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 国環研、「光合成を失う進化」の謎に接近

発表日:2022.01.26


  国立環境研究所は、光合成能力を消失する直前にあると考えられる「藻類」を発見した(世界初)。同研究所は、1983年に微生物系統保存施設(NIESコレクション)を開設し、多様な藻類の培養株を収集・保存・提供している(約1,000種、合計3,000株以上)。藻類の多くは光合成(独立栄養)生物であるが、葉緑体の痕跡が見られ、藻類の仲間から進化したと思われる非光合成生物が報告されている(例:マラリア原虫)。藻類の一種「クリプト藻」は、光合成を行う種と光合成能力を失った種が、近縁種間に存在するという珍奇な特徴を持っている。今回、同研究所は、クリプト藻培養株135株から16株を選抜し、それらの「葉緑体ゲノム」を網羅的に解析した。その結果、Cryptomonas borealisという種は光のみで培養できるにもかかわらず、光なしでも水中の有機物を吸収して増殖することが分かった。同種の葉緑体ゲノムは、光合成をやめた種により近い状態であることも分かったことから、“光合成を維持しながらも、従属栄養を行うといった光合成能力を消失する直前にある藻類”と考えられた。さらに葉緑体ゲノムに焦点を当て、クリプト藻が光合成能力を消失するまでの過程を推定したところ、遺伝子の一部に含まれ、転写時に切り出される不要な塩基配列(イントロン)の増加・転移が認められ、異なるDNA配列を持つ集団(コピー)が増えることが明らかになった。こうしたゲノム構造変化が、光合成関連遺伝子の欠失を引き起こしたと推測している。クリプト藻は淡水から海水まで広く分布している。その進化に関する理解が進むことで、水域生態系のさらなる理解や、餌資源の最適化を通じた養殖魚の品質向上なども期待できるという。

情報源 国立環境研究所 報道発表
NIESコレクション
機関 国立環境研究所
分野 自然環境
キーワード 微生物系統保存施設 | 独立栄養 | クリプト藻 | 保存培養株 | 葉緑体ゲノム | Cryptomonas borealis | 従属栄養 | イントロン | ゲノム構造 | 養殖漁業
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