東京大学、岡山大学、関西福祉科学大学および産業技術総合研究所の研究グループは、熱帯夜の睡眠障害リスクを定量的に評価した(世界初)。世界平均気温は上昇し続けており、最高気温を更新する国・地域が後を絶たない。WHOは気候変動の影響による死亡者数が年間25万人(2030~2050年)となり、熱ばく露による死亡者が相当数にのぼると推計している。日本でも猛暑日(最高気温が35℃を超える日)が増加傾向にあり、関係省庁や自治体等は「熱中症」の予防・注意喚起を強化している。同研究グループは、これまでは気候変動の直接的な健康影響と見られていなかった「熱帯夜(最低気温25℃以上となる夜)の睡眠障害」に焦点を当てた。熱中症の場合、救急搬送者数(傷病程度の区分:死亡、重症、中等症、軽症)などを用いて現状分析やリスクアセスメントができる。しかし、睡眠障害は重篤な症状に陥ることが少ないこともあり、指標とするに相応しい調査・統計データが見当たらない。こうした課題を克服するために、本研究では「障害調整生存年(DALY: Disability Adjusted Life Years)」を指標とする評価スキームを設計している。DALYは“本来健康な状態で過ごすはずだった人生から失われた年数”を示すもので、WHOや世界銀行が生活や医療の質の評価に活用している。DALYは、死亡数に地域の平均余命を乗じた年数に、特定の症状が安定するまで(あるいは死亡するまで)の年数を足し上げて算出する。本研究では、後者を導出するために、毎日の睡眠の質に関する指数を新たに開発し、既往の自記式質問票「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」を併用している。2011・2012年の8月に名古屋市の住民を対象とする調査を行った結果、日最低気温が24.8 ℃を超えると睡眠障害にかかっている住民の割合が急増することが判明した。また、2010~2014年の「熱帯夜の睡眠障害による健康影響」と「熱中症による死亡」をDALYベースで比較検証したところ、両者が同等レベルであることが裏付けられた。熱帯夜を想定した暑熱対策の必要性や、夜間最低気温25℃をしきい値とするガイドラインの策定(例:エアコンの適正な利用等)を提言している。