環境技術解説

雨水・再生水利用

 雨水・再生水利用とは、雨水貯留や下水処理によって得られた水を、雑用水として水洗トイレ、散水、修景、清掃等の用途(飲用以外)に利用し、水資源の節約、効率的利用を図るものである。技術的には、雑用水のもととなる原水(げんすい)を適切な方法で回収し、利用可能な水質レベルまで処理したうえ、得られた雑用水を供給、利用するための一連のシステムを含む。
 雑用水を利用することは節水につながり、渇水対策となることから、国や地方自治体が導入を促進している。雑用水に利用されるのは再生水及び雨水で、雑用水を上下水に対して中水と呼ぶこともある。再生水を利用する方式を排水再利用方式、雨水を利用する方式を雨水利用方式(非循環方式)といい、近年、雨水利用方式の導入が進んでいる。雑用水を創る方法は原水によって異なるが、既存の水処理技術の組合せによることが多い。
 下図は、雑用水を用いた修景の例である。神奈川県川崎市の江川せせらぎ遊歩道は、下水処理場で高度処理された水が導水されており、市民が親しみを持つことができる水辺となっている。このように雑用水の利用は、水の有効利用や節水にとどまらない、都市環境の保全、アメニティ向上といったメリットも持っている。

江川せせらぎ遊歩道(神奈川県川崎市)
出典:環境省「『環境用水の導入』事例集~魅力ある身近な水環境づくりにむけて~」(No.22 神奈川県 川崎市 江川せせらぎ遊歩道)(PDF)
http://www.env.go.jp/water/junkan/case2/pdf/22.pdf

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1.背景

1)雨水・再生水利用の経緯

 雨水(うすい:資源としての呼称)及び再生水は、まとめて雑用水と称される(以下、両者を併せて指す際は、雑用水と表現する)。雑用水は図1に示すように、身の回りで必要とされる水のうち、水洗トイレ用水、冷却・冷房用水、散水など、上水道ほど高い水質を要求されない、比較的低水質な水である。雑用水を供給する施設は、上水道、下水道との対比で「中水道」と呼ばれることがあるため、供給される雑用水を「中水」ともいう。

図1 雑用水利用の概要
出典:国土交通省土地・水資源局水資源部「雨水・再生水利用」
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/g_resources/resources01.html

 雑用水利用の背景には、我が国における生活水準の向上や経済活動の発展に伴う水需要のひっ迫がある。
 水需要のひっ迫は、昭和30年代に既に問題となっていた。当時は上水道普及率がまだ5割~6割程度だったことから、主な対策として、水源確保も含めた上水施設の整備が掲げられていた。例えば、厚生省は昭和38年に『水道整備緊急5か年計画』を策定し、全国の普及率を75%のレベルにしようと計画していた。
 しかし、従来の水道計画を大きく上回る人口の都市集中、洗濯機や水洗トイレ等の普及に伴う1人当たり使用水量の増加、産業の発展に伴う水使用量の増加等により、給水能力の増強のみでは対応できない状態となっていた。その対策として、工業分野では、水の再利用に関する技術開発が進展し、生活分野では、雨水・再生水利用が昭和30年代後半から検討されるようになった。
 その後、昭和53年の福岡渇水等の渇水の頻発を契機に、水の有効利用方策の一つとして注目されるようになり、昭和50年代後半から水需給のひっ迫した地域を中心に、本格的に導入されるようになった。また、平成6年の列島渇水を契機として,雨水・再生水利用の必要性が再認識されたことに伴い、導入事例が増加している。図2は、平成17年の早明浦ダムにおける渇水の状況である。地肌が見えている部分は、通常時(貯水率100%時)には水面が上がっていて見ることができない場所である。

図2 平成17年の早明浦ダムにおける渇水の様子
出典:(独)水資源機構(早明浦ダムウェブサイト)
http://www.water.go.jp/yoshino/ikeda/sameura/same_11.html

 以上のように、雨水・再生水利用に関する研究および技術開発は、生活および産業水準の高度化に伴う水需要ひっ迫の解決策として、進展してきた。近年では、都市で下水道整備が進んだことに伴い水量が減少してしまったと考えられる河川に対して、再生水を導水することで河川生態系の維持および地域住民にとっての水環境を保全しようとする動きがある。

2)雑用水の各種施設への導入状況

 現在、雑用水利用施設は毎年100~150施設が新設されており、平成19年度末時点で約3,300施設となっている(個人住宅及び工業用水道のみを原水とする施設は除く)。導入地域は、東京臨海地域と九州北部で全体の2/3を占める。これは、水需要量が多い東京と、渇水の経験がある九州北部では、雑用水利用を推進する要綱や指導指針が定められており、それらの地域を中心に導入が推進されたためと考えられる。
 また、建物用途別の雑用水導入件数は、図3のようになっている。事務所ビル、学校、会館・ホールでの利用が多く、これらの用途で全体の約6割を占めている。公共施設が多いのは、国や地方公共団体が建物を新設する際に、再生水利用設備を積極的に導入しているためである。次いで医療・福祉機関、公園・緑地・運動場、水処理関連施設(下水処理場等)となっている。

図3 建物用途別の雑用水導入件数
出典:国土交通省 土地・水資源局水資源部「雨水・再生水利用の現状」
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/zatsuyousui/genjou.html

3)雑用水利用の現状

 我が国における雑用水利用量は日量約40万立方メートルで、これは生活用水の約1%に相当する量である。雑用水を利用している施設では、上水道使用量が大きく削減されている事例も報告されている。
 図4は、中野区もみじ山文化センター(東京都中野区)における、雨水利用効果を表したものである。同施設の立地場所周辺は河川氾濫の問題があったため、同施設における降雨を貯留することで雨水流出を抑制するねらいもあって、導入された。図の斜線部が雨水利用量で、トイレ用水および冷房用に使用されている。夏季は降水量が増えるが、増えた分の水は冷房用に利用されるため、バランスがとれている。同施設の雨水利用による水道料金節減効果は、2年間で約537万円と算出されている。

注)中野区の資料を基に作成。降水量はアメダスデータ(地点:東京)による。
図4 雑用水使用水量と原水の内訳(2005年度実績)
出典:国土交通省「雑用水利用施設実態調査 事例集」(事例8 中野区もみじ山文化センター 本館)
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/zatsuyousui/jireisyuu/jireisyuu.html

4)雑用水導入への課題

 雑用水の導入には、導入・維持管理コストおよび雑用水の水質・水量という課題がある。図5は、雑用水利用コストと上下水道料金とを比較したものである。この図では、雑用水利用量のランクが100m3/日以上の施設で、利用コストが上下水道料金より安くなっており、コストメリットを生じるには、ある程度の施設規模が必要ということが分かる。また、雨水を利用する場合には、季節ごとに水量が大きく変動するという問題がある。

図5 雑用水利用コストと上下水道料金
出典:国土交通省「平成19年版 日本の水資源」(第8章 水資源の有効利用)
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/H19/index.html

 我が国では、中水・雨水・再生水利用施設を普及させるため、下水処理水を再利用する事業や、民間事業者の雑用水利用施設設置に対する法人税・所得税の軽減措置や低利融資、補助、条例による義務化などを実施している。例えば福岡市では、個別循環利用者に対して一定期間の援助を行うと同時に、大型の建物や公共施設の建設時には雑用水利用設備等の設置を義務付けている。

2. 技術の概要

 ここでは、雑用水の水質、用途、全体システムについて解説する。個別の処理技術については、「下水処理」「工業排水処理」「水処理膜」等で共通であるため、必要に応じて該当する解説を参照されたい。

1)雑用水の水質

 雑用水の原水には、ビル排水、雨水、地下水、工業排水再生水、下水再生水等がある。原水によって、発生量の変動の有無や含有物質等が異なる。また、『建築物における衛生的環境の確保に関する法律』(以下、ビル衛生管理法)において、雑用水の利用用途ごとに水質基準が決められている。
 表1は、トイレ用水(水洗便所の用に供する水)及び散水、修景又は清掃用の水の水質基準である。消毒効果のある塩素については、安全性を確保するため、両者に共通した基準が適用されている。なお、健康被害を防ぐため、後者(散水、修景、清掃)へ使用する雑用水の原水に、し尿等を含む汚水を用いることは禁止されている。また、冷却水については水道水レベルの水質を求めており、冷却塔及び加湿装置においてはレジオネラ菌等の増殖を防ぐために水道水を使用することが規定されている。

表1 中水(雑用水)利用の水質基準
対象基準等
すべての利用用途に適用する残留塩素を保持するための水質基準 給水栓において、遊離残留塩素※1濃度は0.1mg/L以上、結合残 留塩素※2の場合は0.4mg/L以上、ただし、供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれのある場合又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を多量に含むおそれがある場合は、遊離残留塩素濃度は0.2mg/L以上、結合残留塩素濃度の場合は1.5mg/L以上とする。
水洗便所の用に供する水の水質基準 1 pH値は5.8以上,8.6以下であること
2 臭気は異常でないこと
3 外観はほとんど無色透明であること
4 大腸菌群は検出されないこと
散水、修景又は清掃の用に供する水の水質基準 1 pH値は5.8以上,8.6以下であること
2 臭気は異常でないこと
3 外観はほとんど無色透明であること
4 大腸菌群は検出されないこと
5 濁度は2度以下であること

出典:法令データ提供システム ウェブサイト
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」 をもとに作成
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO020.html

※1 遊離残留塩素:次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンの状態で水中に存在する塩素のことで、病原生物に対して殺菌作用がある。
※2 結合残留塩素:遊離残留塩素がアンモニウムイオンと結合した状態で、幾つかの種類がある。遊離残留塩素より弱いが、殺菌作用がある。

2)雑用水の種類および用途

 雑用水は、雑用水利用システムを導入する施設の規模や目的によって、その処理技術および設備構成が大きく異なる。雑用水の種類及び用途を、表2にまとめた。
 水源別に見ると、雑用水は「排水再利用方式」と「雨水利用方式」に大別される。
 排水再利用方式のうち、個別循環は、単一の建物内で一度利用した排水を再生処理し、同一建物内の雑用水として利用する方式であり、新規に建設される公共用建物等でよく見られる。地区循環は、複数の建物から発生する排水を1つの再生処理施設で浄化し、それを複数の建物の雑用水として利用する方式であり、都心の再開発地区等で採用されている。広域循環は、下水処理場で処理された下水処理水や工業用水道水の供給を受け、雑用水として利用する方式である。福岡市では、大型建築物を建てる際に、雑用水道の設置が義務付けられている。
 一方、雨水利用方式は、雨水を、単独又は再生水との併用により雑用水に充てる方式で、雨水は下水と比較して清浄なため、ろ過等の簡単な処理で再利用に供される。
 なお、雑用水は建物の外でも利用されている。ヒートアイランド対策として道路に散水されたり、親水用および修景用として公園などの小規模水域へ導水されたり、環境用水として地域河川に導水されたりするなど、近年、活用事例が増えている(3.1)参照)。

表2 雑用水の種類及び用途
水源別・
利用範囲別分類
適用箇所 水源または原水 処理方法 用途
排水再利用方式 個別循環 事務所ビルなど一つの建物の中 建物内で発生する排水 ・生物処理
・膜処理
・トイレ洗浄等
地区循環 比較的まとまった狭い地域
(集合住宅、再開発地区等)
地区内の複数の建物から発生した排水 ・生物処理
・膜処理等
・トイレ洗浄、灌水、散水等
広域循環 より広い地域内
(下水処理場で処理する)
流入下水 ・下水高度処理
(膜処理、活性炭処理、
オゾン処理、紫外線処理等)
・トイレ洗浄等
・工業用水
・環境用水
・親水及び修景用水
雨水利用方式 一つの建物から地域単位まで様々 建築物の屋上等から集めた雨水 ・ろ過処理
・滅菌処理等
・トイレ洗浄等
(排水再利用方式と併用する場合もある)

出典:国土交通省 土地・水資源局水資源部 ウェブサイトの情報をもとに編集
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/g_resources/resources01.html

 各方式による雑用水利用量は表3の通りである。近年では、雨水利用方式(非循環方式)の導入が進んでいる。

表3 循環方式別中水(雑用水)使用量
循環方式施設数(件)1日あたり雑用水使用水量
使用水量
(m3/日)
1施設1日当たり平均
(m3/日)
個別循環方式1,060144,262136.1
地区循環方式15917,355109.1
広域循環方式585215,542368.4
非循環方式1,24321,41317.2
合計3,047398,571-

注)

  1. 国土交通省水資源部調べ(2005年度末現在)
  2. 2005年度末調査において、従前のデータについて精査している
  3. 四捨五入の関係で集計が合わない部分がある

出典:国土交通省「平成19年版 日本の水資源」(第8章 水資源の有効利用)
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/H19/index.html

 中水の処理方法は、原水の性質や再利用の用途によるが、スクリーンできょう雑物(混入している異物)を取り除いた後、生物処理、ろ過処理、吸着処理、殺菌・脱色処理などの組合せによる浄化が行われている。設置場所に適した、コンパクトなシステム、容易なオペレーション、脱臭装置の設置等が求められる。以下、個別循環方式、地区循環方式、広域循環方式、雨水利用方式のしくみを紹介する。

(1)個別循環方式の例
 図6は、総合文化施設である東京国際フォーラム(東京都千代田区)(図7)における、個別循環方式のフローである。原水として、厨房排水、雑排水、雨水を用いている(図6上部)。事前に加圧浮上槽で処理した有機物量が比較的多い厨房排水と、雨水と比較して有機物量が多い雑排水は、ばっ気槽で生物学的に、限外ろ過で物理的に処理した後、再生水として循環水槽に貯められる。
 再生水のみでは不足する水量は、比較的清浄でろ過のみで利用可能な雨水、冷却ブロー水の処理水(図6中央部)、更には上水(図6左部)で補っている。再利用水槽に貯められたこれらの水は、トイレ、植栽、融雪等に用いられる。

図6 個別循環方式(雨水併用) 東京国際フォーラムの事例
出典:国土交通省「雑用水利用施設実態調査 事例集 平成19年2月」
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/zatsuyousui/jireisyuu/jireisyuu.html

図7 東京国際フォーラムの外観(東京都千代田区)
出典:東京国際フォーラム「施設概要」
http://www.t-i-forum.co.jp/company/overview.html

(2)地区循環方式の例
 図8は、恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区)(図9)における、地区循環方式のフローである。原水として、厨房排水、雑排水を用いている(図8上部)。厨房排水は有機物量が比較的多いので、ばっ気槽で生物学的に処理する。比較的有機物量が少ない雑排水は、大きなごみをスクリーンで除去した後、厨房排水とともに処理される。これらの処理水は生物膜ろ過された後、さらにオゾンおよび活性炭で処理され、塩素消毒されて中水として利用可能となる。
 再生水のみで不足する水量は、上水で補っている。これらの水は、トイレ、植栽等に用いられる。

図8 地区循環方式 恵比寿ガーデンプレイスの事例
出典:国土交通省「雑用水利用施設実態調査 事例集 平成19年2月」
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/zatsuyousui/jireisyuu/jireisyuu.html

図9 恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区)の外観
出典:国土交通省「雑用水利用施設実態調査 事例集 平成19年2月」
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/zatsuyousui/jireisyuu/jireisyuu.html

(3)広域循環方式の例
 下水処理場で高度処理した水を、雑用水として特定地域に供給するのが、広域循環方式である。図10は、芝浦水再生センター(東京都)にて、オゾンによって高度処理された再生水の供給エリアである。供給された水は、周辺の大規模商業施設や再開発地区等で雑用水(トイレ用水等)として利用されている他、汐留地区ではヒートアイランド対策として舗装道路への散水に利用されている。

図10 広域循環方式の例(芝浦水再生センター)
出典:東京都下水道局「中部管理事務所環境報告書 8.ハード的な取り組み(事務所としてできること)」
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/jigyou/kanho/chubu/chubu09.htm

(4)雨水利用方式の例
 都市部では、雨水は水害の原因となりうるが、同時に貴重な水資源でもある。雨水は、トイレ用水、公園の噴水、植木の散水、非常時の緊急用水等として利用可能である。
 雨水を貯留・利用する設備には、住宅用の小型のものから、オフィスビルに設置するもの、さらには水害対策として学校や公園等の地下に埋設される巨大な貯溜システムまで、様々な大きさの設備がある。
 図11は、家庭に設置するタイプの雨水利用システムである。屋根部の雨水を集水し、ろ過・沈殿槽で砂や落ち葉等の固形物を除去する。ろ過した雨水は貯留タンクに溜められ、トイレ用水として利用される。貯留量が少なくなると、貯留タンク内に一定量の上水を補給する。
 近年、雨水貯留・利用設備等の設置に対して、助成制度を導入する地方自治体が増加し、市場拡大の後押しをしている。

図11 雨水を原水とした雑用水利用システム
出典:(株)タニタハウジングウェア「トイレ雨水利用システム レインジャー」
http://www.tanita-hw.co.jp/product/md2-sid66.html

○参考…雨水貯留および地下水涵養(かんよう)
 都市部では、雨水を浸透させることができる土地(森林・田畑等)が都市化によって減少することにより、大雨が降ると浸水被害をもたらすことがある。また、水需要のひっ迫や、災害時の水源確保も課題となっている。さらに、農業用水や工業用水を地下から汲み上げたことにより、地盤沈下や地下水の枯渇・水質悪化の問題が発生した地域もある。
 これらの問題を解決するために、雨水の貯留および地下へと流し込む(涵養する)取組みが推進されている。具体的には、貯留のために地下に巨大な貯留管を埋設する事業や、涵養のために従来のアスファルトを浸水性の高い材料に変更したり、雨水浸透ます等の涵養設備を設置する等の取り組みが実施されている。図12は、雨水の貯留、地下水涵養および雑用水利用のイメージである。

図12 雨水を利用した水循環再生のイメージ
出典:(社)雨水貯留浸透技術協会「貯留浸透施設の必要性」(PDF)
http://www.arsit.or.jp/book/ryucho%20pamphlet/H19.8/ryucho%20pamphlet%202.pdf

3)個別の水処理技術

 ここでは、雨水および各種排水を雑用水として利用するためのプロセスで適用されている、各種水処理技術の概略を解説する。

(1)活性汚泥法
 活性汚泥という、排水中の有機物を同化して成長した生物の集合体が培養されている水槽に排水を流入させて、好気的に分解する方法である。水槽に空気を吹き込む(ばっ気する)ことから、処理水槽のことをばっ気槽という。様々な改良法があるが、いずれの場合も分解の主役は微生物である。詳細は、「下水処理」の解説を参考にされたい。

(2)生物膜ろ過法
 活性汚泥法の後段で実施される、高度処理法である。図13は、生物膜ろ過法の概要である。内部に充填された砂による物理的なろ過機能により浮遊物質を除去する。また、ろ過槽下部から通気を行い、ろ材表面に好気性微生物の膜(生物膜)を形成させる。これにより、原水中に残存している生物分解可能な溶解性有機物などを吸着、分解して除去することが可能となり、より清澄な処理水が得られる。

図13 生物膜ろ過法の概要
出典:東京都下水道局ウェブサイト
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/index.htm

(3)膜処理
 µm~nm(10-6~10-9m)規模の細孔を有する水処理用の特殊な膜で、水の中から細孔を通り抜けることのできない不純物を除去する処理方法である。原水水質および目的とする水質によって、適切な膜を選択する。下水等から再生水を得る際に用いられる膜は、MF膜(精密ろ過膜)という0.1µm~1µmの範囲の粒子や高分子を阻止する分離膜である。詳細は、「水処理膜」の解説を参考にされたい。

(4)オゾン処理
 オゾン(O3)は強力な酸化力を持つ気体で、消毒・脱臭・脱色等を行うことができ、難分解性の有機物に対しても有効である。有害な反応副生成物が発生しないことから、上水(水道水)における高度処理技術として、原水水質があまり良好ではない地域(主に都市部)で採用されている。再生水利用の目的で、排水処理分野でも適用されるようになった技術である。
 また、オゾン処理と紫外線処理を組み合わせることで、オゾンより酸化力の強いヒドロキシラジカルを生成させて処理する方法(促進酸化法)もある。

(5)活性炭処理
 活性炭は、表面には微細な孔を多数持った、表面積の大きな粒子である。活性炭は、活性炭表面への吸着および、活性炭表面に生息する微生物による分解によって、汚濁を除去する。
 活性炭処理は、オゾン処理の後段の処理として組み合わせて採用されることが多い。オゾン処理によって高分子の有機物を低分子の有機物へと分解した後、活性炭処理によって低分子の有機物を吸着し、活性炭表面の微生物によって分解するという作用が見込めるためである。

(6)紫外線処理
 紫外線によって、水中の細菌等のDNAを損傷させ、不活化することで無害化する処理法である。原虫対策として上水処理で採用されているが、オゾン処理と組み合わせて促進酸化法の要素として環境浄化にも利用されている。

3.技術を取り巻く動向 ~再生水を利用した水環境づくり~

 再生水は、環境の維持・保全にも活用されている。環境省では、「環境用水導入事例集~魅力ある身近な水環境づくりにむけて~」と題した事例集をとりまとめており、自治体やNPOの再生水を利用した環境保全活動を後押ししている。
 図14は、再生水を導水している、江川せせらぎ遊歩道(神奈川県川崎市)の様子である。かつて川崎には多くの用水や堀があり、生活と密着した空間となっていたが、急激な都市化に伴う排水の増加によって水質が悪化し、その多くはドブ川となっていた。また、雨水が浸透しない人工的な地表面の増加により、大雨時に浸水被害が発生したり、街路等に堆積した汚濁物質が、降りはじめの雨(初期雨水)とともに公共用水域に流れ込み、水質が悪化する等の問題が発生していた。
 そこで、こうした浸水や水質悪化の問題に対処するため、雨水を一時貯留するための埋設管を地下に設置するとともに、地上部には近くの下水処理場で処理した高度処理水(再生水)を導水し、水と緑をたたえた「せせらぎ遊歩道」として再生した。
 これにより、市民が親しみを持つことができる水辺空間が生まれ、火災時の延焼遮断帯としての機能や、初期消火水の確保といった副次的な効果も得られた。


図14 江川せせらぎ遊歩道(神奈川県川崎市)
出典:環境省「『環境用水の導入』事例集~魅力ある身近な水環境づくりにむけて~」(No.22 神奈川県 川崎市 江川せせらぎ遊歩道)(PDF)
http://www.env.go.jp/water/junkan/case2/pdf/22.pdf

引用・参考資料など

(2010年1月現在)