信州大学・筑波大学・NHKの共同研究グループは、気候変動がニホンザルの採餌行動に与える影響を実証的に解明した。DNAメタバーコーディング解析と高解像度映像観察を組み合わせ、冬季の水生昆虫採餌行動を詳細に分析することで得られた成果である(掲載誌:Scientific Reports)。
ニホンザル(Macaca fuscata)は、ヒト以外の霊長類の中で最も高緯度に分布する種であり、上高地の集団は氷点下25℃を下回る積雪地帯で越冬する。冬季には植物性食物が乏しく、水域に生息する水生昆虫が重要な食料源となる。本研究では、従来のCOI領域ではなく、検出力の高い16S rRNA領域を用いたMtInsects-16S法を採用し、糞サンプル175個から多様な昆虫種を検出した。
調査対象は、上高地内で異なる行動圏を持つ3つの自然集団――KT群(西部)、KK群(中央部)、KM群(東部)――であり、個体識別と行動追跡が可能な群として選定された。調査期間中の2024年2月には、日平均気温が0℃を超える高温イベントが発生し、融雪によって河川水位が上昇。ニホンザルは水域へのアクセスが困難となり、水生昆虫の摂食頻度が大幅に減少した。KT群では46.2%から28.6%、KK群では71.4%から40.0%へと低下した。KM群では高温イベント時のデータ取得が困難であった。他方、映像解析では、年齢や性別に関係なく水生昆虫を採食する様子が捉えられ、石の裏に潜む昆虫を指でつまむ、流れ落ちた昆虫を手ですくう、岩に付着したトビケラを口で剥ぎ取るなど、柔軟な採餌戦略が確認された。また、樹皮下の越冬昆虫や果実内の昆虫類も摂食対象となっていた。
研究者らは「高山地帯における気候変動の影響を、動物の行動変化を通じて実証的に捉えることができた」と述べており、今回の成果が気候変動研究に資するものであるという手応えを感じている様子がうかがえる。