環境配慮設計とは、「製品のライフサイクル全般にわたって、環境への影響を考慮した設計」のことを言い、DfE(Design for
Environment)、環境適合設計、エコ・デザインなどと呼ばれることもある。
家電製品をはじめ複写機、自動車などのメーカーでは、従来から省エネや安全配慮などの観点も含め、業界ごとにガイドラインを作成する等の取組みを行っていたが、「資源有効利用促進法」(平成13年4月施行)により、具体的な業種・製品が対象として指定され、設計段階における3R(リデュース、リユース、リサイクル)等への一層の配慮が求められるようになった。
環境配慮設計における主要な配慮要素としては、3R、廃棄物処理の容易性、省エネルギー、特定化学物質の使用制限などが挙げられる。下図の家電製品の事例では、製品ライフステージの各段階において配慮が必要な14の評価項目が整理されている。
家電製品アセスメントにおける14の評価項目
出典:環境省「製品アセスメントマニュアル発行と法整備との関係」
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かつて公害が大きな社会問題であった時代には、工場からの排水や排気ガスによる水質、大気、土壌等の汚染に対し、工場等の排出口での汚染物質の排出基準が設けられた。生産事業者等は、その基準に合致させるため、工場等に排水施設や排気ガス処理施設を設置して対応した。このような方策は、製造工程の末端で対策するという意味で「エンドオブパイプ(End of Pipe)」と呼ばれている。
しかし、1990年代になって、廃棄物発生量の増大や地球環境全体が問題とされる中、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットで採択されたアジェンダ21に、「クリーナープロダクション」の推進が取り上げられた。これは、エンドオブパイプとは異なり、生産工程の上流から対策を講じようという考え方であり、原料の採取から製品の廃棄、再利用に至るすべての過程において、環境への負荷を削減しようとするものである。この手法により省エネルギー化や省資源化が進むことで、材料費、廃棄物処理費、処理施設費用等が削減され、生産コストの低減化も図られる。したがって環境配慮設計では、環境配慮の対象を製造段階だけでなく、消費やリユース、リサイクル、さらには最終処分の段階までをふくめて取り組んでいくことが求められる。
このような流れの中で、2000年代になって循環型社会および低炭素社会への転換が求められるようになり、特に「循環型社会形成推進基本法」(平成13年1月施行)において廃棄物等の発生抑制、再使用、リサイクル等が求められる中、設計段階から製品のライフサイクル全体での環境負荷を削減するための設計上の配慮を行うことの重要性が認識されていた。このため「資源有効利用促進法」(平成13年4月施行)では、具体的な業種・製品を指定して、設計段階における3R(リデュース、リユース、リサイクル)等への配慮を求めており、家電製品をはじめ複写機、自動車等で取り組みが進められている。
また、国際的にも国際標準化機構(ISO)が、経済活動での環境配慮に関して定める規格シリーズ(ISO14000番台)の中に、環境適合設計(DfE:Design for Environment)に関するものを定め(2002年)、製品設計段階からの環境配慮の普及を促進している。さらに、2004年には環境マネジメントシステム(ISO14001)が改訂され、規格の取得者(製造事業者等)が直接管理できなくても影響を及ぼすことができる環境側面(使用時、廃棄時等)もマネジメントの対象となり、製品のライフサイクルやサプライチェーンの管理が求められるようになるなど、環境配慮設計の重要性が増している状況にある。
環境配慮設計とは、「製品のライフサイクル全般にわたって、環境への影響を考慮した設計」であり、「DfE(Design for Environment)」、「環境適合設計」、「エコ・デザイン」などとも呼ばれる。これらは、単に「設計」という段階だけでなく、広く調達、製造手法、廃棄物管理なども含むマネジメント活動全般にも大きく関わるという特徴がある。
環境に配慮した製品の設計については、電機、自動車、事務機器などの各業界団体等においてガイドラインを作成することなどにより、推進されている。表1に例として、家電製品、パソコン、複写機における業界ガイドラインの評価項目とその記述状況を示す(図1には、家電製品の製品ライフステージの各段階と環境配慮が必要な14の評価項目との関係が整理されたものを示す)。この表によれば、リデュースに関わる項目として、製品資源の減量化、製品稼働に伴う資源の減量化、製品の長期使用性が3品目すべてでガイドラインに記載されているほか、収集・運搬時の作業性向上、共通的な省エネルギー化などが共通の配慮事項となっている。実際の検討にあたっては、設計者が、素材、部品、製品の各レベルにおいて、各評価項目について検討し、製品設計に反映させる。
具体的な素材レベルの検討事項としては、使用物質の量を減じること、可能な限り同一の素材を用いること、混合しても再資源化に支障のない素材の組み合わせを選ぶこと、製品内では同一素材部をできるだけ集中させること、再生可能材料を使用することなどがある。
部品レベルでは、再利用やリサイクル処理の容易性から少数化、規格化・標準化やできるだけ分離させやすい結合方法の採用などが検討事項となる。
さらに、製品レベルでは、部品の統合によって再利用や再資源化が可能な部分を取り出しやすくするとともに、ねじの向きを揃えるなどといった、解体の方向性への配慮や使用工具の低減、接合箇所の減少やその方法の改善を通じて、できるだけ解体しやすくすることが重要である。このほか、リサイクル可能なものにはその素材がわかるようにマーキング(材料識別表示)をすること、輸送・運搬が容易なように大型の製品にあっては分割できる構造とすること、破砕・選別・焼却といったリサイクル及び処理方式に適するように難破砕部品を事前に取り出しやすくしたり、焼却の際に二次汚染物質が発生しないようにしたりする配慮が必要である。また、複写機のように製品使用時に再生紙を使用できるような機能を付加することも環境配慮設計としては重要である。
評価項目 | ガイドラインにおける記述 | |||
---|---|---|---|---|
家電製品 | パソコン | 複写機 | ||
リデュースの評価 | 製品資源の減量化 | ● | ● | ● |
製品稼働に伴う資源の減量化 | ● | ● | ● | |
製品の長期使用性 | ● | ● | ● | |
希少原材料の減量化 | ● | |||
再生資源・再生部品の使用 | 再生資源の使用 | ● | ● | |
再生部品の使用 | ● | |||
リユースの評価 | リユース対象ユニット・部品の明確化 | ● | ● | |
リユース対象ユニット・部品を回収するための解体、分離の容易性 | ● | |||
リユースの判定基準 | ● | |||
リユースユニット、部品の清掃容易化 | ● | ● | ||
回収(収集)・運搬の容易性 | 収集・運搬時の作業性向上 | ● | ● | ● |
収集・運搬時の積載性向上 | ||||
事前に分解を要する場合の環境保全等への対応 | ● | |||
分離・分別処理の容易性 | 分離・分別対象物の明確化 | ● | ||
材料・部品の種類及び点数の削減 | ● | |||
分離・分別のための表示 | ● | ● | ||
材料・部品の分離・分別容易性 | ● | ● | ● | |
単一素材への分離・分別性 | ● | |||
リサイクルの評価 | リサイクルが可能な材料、部品の特定と選択 | ● | ● | |
処理容易性(処理の安全性、処理の作業安全性) | 破砕・選別処理の容易性 | ● | ● | |
処理時の安全性 | ● | ● | ||
処理に関する表示と情報開示 | ● | |||
安全性・環境保全性 | 製品に関わる安全な材料・部品の選定 | ● | ● | |
製造工程における有害な物質の使用削減 | ● | ● | ||
製品使用中での環境に影響を与える物質の発生回避 | ● | ● | ||
有害な物質を含む材料・部品のリサイクルと適正処理 | ● | ● | ||
環境影響化学物質(有害物質)の使用量削減 | 環境影響化学物質(有害物質)の使用回避 | ● | ||
省エネルギーの評価 | 共通的な省エネルギー化 | ● | ● | ● |
製品の用途に応じた省エネルギー化 | ● | ● | ||
消費電力及びエネルギー消費効率等の明示 | ● | |||
包装材の評価※ | 包装の減量化・減容化・簡素化 | ● | ● | |
包装の再使用 | ● | ● | ||
再資源化の可能性の向上 | ● | ● | ||
処理及び最終処分における環境保全性 | ● | |||
有害性・有毒性 | ● | |||
包装材の表示 | ● | ● | ||
再生資源の使用 | ● | |||
情報提供の評価 | 評価基準及び評価方法 | ● | ● | ● |
LCA | 製品のライフステージごとの環境負荷の把握 | ● | ||
環境負荷低減の可能性 | ● | |||
製造段階における環境負荷低減 | 有害性・有毒性 | ● | ||
廃棄物等 | ● | |||
省エネ性 | ● | |||
その他環境負荷低減 | ● | |||
流通段階における環境負荷低減 | 製品及び包装材の減量化・減容化等 | ● | ||
輸送方法の工夫 | ● |
※:複写機では、「(製品の)各項目に準じる。ただし材料表示を除く」という評価項目が設定。
(出典)
家電製品:(財)家電製品協会「家電製品 製品アセスメントマニュアル 概要版」(2003年1月)
http://www.aeha.or.jp/assessment/admin/doc/Product_Assessment_Manual_jpn.pdf
パソコン:(社)日本電子工業振興協会「情報処理機器の環境設計アセスメントガイドライン(第2版)」(2000年9月)
複写機:(財)クリーン・ジャパン・センター(委託先:(社)日本事務機械工業会)「製品アセスメントマニュアル作成のためのガイドライン調査報告書(複写機等)」
出典:経済産業省「循環型製品・システム評価研究『企業等における循環システムの高度化・国際化に関する調査』」(2005年3月)
http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/h16fy/161012-3_mri.html
図1 家電製品アセスメントにおける14の評価項目
出典:環境省「製品アセスメントマニュアル発行と法整備との関係」
(1)事務機器
ノートパソコンなどOA機器の液晶ディスプレイの偏光板保護用に使用されるTAC(トリアセチルセルロース)フィルムにおいて、厚さを従来の半分にした薄膜タイプの導入が進んでいる。これにより、使用する材料資源量の半減が期待できる(図2)。
また、デジタル複合機全機種のすべての外装部品を2種類の樹脂材料に統一し、後継機種などに樹脂をリサイクルするクローズドマテリアルリサイクルの試みも行われている(図3)。中でも、高い外観品質・強度・耐炎性などが求められる外装カバー部品へのリサイクルにも取り組み、リサイクル拠点に専用の樹脂部品の破砕機を設置し、異物除去の仕組みを強化することで、純度の高いプラスチック素材の再生リサイクルを可能にしている。この例では、毎年およそ100トンの再生プラスチックを循環利用している。
図2 液晶ディスプレイ断面図 |
図3 外装樹脂部品 |
出典:コニカミノルタ環境報告書2008 |
(2)自動車
使用済み自動車のリサイクル、部品の再利用を考え、設計段階においてリサイクルのしやすい材料や構造を選択するなど、3Rを配慮した設計を行うとともに、部品の締結点数の削減、車両への取り付け点数を減らすなどの工夫が行なわれている。図4に示す具体例では、バンパー、内装トリム、外装トリム等にリサイクルしやすい材料を使用するとともに、解体しやすい構造とするなど、ボディの解体性向上に配慮している。
図4 自動車における環境配慮設計の事例
出典:日産自動車(株)「リサイクルしやすい構造」
また、図5に示すように、樹脂部品にISO14001に沿ったマーキング(材料識別表示)を施すことにより、樹脂のリサイクルが進められている。
図5 マーキングの表示
出典:日産自動車(株)「リサイクルしやすい構造」
(3)冷蔵庫
複合部品(ステンレスとポリスチレン(PS)樹脂)で構成される食品棚においては、樹脂側の爪を簡単に破壊できる構造とすることで、補強用のステンレスを容易にPS樹脂から分離できるようにする工夫が行われている(図6)。
図6 食品棚の解体性改善
出典:(財)家電製品協会「環境配慮製品の更なる普及へ向けて」
また、(財)家電製品協会ではGマーク(実装基板に特定の化学物質が使用されていないことを示すため、同協会の製品ガイドラインで定められているマーク)及びはんだの種類を各種の制御基板に表示することを推奨しており、適正な分解作業の促進に貢献している(図7)。
図7 制御基板へのGマークとはんだの種類の表示
出典:(財)家電製品協会「環境配慮製品の更なる普及へ向けて」
(4)洗濯機
洗濯機はモーター、パルセーター(水を回転させる羽根)、洗濯槽など様々な部品から構成される。図8は、洗濯機のパルセータユニットの特殊ナットを通常の6角ボルトに置換することで、一般の工具を用いて容易に分解できるようにした事例である。これにより、洗濯機の分解性が向上し、リサイクルが容易になった。
図8 環境配慮設計の事例
出典:平成19年度版 環境・循環型社会白書
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h19/html/hj07020102.html
(5)その他
解体しやすい接合方法としてはスナップフィットが注目されている。スナップフィットとは、部品をはめると締結部がばねとして作用して部品を固定するものであり、弾性を利用した組み立て手法である(図9)。部品点数が少なく、組立に特別な工具を使用しないこと、分解が容易であることから、パソコンや家電製品、レンズ付きフィルム等のプラスチック部品の接合に採用される例が増えている。
図9 スナップフィットによる組み立てイメージ
出典:科学技術振興機構Webラーニングプラザ
国立環境研究所の研究「家電リサイクル法の実態効力の評価」では、(財)家電製品協会の「製品アセスメント事例集」に掲載された環境配慮設計(DfE)の事例数を図10に示すように整理している。省エネや安全性に係る配慮事例が多く、また、減量化、再資源・再生部品の利用、分離・分別の容易化といったリサイクルに関する配慮も進んでいることが分かる。特に後者においては、リサイクルの現場からの情報をもとにしたより実効的な環境配慮設計がされるようになったことが報告されており、単に事例数だけではない進展も認められるようになった。
今後は、環境配慮設計の進展による効果を評価するとともに、それをさらなる環境配慮設計にフィードバックさせていくことが重要になってくると考えられる。
図10 製品アセスメント事例集に掲載された家電4品目のDfE事例数の推移
出典:国立環境研究所 研究報告 第191号「家電リサイクル法の実態効力の評価」
http://www.nies.go.jp/kanko/kenkyu/pdf/r-191-2006.pdf