森林総合研究所と北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場らは、東日本のナラ枯れ被害域拡大を引き起こしている「カシノナガキクイムシ」の由来を遺伝情報から明らかにした。ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが樹木の幹に多数穿孔し、この虫が媒介する病原菌によって、ナラ類やカシ類などの樹木が大量に枯死する現象である。近年の東日本では関東平野や北東北、北海道南端部で被害が拡大している。──研究グループは、東日本各地から採集したカシノナガキクイムシ165個体からDNAを抽出し、多数の遺伝子座の塩基配列を解読した。これにより、東日本のカシノナガキクイムシは少なくとも3つの遺伝的に異なるグループに分けられることが明らかになった。──3つの遺伝的グループの分布を見ると、北海道南端部、岩手県太平洋沿岸、関東平野など、最近ナラ枯れ被害が新たに生じた地点では、その近隣の既存被害地と遺伝的に同じグループのカシノナガキクイムシが被害の原因となっていた。このことから、東日本において近年新たに発生した被害の多くは、隣県などの近隣の既存の被害地からカシノナガキクイムシが移住することにより被害地拡大が起きた結果である可能性が示唆された。また、東北地方に2つの遺伝的グループが分布していることがわかり、これらは祖先集団から別々の時期に分岐したあと、分布域を拡大するなかで交錯し、一部地域では交配した集団があることも明らかになった。──本研究によって、カシノナガキクイムシの分布拡大が近年のナラ枯れ被害域の拡大を引き起こしている可能性が示唆された。温暖化に伴い、今後もナラ枯れ被害域は冷涼な高標高域や北方へ拡大し続ける可能性がある。これらの地域には家具用材やウィスキー樽にも活用されるミズナラなど重要な森林資源があるため、ナラ枯れが発生していない地域では、最も近い被害地からの飛来を警戒し、ナラ枯れの侵入を防止することが重要である。また、カシノナガキクイムシの生息域拡大は現在も進行中であり、将来的な再調査により、各遺伝的グループの拡大や接触などに関するリアルタイムな証拠が得られる可能性がある。
情報源 |
森林総合研究所 プレスリリース
北海道立総合研究機構 プレスリリース |
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機関 | 森林総合研究所 北海道立総合研究機構 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 生態系 | 森林資源 | 温暖化 | カシノナガキクイムシ | 東日本 | 遺伝的多様性 | DNA分析 | ナラ枯れ | 被害拡大 | 防止策 |
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