環境技術解説

代替フロン・ノンフロン

 代替フロンとは、オゾン層破壊物質としてモントリオール議定書で削減対象とされた「特定フロン」(クロロフルオロカーボン、CFC)を代替するために開発された物質のことで、水素原子を含むハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)等がある。
CFCは安定な物質で、冷蔵庫・冷凍庫の冷媒や断熱材の発泡剤として用いられてきたが、大気中に放出されると成層圏まで上昇し、紫外線で分解され、オゾンと反応してオゾン層を破壊すると考えられることから、国際的に生産規制等が行われている。
 オゾン層の破壊を防ぐためには、CFCの代わりに、塩素原子を含まず、成層圏に達する前に破壊される物質に転換することが有効であることから、塩素原子を水素原子で置換した化合物の利用が進められている。特に塩素原子を含まないHFCはオゾン層の破壊を引き起こさない。しかし、HCFC、HFCともに二酸化炭素に比べて強い温室効果を示すことから、地球温暖化対策の面から削減が必要とされており、HFCは京都議定書の対象となっている。これらのモントリオール議定書と京都議定書の関係は図の通りとなっており、CFCをまず全廃した後、HCFCも将来的には全廃し、HFCも京都議定書の枠内で削減を図ることとされている。
 こうした動きに対応して、ノンフロン冷媒や発泡剤の開発が進められている。アンモニアや二酸化炭素等を冷媒に用いた冷蔵庫・冷凍庫や、シクロペンタンを発泡剤としたノンフロン断熱材が開発・実用化されている。また、冷媒の代わりに水素吸蔵合金を使用した新しいタイプの冷凍システム(MHシステム)なども研究されている。

代替フロンへの転換の動きとモントリール議定書、京都議定書の関係
出典:環境省「改正フロン回収・破壊法 詳細版パンフレット(平成21年7月)」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/cfc/law/kaisei/pamphs.html

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1.背景

1)オゾンホールとオゾン層破壊の原因

 1980年代中頃に、北極や南極上空の成層圏のオゾン濃度が春期に減少しているとの報告が、日本の南極昭和基地や海外の研究者から行われた。オゾン層の濃度が減少した部分は、人工衛星の画像解析によって穴のように見えることからオゾンホールと名付けられた。この原因として、人為的に製造・使用されるフロン、ハロンが大気中を拡散してオゾン層に達し、そこで光化学反応を起こすことが指摘された。その反応機構は、図1のように考えられている。大気中に放出されたフロンは、対流圏中では安定なため、そのまま上空へ拡散し、成層圏に達する。すると光のエネルギー(紫外線)により分解され、塩素原子(Cl)を生じる。生じた塩素原子は、オゾン(O3)と反応し、一酸化塩素(ClO)と酸素(O2)になる。一酸化塩素はさらに酸素原子(O)と反応して塩素原子が再び生じる。こうした反応が連鎖的に進むことにより、オゾンの破壊が進行する。
 実際にオゾンホールの観測データを見ると、1970年代末からオゾンホールの面積が拡大していることが明らかになった(図2)。


図1 オゾン層の破壊のメカニズム
出典:国立環境研究所 「環境科学解説:オゾン層の破壊」
http://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_02.html


図2 オゾンホールの面積の経年変化と南極上空のオゾン量の分布
出典:環境省「改正フロン回収・破壊法 詳細版パンフレット(平成21年7月)」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/cfc/law/kaisei/pamphs.html

2)モントリオール議定書

 オゾン層は地球に降り注ぐ紫外線を吸収する働きを持っていることから、オゾンホールの出現は、地表に達する紫外線の増加によって人や野生生物へ被害をもたらすことになる。そこで、オゾン層破壊を食い止めるための対策が必要という国際的な合意が形成された。これを受けて、1985年の「オゾン層保護のためのウィーン条約」、1987年の「オゾン層を破壊する物資に関するモントリオール議定書」で、フロンなどのオゾン層破壊物質に対する国際的な規制が始まった。我が国も1988年に議定書を批准するとともに、同年に「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法)を制定した。
 モントリオール議定書に基づき削減が進められている物質と、その規制スケジュールを図3に示した。規制の対象は、冷媒・発泡剤として使用されるフロン類のほか、溶剤として汎用されるトリクロロエタン、農作物等の薫蒸に使用される臭化メチルなども削減対象となり、これらのオゾン層破壊物質を段階的に削減していくことが決められた。これに伴い、先進国に対する規制は年々強化され、全廃の対象が広がっていくことになる。我が国でも条約による規制の強化に合わせてオゾン層の保護に関する法律を改正し、条約との整合性を確保している。


図3 モントリオール議定書に基づくオゾン層破壊物質の生産量及び消費量の規制スケジュール
出典:環境省「モントリオール議定書」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/montreal_protocol.html

3)フロンからの転換と関連の法制度

 上記のようなオゾン層破壊効果の強いフロンは、塩素原子を含んでいることがその原因である。したがって、塩素原子を水素原子に置換することにより、オゾン層破壊効果を抑えることができる。代替フロンは、このような考え方で新たに利用されるようになった物質で、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などが含まれる。
 HCFCは塩素を含むが、水素を含むフロンであるため、対流圏内で分解されやすい。そのため、成層圏のオゾン層に達する確率は低く、オゾン層破壊への影響はフロンの1/10~1/100とされている。しかし、HCFCもCFCに比べて弱いとはいえ、オゾン層破壊効果を持つことから、モントリオール議定書により、2030年(その後、1995年のウィーン会合での決議により、前倒しして2020年)に全廃することが定められている。
 一方、HFCは塩素原子を含まないことから、オゾン層破壊は生じず、代替フロンとしては最適と言える。しかし、HFCは二酸炭素の140~11700倍という強い温室効果をもつため、京都議定書の削減対象とされている。これらの国際的な規制と国内法との関連は図4、図5の通りである。
 国際的な枠組みとしては、CFCをまず全廃した後、HCFCも将来的には全廃し、HFCも京都議定書の枠内で排出削減を図ることとなっている。
 国内法では、オゾン層保護法により、特定フロン等の生産・輸入を段階的に廃止するとともに、冷凍空調機器から、CFC、HCFC、HFCを回収するために「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(フロン回収・破壊法)」が2001年に制定されている。この法律では、自動車用エアコン、業務用エアコン、冷凍機器の冷媒として使用されているフロン類の回収・破壊が義務づけられた。このうち、自動車用エアコンからのフロン回収については、2005年1月から施行された自動車リサイクル法(「使用済自動車の再資源化に関する法律」)に引き継がれている。また、家庭用のエアコン、冷蔵庫の冷媒用フロンおよび断熱材フロンについては、2001年4月から完全施行された「特定過程用機器再商品化法(家電リサイクル法)」によって回収が義務づけられている。


図4 代替フロンへの転換の動きとモントリール議定書、京都議定書の関係
出典:環境省「改正フロン回収・破壊法 詳細版パンフレット(平成21年7月)」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/cfc/law/kaisei/pamphs.html


図5 フロン、ハロンと環境法制との関係
出典:環境省「改正フロン回収・破壊法 詳細版パンフレット(平成21年7月)」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/cfc/law/kaisei/pamphs.html

2. 技術の概要

1)代替フロンの開発と利用

 代替フロンの利用には、代替フロンの製造技術の確立が必要で、80年代後半から90年代前半にかけて活発に研究が行われた。その結果、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)、トリフルオロメタン(HFC-23)、パーフルオロメタン(PFC-14)など、多くの代替フロンが開発され、利用されている。代替フロンの主な利用用途を図6に示す。代替フロンは、特定フロンを代替する物質として、エアコン(家庭用、業務用、自動車用)、冷蔵庫、建材など、身近な環境ですでに使用されている。


図6 代替フロンの利用用途
出典:環境省「9月はオゾン層保護対策推進月間です」
http://www.env.go.jp/earth/ozone/month/index.html

2)ノンフロン製品の開発

 代替フロンはフロンの代わりとなるHCFC等を利用する技術のことだが、さらに踏み込んでフロンもしくはハロゲン系炭化水素を使用しない冷凍・空調システムや断熱材の研究も進んでおり、一部では実用化されている。

(1)冷凍・冷蔵空調システム

[1]ノンフロン冷媒
 ノンフロン型の冷凍・冷蔵空調システムでは、冷媒としてアンモニア、炭化水素、二酸化炭素が主に使用される。しかし、アンモニアでは漏洩時の毒性が問題になること、炭化水素では燃焼性が高く安全上の問題があること、二酸化炭素ではエネルギー効率が低いといった課題がある。このため、ノンフロン型の冷凍・冷蔵空調システムは限定的な利用にとどまっていた。
 2005年度から開始されたNEDOのプロジェクトでは、冷媒特性に優れるアンモニアが採用された。アンモニア容器を建物の屋上に設置することで安全対策を行い、万一の場合の中和設備も設けた。さらに、アンモニアの熱を建物内部に運ぶためのブライン(伝熱媒体)を工夫することで、コンビニ等の店舗で使用可能なノンフロン冷凍・冷蔵空調システムを実現することに成功した。2009年度には世界初となるコンビニ向けノンフロン型の省エネ冷凍・冷蔵・空調システムが発売される見通しである(図7)。なお、「ノンフロン冷蔵庫」とは、冷媒および断熱材発泡剤の双方ともフロンを使用しない冷蔵庫を指す。


図7 ノンフロン型の冷凍・冷蔵空調システム
出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)「よくわかる!技術解説:フロン対策技術」

[2]MH(水素吸蔵合金)冷凍システム
 水素吸着合金は、水素を吸収すると熱を放出し、水素を放出すると熱を吸収するという性質をもつ。これを利用すると水素の吸収放出のサイクルを用いて、熱の移動を行い、空調に活用することができる。MH冷凍システムは、このような発想から、ノンフロン型の環境低負荷型の冷凍システムとして研究が進められている。名称のMHは、金属水素化物(Metal Hydride)の頭文字をとったものである。
 図10に示す愛媛県西条市の研究開発の例では、工場や都市型メタン発酵装置などから発生する排熱と地下水や海洋深層水などの冷熱を有効利用できる水素吸蔵合金の開発を行い、この開発された合金を用いたMH冷凍機と炭化水素を用いた蒸気圧縮式冷凍機とを組み合わせることにより排熱や冷熱を有効利用できるハイブリッド冷凍装置の開発を行っている。


図8 MH冷凍システムを用いたハイブリッド冷凍システム
出典:経済産業省四国経済産業局 研究開発助成事業の成果一覧「水素エネルギー利用アドバンス型ハイブリッド冷凍システムの開発」

[3]ペルチェ効果を用いた冷凍システム
 ペルチェ効果とは、2種の金属の接合部に電気を流すと、一方の金属からもう一方の金属に熱が移動する現象のことである。これを利用すると、電気を流すことにより熱を移動させて冷却を行う電気素子が開発できる。このシステムは、コンピュータのプロセッサの冷却に使用されており、騒音を生じないことから、ホテルや病院の小型冷蔵庫、ワイン専用の冷蔵庫などに導入され始めている。

(2)断熱材に使用される発泡剤

 冷蔵庫、建材などに使用される断熱材には発泡剤としてフロンが多く使用される。これをノンフロン系の発泡剤(二酸化炭素、シクロペンタン)で代替する研究が進められており、一部で実用化されている。
 平成19年度から開始されたNEDOの「革新的ノンフロン系断熱材技術開発プロジェクト」では、革新的なノンフロン系発泡剤の開発を目指して研究が進められている。具体的には、二酸化炭素、超臨界二酸化炭素、シクロペンタンなどを用いて、高分子やハイブリッド材料に微細なミクロ、ナノ構造を導入することによって、代替フロン発泡剤を用いた断熱材を上回る性能を有するコーティング材や複合材、繊維などの断熱素材を開発している。

[1]業務用冷蔵庫
 図9は、シクロペンタンを発泡剤としたノンフロン断熱材を採用した冷蔵庫である。シクロペンタン発泡剤は工場設備の対応に巨額の費用がかかるため、家庭用の冷蔵庫では広く採用されているものの、業務用冷蔵庫ではやや対応が遅れていた。


図9 ノンフロン系発泡剤を用いた断熱材を使用する業務用冷蔵庫の例
出典:ホシザキ電機(株)NEWS RELEASE(2007年2月20日)
http://www.hoshizaki.co.jp/topics/070220.htm

[2]建造物の断熱材
 住宅等の建設現場では、建造物の断熱性を高めるために、ウレタンフォーム断熱材を現場で発泡させながら壁等に吹付ける吹き付け工程がしばしば採用される。こうした開放系での吹付け工程にもノンフロンの発泡剤が利用され始めている(図10)。


図10 ノンフロン発泡剤による現場吹き付け施工例
出典:アキレス(株)「ノンフロン吹付け断熱システム」
https://www.achilles.jp/product/construction/insulation/foam-in-place-polyurethane/

3. 技術を取り巻く動向

1)オゾン層破壊に関与する光化学反応の解明とオゾン層のモニタリング

 オゾン層保護対策を進める上では、オゾン層破壊のメカニズムを解明することが重要である。国立環境研究所では、従来からオゾン層破壊に関与する光化学反応についての実験的解明を進めるとともに、オゾン層のモニタリングを進めてきた。モニタリングについては、気象研究所と共同で、世界気候研究計画(WCRP)の下での「成層圏プロセスとその気候における役割研究計画(SPARC)」プロジェクトに参加している。
 最近の研究の結果、今後縮小することが期待される南極オゾンホールの動向が南半球対流圏での偏西風の強度に有意な影響を与える可能性のあることが見出され、オゾンホールと地球規模の気候変動との新たな関連が明らかになった(図11)。


図11 オゾンホールの観測結果から予測された偏西風の風速の将来変化
出典:国立環境研究所 記者発表「成層圏オゾン層の回復が対流圏気候に与える影響」(2008年6月13日)
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2008/20080613/20080613.html
12月-2月の偏西風の風速の将来変化(緯度-高度分布。増加-赤、減少-青。黒い等高線は風速を表す(10m/s間隔))

引用・参考資料など

(2010年2月現在)