研究者、市民等)が連携したサンゴ礁保全活動の展開を図っています。また、2008年4月にアメリカ海洋大気庁(NOAA)では、気候変動がサンゴ礁に及ぼす影響について国際ワークショップを開催し、カリブ海などでのサンゴの白化現象や、気候変動の影響を緩和し管理する戦略について意見交換を行っています。わが国でも、環境省が中心となって「サンゴ礁保全行動計画」の策定作業に取り組んでいるほか、WWWジャパンによる重要サンゴ礁群集域の選定、市民参加型のサンゴマップ作成なども行われています。
  現在、サンゴ礁の生態系全体がすべて解明されたとはいえず、サンゴ礁の保全も楽観視できる状況とはいえませんが、今後さらに、サンゴ礁保全のためのさまざまな調査・研究が進み、国際的なサンゴ礁保全のネットワークが広がっていくことが期待されます。

引用・参考資料など

1)環境省 「サンゴ礁保全の取り組み
2)環境省 「サンゴ礁保全行動計画の策定
3)環境省国際国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター「石西礁湖自然再生
4)国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)
5)国際サンゴ礁年 サンゴマップ2008 実行委員会「日本全国みんなでつくるサンゴマップ
6)国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター
7)国際サンゴ礁年2008
8)(独)国立環境研究所 トピックス「サンゴ7割消えた 沖縄の石西礁湖
9)(独)国立環境研究所「ココが知りたい温暖化
10)(独)国立環境研究所「サンゴ礁の水中画像アーカイブ
11)山野博哉(2003)「サンゴ礁の白化現象をリモートセンシングでとらえる」、国立環境研究所ニュース22巻2号
12)池間・松永・山野・山里(2002)「リモートセンシングを使ったサンゴ礁の観測技術の開発
13)日本サンゴ礁学会
14)『日本のサンゴ礁』(財)自然環境研究センター(2004年8月)
15)『海の自然再生ハンドブック』ぎょうせい(2003年11月)
16)東京大学ほか「サンゴ礁によるCO2固定バイオリアクターの構築技術の開発
17)大森信編著(2003)「サンゴ礁修復に関する技術手法-現状と展望-
18)(財)沖縄科学技術振興センター(2003)「サンゴ礁に関する調査研究報告書
19)地球環境研究総合推進費「サンゴ礁生態系の攪乱と回復促進に関する研究
20)沖縄県衛生環境研究所「赤土条例の効果で、海は良くなったか?
21)「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト
(2008年11月現在)