東京大学大気海洋研究所の横山教授らを中心とする国際研究チームは、国際深海掘削計画(IODP)第325次航海で採取されたグレートバリアリーフの化石サンゴを分析し、約11,450〜11,100年前に発生したとされる急激な海面上昇イベント「メルトウォーターパルス1B(MWP-1B)」の再評価を行った。その結果、これまでカリブ海の研究で報告されていた年間4cmの上昇速度は過大評価であり、実際には2〜3cm/年以下であったことが明らかとなった。
MWP-1Bは、氷床の急速な融解により短期間で海面が上昇したとされる現象であり、将来の気候変動におけるアナログとして注目されている。グレートバリアリーフは、地殻変動の影響が少ないオーストラリア大陸棚に広がる世界最大のサンゴ礁であり、過去の海面変動を高精度で復元するのに適した地域とされる。今回の研究では、プロトGBRと呼ばれる化石サンゴ礁を用いて、過去2万年間の海面変動とサンゴ礁の応答を詳細に解析した。
研究チームは、当時の海面上昇速度が比較的緩やかであったため、サンゴ礁の成長が継続していたことを確認した。これは、サンゴ礁が一定の上昇速度までであれば適応可能であることを示唆するものであり、タヒチの既往研究とも整合的である。ただし、当時は大気中のCO2濃度が現在より低く、海洋酸性化や土壌流出などの環境ストレスも小さかった。今後の気候変動下では、複合的なストレス要因に対するサンゴ礁の応答をより深く理解する必要があると指摘している(掲載誌:Nature Communications)。
情報源 |
東京大学大気海洋研究所 研究トピックス
|
---|---|
機関 | 東京大学大気海洋研究所 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 気候変動 | サンゴ礁 | 海面上昇 | 海洋酸性化 | 環境ストレス | グレートバリアリーフ | 氷床融解 | メルトウォーターパルス | 化石サンゴ | 国際深海掘削計画 |
関連ニュース |