筑波大学生命環境系・HARVEY Benjamin助教らの国際研究チーム(日本を含む8カ国)は、熱帯西大西洋の400カ所以上のサンゴ礁を対象に、過去260万年分の化石記録と現在の生態データを統合分析し、「気候変動により、サンゴ礁の成長力が低下し、沿岸浸水リスクが増大する」ことを明らかにした(掲載誌:Nature)。
サンゴ礁は波のエネルギーの最大97%を吸収し、沿岸防御や生物多様性の維持に重要な役割を果たす。年間30億ドル超の経済効果があるとされるが、近年では海水温上昇・酸性化・病害・水質悪化などにより、特に西大西洋域でミドリイシ属の壊滅的減少が進行している。――国際研究チームは、サンゴの骨格空隙率(ポロシティ)を精密に測定し、従来よりも正確な堆積速度を推定した。その結果、現状のCO₂排出が続けば2040年までに70%以上のサンゴ礁が浸食状態に転じ、気温が現在より2℃上昇すると2100年には99%以上が成長不能になると予測された。また、サンゴ礁の成長不足と海面上昇の二重の影響により、礁上水深は平均0.7〜1.2 m増加し、高潮や波浪の影響が強まり、ラグーンや藻場などの周辺生態系にも深刻な変化をもたらす可能性があることが明らかになった。
HARVEY Benjamin助教らは、「サンゴ礁保全には修復活動だけでなく、陸海の環境管理の改善とともに、地球温暖化を2℃未満に抑える国際的な取り組みが不可欠である」と指摘し、「西大西洋域のサンゴ被度を維持することは極めて困難であると考えられるため、水質改善や過剰漁業の抑制など地域レベルの対策強化が急務である」と述べている。