環境技術解説

物質フロー分析(MFA)

 マテリアルフロー分析(MFA :Material Flow Analysis)とは、あるまとまりのあるシステム(国や地域など)における一定期間内(例えば1年間)のモノの流れ(投入・排出・蓄積)を、系統的にかつ定量的に分析する手法である。具体的には、1)課題の設定、2) 対象物(物質、製品又は地域等)とプロセスの選択、3)データの収集、4)フローチャートの作成、5)物質勘定と収支計算、6)計算結果の精査、7)フローチャートの完成、8)結果のまとめ・評価といった手順で分析が行われる。
 例えば下図に示すように、MFAによって世界の木材資源のフローを明らかにすることにより、木材資源の需給動向や地域的な偏り等が浮き彫りになり、持続可能な木材利用のための政策立案に役立てることができる。実際、わが国の「循環型社会形成推進基本計画」(平成15年3月策定)では、MFAによる分析結果が参考にされている。また、OECD(経済協力開発機構)でも、物質フロー・資源生産性に関する共同研究が行われた。さらに、個々の地域、企業レベルでは、都市ごみの処理・再資源化プロセスの実態把握や問題点の抽出、企業の事業活動に係る物質収支の報告などに用いられている。
 このようにMFAは資源循環型社会を形成していくための重要な分析手法となっている。

世界における木材の資源フロー(2003年)
出典:国立環境研究所「マテリアルフローデータブック 第3版」
https://www.cger.nies.go.jp/publications/report/d040/cd/HTML/Introduction.htm

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1.背景

 各地域あるいは国、さらに世界規模で循環型社会を構築していくためには、対象とする地域への資源の投入量とそこから産出される製品・廃棄物等のモノの流れを定量的に補足し、資源投入やリサイクルのあり方を考えながら、最適なモノの利用の流れを構築していく必要がある。
 このような問題意識から、マテリアルフロー分析(MFA :Material Flow Analysis)と呼ばれる、ある系における物質の投入・産出の流れと収支バランスを系統的かつ定量的に分析する手法へのニーズが高まっている。
 MFAは、あるシステムにおける物質フロー(資源の投入量、廃棄物の発生量、温室効果ガス・大気汚染物質の発生量等)を把握する点で、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とも関係が深い。LCAが特定の製品を対象とすることが多いのに対し、MFAは特定の地域を対象とすることが多い点で両者には違いがあるが、どちらも、ある製品・システムの物質収支を分析しようとする点で共通しており、循環型社会を形成していく上で欠かせないツールと言える。

2.MFAの概要

1)MFAの概要

 MFAとは、空間と時間で定義されたある系(system)内において、投入されるもの(input)、産出・排出されるもの(output)、蓄積されるもの(stock)について、それらの物質の流れと収支バランスを系統立ててかつ定量的に把握、分析する手法である。MFAを行うことで、システムの構成・全体像を把握し、物質フローの大きな変化の見極めや、システム内のプロセスの関連性、他システムとの連携が把握しやすくなるといった効果が得られる。また、企業の環境報告書において事業活動の環境負荷の概要を表すためにMFAが用いられている場合がある。
 図1には、MFAの初期の研究例として、オランダで行われた窒素のマテリアフルフローについての研究を示す。窒素は、肥料、飼料や食物の輸入などの形態で国土に投入され、食料、肥料等の輸出や河川・海からの流出によって国土から流出している。この図では、窒素のオランダ国土への流入、排出の実態を経路別に解析することにより、1990年のオランダ国内での窒素の蓄積量が、約74万5千トンに達することを明らかにしている。

図1 オランダにおける窒素のマテリアフルフロー(1990年)
出典:平成6年版 図で見る環境白書
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/eav23/eav230000000000.html

2)MFAの手順

 MFAの実施手順は、図2に示す通り、1)課題の設定、2)対象物(物質、製品又は地域等)とプロセスの選択、3)データの収集、4)フローチャートの作成、5)物質勘定と収支計算、6)計算結果の精査、7)フローチャートの完成、8)結果のまとめ・評価といったプロセスに基づいて実施される。

図2 MFAの作業手順
出典:『循環型社会評価手法の基礎知識』(田中勝編著,技報堂出版)

(1)課題の設定
 まず、どのような目的で、何を、どこまで明らかにしようとするのかを明確にする必要がある。例えば、具体的には、ある製品の製造プロセスのロスや改善点を抽出する、ある地域で廃棄物処理計画を策定するといった様々なケースが考えられる。

(2)対象物(システム)とプロセスの選択
 課題が決定されれば、次は対象とする物質や製品、地域を選択し、そのプロセスを決定する必要がある。また、目的に応じて空間と時間によりにシステム境界をしっかりと決定することが重要になる。システムの境界は地域、国であったり、工場であったりする。

(3)データの収集
 対象とするシステムにおける物質フローを想定しつつ、システムを構成する各プロセスの物質収支に関して、実績値や統計データ、書籍などを用いてデータを収集し、データシートを作成する。データの不足が生じる際は、アンケート調査やヒアリング調査を行い、データの補完をする必要がある。

(4)フローチャートの作成
 作成したデータシートをもとにフローチャートを作成する。プロセスは、製造、処理などの変換過程や、収集、輸送、さらには貯蔵などがあてはまる。MFAは空間と時間で定義されているので、フローは単位時間当たりの物理量(t/年など)で表し、地域での変化を対象とした場合には単位面積当たり(t/(m2・年)など)や人口当たりの変化量(kg/(人・日)など)として表される。
 図3の具体例では、重金属の一種である鉛のマテリアフルフローとして、わが国における一年間の新鉛や再生鉛の生産量やその用途別内訳、廃棄物としての発生量などが示されている。

図3 鉛のマテリアルフロー(フローチャート)の例
出典:平成9年版 環境白書
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/img/209/fb1.2.1.23.gif

(5)物質勘定と収支計算
 インプット、アウトプットデータを検証し、それらが一致するか確認する必要がある。収支が合わない場合は、フローに未計上・未調査の部分がないか確認した上で、最終的な収支をストック量として計上する。水分を多く含むものを対象物とした場合は、水分要素が抜け落ちないように注意する必要がある。結果によっては、データの収集を見直す必要がある。

(6)フローチャートの完成
 はじめに設定した目的を達成できるかたちに、図形などを用いて視覚的に理解しやすい表現方法でフローチャートを完成する。図4に示す例では、世界の木材資源のフローが示されている。これによれば、ロシア、米国、ブラジル等の木材原産国から、欧州や米国、日本等の木材消費国に木材資源が流入していることが、その量(矢印の太さ)とともに視覚的に把握できる。このようにして、世界の木材資源のフローを明らかにすることにより、木材資源の需給動向や地域的な偏り等が浮き彫りになり、持続可能な木材利用のための政策立案に役立てることができる。

図4 世界における木材の資源フロー(2003年)
出典:国立環境研究所「マテリアルフローデータブック 第3版」
https://www.cger.nies.go.jp/publications/report/d040/cd/HTML/Introduction.htm

(7)結果のまとめと評価
 以上の結果から、評価を行い、初めに決定した課題の検討を行う。目的が、システム内のロスや問題点を把握し改善の可能性を探ることであれば、プロセスのどの部分でどのような損失が生じているのかなどを把握し、問題点の抽出を行い、改善案を検討する。MFAに基づいてフローやストックを理解し、システム全体を把握することで、システム内で重要な資源は何か、優先して考えるべき問題点はどこかを把握でき、効果的なシステムの設計が可能となる。

3)サブスタンスフロー分析(SFA)

 MFAに包含される分析手法としてサブスタンスフロー分析(Substance Flow Analysis:SFA)がある。
 MFAが製品、天然資源、廃棄物などの全体的な流れを対象とするのに対し、SFAは製品中の鉛などの元素やCO2、有害物質といった微量成分に着目して、製品等のフローとその中における有害物質等のフローの位置づけを解析することを主眼とする。
 SFAは、重金属類や窒素などの大気・水域・土壌への排出予測や、リサイクル過程における製品内での有害物質の蓄積状況の把握などに用いられている。その基本的概念や目的、実施手順等はMFAと同様であるが、計算する上ではMFAに加えてマテリアル中の微量成分の濃度情報などが必要となる。

3.MFAの適用事例

1)我が国の物質フロー

 環境省の「環境・循環型社会白書」には、我が国における物質フローの全体像が掲載されている(図5)。この図の目的は、我が国における物質フロー全体の把握と問題点の抽出を行い、さらに循環型社会基本計画で設定した物質フロー指標に関する目標の達成状況について把握することにあり、システムの境界は日本国となっている。
 図では、左に物質の投入、右に蓄積及び排出の量が表されている。また右から左に循環利用量が表されている。この図を見ると、総物質投入量の18.7億トンに対して循環利用量は約8分の1の2.3億トンであること、資源・製品の輸入量が約8.2億トンであるのに対して、輸出量が約1.6億トンであることが分かる。また、資源・製品の蓄積純増が約8.2億トンあり、資源・製品などの投入量と排出量がアンバランスで国内に多くの資源・製品が蓄積されていることや、循環利用量の水準が低いなどの問題点が把握でき、循環型社会を構築していく上での今後の課題を抽出することが可能となる。

図5 わが国における物質フロー(平成17年度)
出典:平成20年版 環境・循環型社会白書
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/index.html

2)物質循環指標の作成

 国立環境研究所では、マテリアフルフローに基づく「物質循環指標」について研究している。この研究では、マテリアフルフローの分析結果にもとづいて、「直接物質投入量」「使用済み製品の再生利用率」「使用済み製品の再資源化率」等の6種類の指標を作成し、循環型社会構築という目標の達成状況を評価できる枠組みを提案している。
 なお、この研究で示された循環指標は、平成15年3月に閣議決定された「循環型社会形成推進基本計画」における、マテリアルフローに着目した数値目標の策定に利用された。

図6 マテリアフルフローに基づく「物質循環指標」
出典:国立環境研究所 環境儀No.14「マテリアルフロー分析 モノの流れから循環型社会・経済を考える」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/14/02-03.html

3)マテリアルフローデータベースの構築

 国立環境研究所では、大量の物質フローに特徴づけられた今日の人間社会と環境問題の関わりを分析する上で、自然環境と人間社会の間及び人間社会における様々な主体間の物質フローを把握することが不可欠との観点から、さまざまな物質フローの推計を行い、データベースとして整備している(図7)。
 図7は、図4の木材資源のフローをさらに拡張し、主要資源全体についてのフローを示している。この図によれば、化石燃料、バイオマス資源、鉄・銅などの汎用的に利用される金属の主要資源の途上国から先進国へのフローが明瞭に示されている。これらの研究は、OECD(経済協力開発機構)の物質フロー・資源生産性に関する理事会勧告や、第3次環境基本計画におけるエコロジカルフットプリント(人間活動による資源消費量を当該資源の生産に必要な土地面積に換算することなどにより、人間が自然生態系に残した影響[足跡]の大きさを示した指標)の導入方針といった国内外の循環型社会形成のための政策にもつながっている。

図7 世界における主要資源の貿易フロー(2003年)
出典:国立環境研究所「マテリアルフローデータブック 第3版」
https://www.cger.nies.go.jp/publications/report/d040/cd/Flow/pdf/World/1983/Material1-83.ctl.pdf

4)企業におけるMFAの適用事例

 企業の環境配慮の取組みや事業活動に係る環境負荷を公表する環境報告書において、事業活動の透明性を高めることを目的として、MFAを応用している事例が増えている。多くの場合、環境報告書の読者にわかりやすいように、フローチャートには写真や絵が利用され視覚的効果が工夫されている。
 図8は家電製品等の製造企業における一例であるが、エネルギーや原料の投入、廃棄物の利用を入口として、事業活動の概要をフローチャートでわかりやすく示し、出口に環境負荷物質の排出量を列記する手法でMFAが応用されている。このことにより、エネルギーや資源をどれだけ使用して製品ができ、その際何がどれだけ排出されているのか把握することができる。
 最近では、工程に投入された資源のフローを、原材料、エネルギーのみならず人的資源も含めて把握し、その量と金額(原材料費、燃料費、労務費等)の発生状況を解析することにより、廃棄物等の環境負荷の削減とコスト削減を同時に達成しようとする会計手法として、マテリアルフローコスト会計(MFCA :Material Flow Cost Accounting)の開発も進められている。
このように、MFAの考え方は、企業の環境経営にとっても重要になってきている。

図8 企業におけるMFAの事例
出典:シャープ環境・社会報告書2008

引用・参考資料など

(2009年6月現在)