東京大学大学院農学生命科学研究科は、静岡大学と共同で、日本のスギ林における炭素蓄積能力を精緻に評価する新たな林分成長モデルを構築したと発表した(掲載誌:Journal of Environmental Management)。――従来の収穫表に基づくモデルでは高齢林の成長が過小評価される傾向があったが、本研究では全国規模の森林資源調査(NFI)と既往文献(LS)を統合したデータセットを用いて、より現実的な成長パターンを再現した。
新たなモデル(NFI-LSモデル)によると、スギ林の最大炭素蓄積能力は247.1 MgC ha⁻¹であり、従来モデル(YTモデル)の135.5 MgC ha⁻¹に比べて約1.8倍高い。また、炭素蓄積量が頭打ちになる林齢は113年と試算され、従来認識の86年よりも長く、比較的高齢まで炭素を蓄え続けられることが示された。すなわち、伐期を迎えたスギ人工林に対しても、炭素固定能を見越した長期管理の有用性が示唆された。さらに、階層モデルによる解析では、スギ林の成長特性が地域ごとに有意に異なることが明らかとなった。関東地方や太平洋側では炭素蓄積能力が高く、山陰地方では低い傾向が見られた。これらの地理的変異は、日本列島の多様な生育環境や地域ごとの施業の違いに起因すると考えられる。
総じて、将来予測では現在の伐採量と再造林率を維持した場合でも、2100年までに750 TgC以上の炭素を蓄積できる可能性が示された。再造林率を100%に高めれば、1000 TgC以上の蓄積も可能である。これらの結果は、木材供給と炭素蓄積の両立が可能であることを示しており、カーボンニュートラル社会の実現に向けた森林管理の重要性を改めて浮き彫りにした。