東京大学大学院新領域創成科学研究科、同大学大気海洋研究所および港湾空港技術研究所の研究グループは、マングローブ湿地帯における炭素の長期的な移動を評価する新たな手法を提示した。
マングローブ林は、空気中のCO2を取り込み、有機物として土壌に長期貯留する。近年、こうした自然のしくみは、地球温暖化の進行を抑える「ブルーカーボン生態系」として注目されている。マングローブ湿地帯における炭素隔離は気候変動緩和に寄与するとされてきたが、分解された有機物が溶存無機炭素として海洋に輸送されるプロセスも存在する。
本研究は、石垣島吹通川のマングローブ林を対象に、放射性炭素を用いた解析により、湿地から海洋へ流出する溶存無機炭素が平均して数百年前にマングローブが生産した有機物に由来することを明らかにしている。──研究グループは、マングローブ湿地における炭素の動態を評価するため、24時間の連続採水を実施し、溶存無機炭素の濃度と炭素同位体比を分析した。その結果、下げ潮時に炭素濃度が上昇し、放射性炭素同位体比が低下する傾向が確認された。さらに、複数の物質収支モデルを用いて、湿地内部で生産された溶存無機炭素の起源を推定した結果、数百年前にマングローブが光合成により固定した有機物が分解され、現在の海洋に流出していることが示された。
従来、鉛やセシウムなどの放射性同位体を用いて数十年から百年スケールでの炭素貯留量が評価されてきたが、本研究は、より長期的な炭素移動の実態を明らかにするものである。放射性炭素(14C)を用いた手法は、ブルーカーボン生態系における炭素の長期的な隔離と再流出の評価に有効であり、気候変動緩和機能の精緻な理解に貢献すると考えられる(掲載誌:Limnology and Oceanography)。