新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、東北大学およびアイシンと共同で、世界初となるCMOS/スピントロニクス融合技術を活用したエッジAI向け実証チップの開発に成功したと発表した。本成果は、NEDOが推進する「省エネAI半導体及びシステムに関する技術開発事業」において得られたものである。
CMOS(相補型金属酸化膜半導体)は、現代の電子機器に広く用いられている半導体技術であり、スマートフォンやパソコンの中核を担う。電流が流れるのは基本的にスイッチの切り替え時のみであるため、待機電力が極めて低く、微細化と高集積化に優れる。一方、スピントロニクスは電子の磁気的性質(スピン)を活用する新しい情報処理技術であり、電荷だけでなくスピンを制御することで、電源を切っても情報を保持できる「不揮発性」や高い耐久性を実現する。
今回開発されたチップには、不揮発性メモリであるMRAM(磁気抵抗メモリ)が大容量で内蔵されており、OSやアプリケーションの起動に必要なメモリ機能を兼ね備えている。これにより、従来の外付けメモリ構成に比べて起動時間の短縮と消費電力の大幅削減が実現された。実証チップは、台湾積体電路製造(TSMC)の16nm FinFETプロセスを用いて製造され、Arm Cortex-A53デュアルコアと東北大学が開発したAIアクセラレータを搭載。MRAMを重みメモリとして活用することで、演算回路とメモリを近接配置する「ニアメモリ・コンピューティング構造」を実現し、メモリアクセスのボトルネックを解消した。――実証システムによる検証では、電源ONからOS起動を経てAI処理が完了するまでのエネルギー効率が従来比で50倍以上、OS起動時間は30分の1以下に短縮された。これにより、車載機器などのエッジ領域における分散コンピューティングの実現に向けた技術的基盤が整った。
本事業を通じて、CMOSとスピントロニクス技術を融合することで、従来の半導体では困難だった低消費電力かつ高速な情報処理が実現した。今後、NEDOは本技術の社会実装に向けた支援を継続し、東北大学は設計効率の向上と低消費電力化に資する研究開発を推進する。アイシンは、車載機器をはじめとする応用製品への展開を目指す。
情報源 |
NEDO ニュースリリース
東北大学 プレスリリース・研究成果 アイシン ニュース |
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機関 | 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 東北大学 (株)アイシン |
分野 |
環境総合 |
キーワード | エッジコンピューティング | スピントロニクス | 不揮発性メモリ | 省エネ半導体 | CMOS技術 | MRAM | 分散処理 | AIアクセラレータ | 起動時間短縮 | 低消費電力化 |
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