京都大学、バーゼル大学 Biozentrum、北海道大学、東北大学および基礎生物学研究所からなる研究チームは、水中に生息する微生物が有する「水流に逆らって遡上する性質(走流性)」の実態や背景メカニズムを実証した。身近な河川や湖沼には多様な遊泳真核微生物(原生生物)が分布しており、バクテリアを捕食して淡水環境の浄化に貢献し、食物連鎖を支えている。それらの原生生物は生息環境に適応し、原位置周辺から一方的に海に流されてしまうとは考えにくいことから、以前から「走流性」の存在が指摘されてきた。同研究チームは、ゾウリムシと同じ繊毛虫の一種である「テトラヒメナ」を用いて、人為的な流れを加えたときの挙動を顕微鏡で観察し、流体シミュレーションを併用したメカニズムの詳細解明に取り組んだ。その結果、流れが弱いときの遊泳方向はランダムであるが、流れが強くなるにつれて遊泳方向が上流を指向するようになり、実験装置の壁面近傍では「繊毛」の自律応答性を利用して遡上する個体が出現することが明らかになった。さらに各種実験のデータに基づくシミュレーションによって、同種のような形状(回転楕円体)であれば、走流性が再現されることが分かった。観察結果と計算実験の結果が定性的に一致することが確認されたことから、この水生微生物の走流性は「形状」と「繊毛」によって発現したと結論している。陸水域における微生物の分布予測や生物生産性の評価に応用展開することで、SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」への貢献が期待できるという。