新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発行した「Innovation Outlook Ver.1.0」は、日本の技術政策における新たな羅針盤を目指す意欲的な試みである。従来の技術支援の枠を超え、社会実装を見据えた「トランスフォーマティブ・イノベーション」の概念を打ち出すことで、単なる技術開発の指針ではなく、未来社会の構築に向けた戦略的提案として位置づけられている。
報告書の構成は、MFT®ロジックモデル(Mission-Function-Technology)を軸に、社会課題(M)に対して必要な機能(F)と技術(T)を体系的に整理するというもの。これにより、13の「フロンティア領域」が抽出され、持続可能なエネルギー、環境・化学、アグリ・フードテック、デジタル、マテリアル、バイオエコノミーなど、多岐にわたる分野が網羅されている。
特筆すべきは、「ディープテック」への注目だ。資本集約的で不確実性の高いこの領域に対し、日本の産業基盤と供給網の強みを活かす戦略的投資の必要性が強調されている。これは、単なる技術革新ではなく、国家としての競争力強化を意図したメッセージとも読める。また、バックキャスト手法を用いて2040年頃の社会像を描き、そこから逆算して現在強化すべき技術領域を抽出するアプローチは、未来志向の政策立案として評価できる。国内外の政策動向との整合性も意識されており、SDGsやCOP、G7/G20の合意事項、米国・EU・中国の技術戦略などが参照されている点も、グローバルな視野を感じさせる。農業・食料分野においては、スマート農業や代替タンパク質、バイオチャーなどの技術革新を通じて、食料安全保障と環境負荷低減の両立を目指す姿勢が示されている。これは、技術が社会課題の解決に直結するという本報告書の根幹思想を象徴する一例だろう。
総じて、「Innovation Outlook Ver.1.0」は、技術政策の方向性を示すだけでなく、社会のあり方そのものを問い直す構造的な提案書である。今後、関係省庁や産業界、アカデミアとの対話を通じて、どのようにこのビジョンが具体化されていくのかが注目される。
情報源 |
NEDO ニュースリリース
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機関 | 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) |
分野 |
環境総合 |
キーワード | カーボンニュートラル | 循環経済 | 食料安全保障 | 技術戦略 | バックキャスト | ディープテック | トランスフォーマティブ・イノベーション | フロンティア領域 | GX2040 | MFTロジックモデル |
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