東邦大学、千葉大学および国立環境研究所の研究グループは、東アジアの沿岸に分布する「アナジャコ(学名:Upogebia major)」の遺伝的多様性や集団(地域個体群)構成を解明し、同種の分散に係わる新洞察を得ることに成功した。アナジャコはエビ目(十脚目)に属する甲殻類の一種で、潮間帯に深さ2 m以上の巣穴を作る。日本ではタイやウナギなどの釣り餌として人気が高く、潮干狩りシーズンに干潟で巣穴の密集場所を見つけ、毛筆を挿入する捕り方が普及し、食材としても珍重されている。アナジャコは日本、韓国・中国・日本海に面したロシア沿岸(以下「大陸」)に広く分布している。しかし、本種の生態学的な特徴は十分理解されておらず、広域的な標本採集が困難であることから、各集団の遺伝的な関係は謎に包まれていた。他方、アナジャコの造巣行動は底質環境を激変させ、その巨大な巣穴や体は多様な共生生物の棲み処となる。本種の行動や存在は周辺の底生生物の多様化に寄与するため、科学者も熱い視線を向けている。本研究では、依然不確かなアナジャコの系統地理、遺伝的多様性の把握を目指し、形態的多様性の評価とともに、日本と大陸の標本のミトコンドリアDNAの部分配列(COI)を対象とする遺伝学的集団構造解析を行った。本アプローチによって得られたハプロタイプのネットワーク図から、日本沿岸のアナジャコは4つのグループに分かれていると解釈された。また、各グループを構成する標本の由来(①全国各地、②地域固有、③大陸)や遺伝的距離などを考慮した結果、アナジャコは2つのルートをたどって分散した可能性が浮かび上がってきた。すなわち、日本列島を取り囲む海流によって幼生が南北に分散するルートと、輸入アサリに紛れて非意図的に持ち込まれたルートが複合的に進んだ可能性が示唆された。さらに、③には福島県相馬市松川浦産の1標本が含まれ、形態・遺伝子共に他のグループとは有意に異なることから、「亜種」である可能性も示唆された。本成果は、あらゆる生物で起こり得る“自然分散/人為的分散の共存”の評価という、今後の生物学・水産学において重要かつ新規性のある課題を突き付けている、と結んでいる(DOI: 10.3897/zookeys.1182.105030)。
情報源 |
東邦大学 プレスリリース
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機関 | 東邦大学 千葉大学 国立環境研究所 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 底生生物 | 遺伝的多様性 | 標本 | 亜種 | アナジャコ | 系統地理的パターン | 遺伝学的集団構造解析 | ハプロタイプネットワーク | 自然分散 | 人為的分散 |
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