沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、アカウキクサ属のシダ植物「アゾラ」における微生物群集とその共生関係を詳細に解析し、唯一の真の共生細菌がシアノバクテリアの一種 Trichormus azollae(T. azollae)であることを明らかにした(掲載誌:The ISME Journal)。
アゾラは急速な成長と広範な分布を特徴とし、窒素固定能力に優れることから、バイオ肥料や飼料としての利用が検討されてきた。また、約5000万年前の地球寒冷化期に大量の胞子が堆積した化石記録があることから、二酸化炭素隔離(カーボンキャプチャー)植物としての可能性も注目されている。
研究チームは、世界各地から採取したアゾラを実験室で栽培し、葉のポケットと呼ばれる空洞に棲む微生物群集を解析した。その結果、T. azollaeのみが全ての葉のポケットに共通して存在し、他の細菌は一時的な存在である可能性が高いことが判明した。さらに、共生型T. azollaeと自由生活性の近縁種を比較したところ、共生型ではゲノムの崩壊が顕著であり、30〜50%の遺伝子が失われていた。これは、共生環境における選択圧の低下により、不要な遺伝子が偽遺伝子化した結果と考えられる。特に「防御機構」「ストレス応答」「複製」「修復」に関する遺伝子が偽遺伝子化していた一方で、「接着」「細胞内輸送」「分泌」「小胞輸送」に関する遺伝子は高い発現量が予測され、共生関係の維持に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
本研究は、植物と微生物の密接な共生関係の理解を深めるとともに、窒素固定作物の開発や食料安全保障への応用に向けた基礎的知見を提供するものである。アミテージ准教授は、「アゾラの例は、共生関係が極めて密接で、最も極端な事例の一つである」と述べている。