理化学研究所と北里大学の共同研究グループは、魚体画像を用いた非侵襲的診断技術を開発し、環境保全型養殖に資する新たな評価手法を提案した。医工学分野で用いられる画像診断技術を応用し、魚体表面の光沢や色彩、滑らかさなどを定量的に解析することで、飼料の機能性を迅速に評価する枠組みを構築した。
本研究では、好熱菌(50℃以上で増殖する微生物)を活用した高温発酵飼料の希釈溶液をマダイに投与し、病原菌エドワジエラ・タルダへの抗病性を評価。カプランマイヤー法による生存曲線解析の結果、飼料添加群では致死率が20%以下に抑えられ、補体活性の向上や蘇生時間の短縮も確認された。
画像診断では、体長比率解析、テクスチャー解析、HSV(色相・彩度・明度)解析の三手法を用い、特にGLSZMゾーンエントロピーや色相の差異が統計的に有意であることが示された。これにより、現場で撮影された鮮明でない画像からでも魚体の健康状態を評価できる可能性が示唆された。――技術開発の背景には、抗菌薬の過剰使用による薬剤耐性菌の拡散や、窒素・リン循環の破綻による生物多様性の損失といった地球規模の課題がある。国際的には「ネイチャー・ポジティブ」や「One Health」などの概念が提唱されており、本研究はそれらの潮流に合致する技術的貢献を果たすものとなる。
発表者の宮本浩邦氏は、「魚体表面の光沢の違いを数値で評価できるようになったことは、感覚的な判断を科学的に裏付ける一歩であり、異分野融合による社会貢献の可能性を広げる」と述べている。なお、本成果は、科学雑誌『The Innovation Life』に掲載されており、研究者はSDGsの「9.産業と技術革新」「12.つくる責任つかう責任」、「14.海の豊かさを守ろう」に資する技術として位置づけている。