森林総合研究所の青木研究員と山階鳥類研究所の千田専門員は、日本の鳥類標識調査データが世界の渡り鳥研究にどれほど活用されているか検証した。──渡り鳥は毎年遠く離れた国と国の間を行き来している。日本や欧米の研究者たちは、約100年前から渡り鳥に金属の足環を装着する「鳥類標識調査」を進めてきた。膨大なデータが蓄積されており、渡り鳥の生態解明においては「最新の統計手法を用いたデータ解析」が欠かせない存在となっている。しかし、欧米以外の国々における標識調査データの利用実態は、これまで十分に検証されていなかった。──今回、研究チームは、アジアで一番のデータ量を誇る日本の標識調査が、国際的な研究にどれくらい・どのように活用されたかを調査した。その結果、学術論文として発表された研究は31件にとどまり、そのうち国際誌への掲載は9件のみであることが明らかになった。また、最近の統計手法が用いられたものは0件で、論文で利用された頻度は欧米よりも少なく、日本の標識調査データの認知度の低さなど、現状が浮き彫りになった。──青木研究員らは、東アジアは渡り鳥の種数が世界でも最も多い地域であり、日本が保有する標識調査データは渡り鳥の生態・進化の理解と保全をより一層進めるためのカギになると述べている。また、最大のデータベースをもつ日本が中心になって、東アジアの標識調査データの利活用を盛り上げ、世界的な研究コミュニティに向けてその有用性を発信していくことが課題になるとしている(掲載誌:Ornithological Science)。