自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターは、神奈川大学、東京科学大学、釧路市教育委員会と共同で、北海道・阿寒湖に生息する特別天然記念物マリモの光合成応答を調査し、解氷直後に深刻な光阻害が発生することを明らかにした(掲載誌:Phycological Research)。
阿寒湖のマリモ(Aegagropila brownii)は、冬季は氷と雪に覆われた暗い環境で過ごすが、春の解氷直後には低水温下で強い日射にさらされる。この「低温・強光(LT-HL)」環境は光合成装置である光化学系IIにダメージを与え、光合成能力を著しく低下させる「光阻害」を引き起こすと指摘されてきたが、自然環境下での実証はなかった。
研究チームは、阿寒湖チュウルイ湾で水温と光環境をモニタリングし、季節ごとに採集したマリモの光合成能力をクロロフィル蛍光測定で評価。その結果、夏季や結氷中は最大量子収率(Fv/Fm)が約0.6と高値を維持する一方、解氷直後には表面で0.27まで低下し、深刻な光阻害が確認された。しかし、マリモは強靭な回復力を示し、20~30日後にはFv/Fmが0.55まで回復した。室内実験でも、弱光下での回復過程が裏付けられた。
本研究は、春先の「解氷直後」がマリモにとって最も脆弱な期間であることを初めて科学的に特定したものであり、気候変動により結氷期間が短縮し、強光ストレスを受ける期間が長期化すれば、マリモの生存に深刻な影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らすものである。研究者は、「マリモ保全戦略においてこの時期の光ストレス対策を重視する必要がある」と指摘している。
情報源 |
自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター
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機関 | 自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 保全戦略 | 特別天然記念物 | 気候変動影響 | 光阻害 | マリモ | 湖沼生態系 | 低温・強光環境 | 光化学系II | クロロフィル蛍光 | 結氷期間短縮 |
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