環境技術解説

自動車排出ガス対策

社会生活や事業活動など、人間活動に起因する大気汚染の主な発生源としては、工場や事業場などの固定発生源と、自動車や船舶、航空機などの移動発生源があります。このうち、固定発生源については、大気汚染防止法に基づく排出基準などの規制と、それを受けた企業の公害防止への努力などの対策が功を奏して、悪化の傾向はみられません。

しかし、移動発生源の中でも自動車排出ガスによる大気汚染が深刻化しているため、国は大気汚染防止法や関連の法規制を強化して、自動車排出ガス対策の推進に力を入れており、地方自治体でも条例によって独自の規制を導入する動きがみられます。また、年々厳しくなる規制に対応した技術開発への取り組みも行われています。

ここでは、日本における、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)からなるディーゼル黒煙などの自動車排出ガスへの規制と、それに対応した研究・技術開発の動向について、ディーゼル自動車対策を中心に紹介します。

※掲載内容は2017年3月時点の情報に基づいております。
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1.自動車排出ガス規制の強化

1)大防法に基づく自動車単体規制

1968年に制定された大気汚染防止法及び同法施行令は、現在(2017年)では自動車排出ガスの種類として、自動車の運行に伴って発生する一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)、揮発性有機化合物(VOC)などをあげています。同法は、環境大臣が自動車排出ガス量の許容限度を設定し、その許容限度を国土交通大臣が道路運送車両法の保安基準で確保する仕組みで、ガソリン・LPG車、ディーゼル車、二輪車の3つの種別に応じて、試験モードや規制対象成分、規制年度、規制値が定められています。

ディーゼル車は軽油を燃料とするディーゼルエンジンで動く車で、トラックやバスなどの大型車に広く用いられています。ディーゼルエンジンは、効率が良く二酸化炭素(CO2)の排出が抑えられる長所の半面、PMを多く排出するという短所があります。

図1 ディーゼル排ガスの粒子状物質(PM)
出典:環境再生保全機構「大気環境・ぜん息などの情報館」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/yougo/ta_01.html

この、大気汚染防止法に基づく排出ガス規制は1973年以降強化されており、新車を中心に自動車単体からの大気汚染物質の排出量は減少しました。一方、排出ガス処理装置の性能維持のため、燃料中の硫黄分の低減も進められています。

図2 軽油中の硫黄分の規制の推移
出典:環境省「大気環境保全に関するこれまでの取組」
https://www.env.go.jp/council/07air-noise/y078-01/mat03.pdf

新車に対する排出ガス規制の強化については、例えば、ディーゼル重量車のNOxでは、1974年の規制開始以来、2009年からのポスト新長期規制にいたるまで度重なる規制強化がなされ、1台あたりの削減率は規制開始時に比べて95%となっています。

また、PMについても、規制開始時の1994年以来、同じくポスト新長期規制までに段階的に規制強化が行われ、1台あたりの削減率は同99%に達しています。ポスト新長期規制の導入により、日本のガソリン・LPG自動車及びディーゼル自動車排出ガス規制は世界で最も厳しいレベルに強化されました。

図3 ディーゼル重量車の排出ガス規制の経緯
出典:国土交通省「自動車排出ガス規制の経緯 (ディーゼル重量車)」
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090325/02.pdf

2)オフロード車の規制も開始

以上の規制は、公道を走る車(オンロード車)に対するものでした。一方で、公道を走行しないショベルカーやブルドーザーなどのオフロード特殊自動車については、2000年の時点で、台数が自動車全体の約2%(約130万台)しかないにもかかわらず、NOxやPMの自動車全体の排出量に占める割合は多く(NOx:約25%、PM:約12%)、規制の導入が急務となっていました。

このため、2005年に「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律」(オフロード法)が成立し、2006年から規制が開始されました。以後、特定特殊自動車の新車については、「基準適合表示」や「少数特例表示」の付いた自動車でなければ使用できないことになりました。その後、2011年と2014年にディーゼル特殊自動車の排出ガス規制が強化され、NOxとPMの排出量は9割削減となっています。

図4 自動車排出ガスの車種別排出総量の推計(2000年度)
出典:環境省「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案について」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/6445.pdf

2.自動車NOx・PM法による局地汚染対策

1)大都市圏での汚染深刻化に対応

大気汚染防止法制定以後、自動車の単体、燃料規制が進む一方で、自動車の交通量が多く、交通渋滞が激しい大都市地域などにおいては、自動車排出ガスによる大気汚染が深刻化していました。大気汚染防止法は、交差点など交通渋滞による大気汚染が激しい、または汚染が生ずるおそれがある道路やその周辺の区域で、都道府県知事が排出ガス濃度測定を実施することと定めていますが、自動車排出ガスに含まれる二酸化窒素(NO2)や浮遊粒子状物質(SPM)について、大都市圏を中心に環境基準を達成していない測定局があるという状態が続いていました。

このため、1992年に自動車NOx法が制定、1993年12月から施行されました。さらに2002年5月には、SPM対策を盛り込むなどの改正が行われ、自動車NOx・PM法が制定されました。同法は、従来の対象車の上にディーゼル乗用車を追加し、排出基準値を強化するとともに、NOxやPMの排出が少ない車を使用する車種規制を導入し、首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川の各都県)、大阪・兵庫圏(大阪・兵庫の各府県)、愛知・三重圏(愛知・三重の各県)の大都市圏において使用できる車を制限しました。さらに、事業者に対して、自動車使用管理計画の策定を義務づけました。

2)局地汚染・流入車対策を充実

自動車NOx・PM法の施行により、対策地域での大気環境基準は改善がみられたものの、交通量の多い交差点など、局地的な汚染は深刻なままでした。また、対策地域外から流入する、流入車も問題となっていました。

このため、2007年2月に中央環境審議会は環境大臣に対して、局地汚染と流入車対策を柱とする「今後の自動車排出ガス総合対策のあり方について」の意見具申を行い、これを受けて同法の改正法案が同年5月に成立しました。

改正自動車NOx・PM法では、局地汚染対策として、大気汚染が深刻な交差点などを都道府県知事が「重点対策地区」に指定。策定した重点対策計画をもとに、対策を実施します。また、重点対策地区内に交通量を増やしそうな建物を新設する者は、排出量抑制のための配慮事項などを届け出なくてはならなくなりました。

一方、流入車対策としては、対策地域周辺から重点対策地区内の指定地区へ運行する自動車を使用する一定の事業者に、排出抑制計画の作成・提出や定期報告を義務づけました。規制対象となるのは、周辺地域内に自動車を30台以上保有し、その自動車を指定地区において年間300回以上運行する事業者です。

なお東京都では、国の規制に先駆けて、条例で定めるPM排出基準を満たさないディーゼル車の都内での走行を禁止しています。また、9都県市( 埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県、横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市・相模原市)では、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の条例に定めるPM排出基準に適合させるために必要なPM減少装置(DPFと酸化触媒)を共同で指定しています。

図5 指定装置を装着した車両の側面などに表示するステッカーの例
出典:九都県市あおぞらネットワーク http://www.9taiki.jp/

3.クリーンディーゼルで新たな技術開発

新車だけでなく、すでに走行している使用過程車のディーゼル排出ガス低減も重要です。このため、国は地方自治体によるDPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル排気微粒子除去フィルタ)や酸化触媒の装着に対して補助を行っています。最近では、DPFと触媒を組み合わせて排出ガス全般を処理するとともに、フィルタを連続的に再生するDPFの開発も進んでいます。

図6 連続再生式DPFの外観例
出典:石油エネルギー技術センター
http://www.pecj.or.jp/japanese/jcap/jcap2/jcap2_04.html

また、クリーンディーゼルの項目で紹介したように、NOxを削減するには通常、触媒を使った装置が必要でしたが、コストが高くなるという問題がありました。しかしマツダは、NOx後処理なしでもポスト新長期規制に適合したクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を開発、実用化しています。

さらに、低公害トラック・バスなどの導入が各所で進められており、国による低公害車普及促進対策費補助制度も整備されています。

4.海外の動向

自動車排出ガス規制の強化は、国内だけでなく、海外でも行われています。ディーゼル自動車の人気が高いEUでは、1991年に共通の排出ガス規制である「ユーロ0」を導入。以降、段階的に強化を進め、2014年に発効した最新の「ユーロ6」は、日本のポスト新長期規制と同等の厳しい内容となっています。一方、建設機械についても段階的に強化され、2014年からは、オフロード法と同程度の第4次規制がスタートしています。

また燃料では、排出ガス処理において問題となる硫黄分を削減するサルファーフリー化が進んでいます。軽油の場合、ヨーロッパでは2005年から段階的に導入し、2009年より燃料中の硫黄分を10ppmに削減。日本で10ppm規制が施行されたのは2007年でしたが、石油業界の自主的な対応により、2005年から世界に先駆け、提供を開始しています。日米欧での取り組みに続き、世界各国で10ppm規制が導入されつつあります。

図7 アジア・太平洋地域の軽油硫黄分規制
出典:石油エネルギー技術センター「国内外の石油製品需給と品質規制動向」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/sekiyu_seisei/pdf/001_04_00.pdf

自動車単体についてみると、PMなどの排出ガスを低減し、規制に適合したクリーンディーゼル自動車の開発がヨーロッパを中心に進んでおり、ハイブリッド車など次世代の環境対応型自動車のライバルと目されています。

今後、内外の規制動向を先取りした自動車排出ガス低減のための技術開発が、オンロード、オフロードの両方で関連メーカーなどを中心に活発化し、環境負荷の低い自動車は国際市場でますます競争力を付けていくことが予想されます。

引用・参考資料など

[1] 新田裕史. "ディーゼル排ガスの危険と汚染の現状を知る". 国立環境研究所公開シンポジウム2001. 2001,
http://www.nies.go.jp/event/sympo/2001/lecture/01-nitta2.pdf, (参照2017-02-20).

[2] 国土交通省. "自動車排出ガス規制の経緯". 自動車排出ガス規制の強化(ポスト新長期規制)について. http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090325_.html, (参照2017-02-20).

[3] 環境省. "特定特殊自動車排出ガス規制法".
http://www.env.go.jp/air/car/tokutei_law.html, (参照2017-02-20).

[4] 環境省. "特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案について". 「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案」の閣議決定について.
http://www.env.go.jp/press/5762.html,(参照2017-02-20).

[5] 九都県市あおぞらネットワーク. "規制への対応".
http://www.9taiki.jp/regulatory/corresponding.html, (参照2017-02-20).

[6] 石油エネルギー技術センター。"国内外の石油製品需給と品質規制動向". 2016,
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/sekiyu_seisei/pdf/001_04_00.pdf, (参照2017-02-20).

[7] 環境省. "大気環境・自動車対策".
http://www.env.go.jp/air/, (参照2017-02-20).

[8] 環境省. "環境白書".
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/, (参照2017-02-20).

[9] 国土交通省."環境".
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/index.html, (参照2017-02-20).

[10] 東京都. "ディーゼル車規制総合情報サイト".
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehicle/air_pollution/diesel/index.html, (参照2017-02-20).

[11] 環境再生保全機構. "大気環境・ぜん息などの情報館".
https://www.erca.go.jp/yobou/,(参照2017-02-20).

[12] 日本自動車工業会. "クルマと環境".
http://www.jama.or.jp/eco/, (参照2017-02-20).

[13] 日本建設機械工業会. "環境調和に向けた取組み/建設機械の排出ガス規制".
http://www.cema.or.jp/general/environment/main_01.html, (参照2017-02-20).

[14] マツダ. "SKYACTIV-D".
http://www.mazda.com/ja/innovation/technology/skyactiv/skyactiv-d/, (参照2017-02-20).

(2017年3月現在)
2007年8月:掲載
2017年7月4日:改訂版に更新