浙江大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、バーミンガム大学などの国際共同研究チームは、黄砂が大気中で水溶性有機エアロゾルを生成する「化学反応器」として機能していることを明らかにした。これまで、二次有機エアロゾル(SOA)は主にサブミクロン粒子で形成されると考えられており、黄砂のような鉱物ダストはその生成に寄与しないとされてきたが、本研究はその常識を覆す成果である。
研究では、サハラ砂漠やゴビ砂漠などから飛来する鉱物ダストが、大気中でエイジング(化学変成)を受ける過程で、液相反応を通じてSOAを生成することが確認された。特に日本周辺地域では、年間を通じて黄砂がSOAの2〜3割を生成する液相化学反応器として機能している可能性が示された。
JAMSTECの伊藤主任研究員は、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて、観測データに基づく全球大気化学輸送モデルを開発し、鉱物ダストのSOA生成への寄与を定量的に評価した。その結果、鉱物ダストが気候変動や大気汚染に与える影響が従来の想定よりも大きいことが明らかになった。この成果は、気候変動予測先端研究プログラム(文部科学省)の一環として実施されたものであり、気候予測の精度向上やカーボンバジェット評価に資する科学的根拠を提供する。黄砂のような自然起源の粒子が、都市部の大気汚染や海洋の栄養循環に与える影響を再評価する必要性が高まっている(掲載誌:National Science Review)。