フッ素資源循環へ!ペルフルオロ化合物を室温・1時間で完全分解
発表日:2025.12.15
名古屋工業大学の柴田哲男教授と趙正宇助教らの研究グループは、バレンシア大学との共同研究により、難分解性のフッ素樹脂PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)や、多様なPFASを室温・1時間で完全分解し、フッ化カリウム(KF)などの有価化学品へ直接アップサイクルする技術を開発した(掲載誌:Nature Communications)。
PTFEは耐熱性・耐薬品性・電気絶縁性などに優れ、1940年代以降、調理器具や半導体製造装置に不可欠な材料となった。しかし、強固な炭素–フッ素結合(C–F結合)と高結晶性により、難分解性であるため、PTFEを使用した製品は焼却や500℃以上の高温分解によって処理されている。一方、PFOSやPFOA、PFHxSは環境残留性などが指摘され、国際的に規制・削減が求められている。こうした課題を同時に解決する方向性として「フッ素回収」技術が挙げられているが、フッ素回収は極めて困難で、技術開発・確立が化学・環境分野における最重要テーマとなっている。
本研究の鍵となる要素技術は、機械化学反応(mechanochemical process)を利用したメカノケミカル分解である。研究チームは、PTFEやPVDFなどのフッ素高分子に加え、PFOS・PFOA・PFHxSなどの低分子PFASを金属カリウム(K)とともにボールミルで粉砕し、室温・1時間で最大99%分解することに成功した。また、副生成物の黒色残渣は「還元型酸化グラフェン(rGO)」であることが分光解析で示唆され、精製不要でフッ素化反応に直接利用可能である。さらに、金属種をカリウム(K)だけでなく、ナトリウム(Na)やリチウム(Li)を用いた場合でも同様の分解が可能であり、それぞれNaFやLiFを高純度で得ることができた。LiFはリチウムイオン電池材料として重要であることから、エネルギー分野への応用も期待できる技術だ。
研究グループは、廃棄物からフッ素を回収し、医薬品・農薬・半導体などフッ素化学産業への安定供給を可能にする「真のリサイクル」技術として、工業スケール展開や企業連携の現実性を強調している。なお、本研究はJST CREST「分解・劣化・安定化の精密材料科学」研究領域の支援を受けて実施された。
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