森林総合研究所と中国科学院華南植物園の共同研究グループは、熱帯林の土壌に生息する微生物が、リン不足という環境下で「質より量」の戦略を採用していることを明らかにした。――リンは植物や微生物の成長に不可欠な栄養素であるが、熱帯地域の土壌では慢性的に不足しており、これが生態系機能の制約要因となっている。従来の研究では、微生物がリン獲得のためにリン酸分解酵素(フォスファターゼ)の生産量を増加させることは知られていたが、酵素の分解効率(基質親和性)に関する理解は不十分であった。
今回の研究では、6〜10年間にわたる長期リン施肥実験のデータを用いて、リンが十分に供給された土壌と自然状態の土壌に含まれる酵素の性質を比較・分析した。その結果、微生物は高品質な酵素を少量生産するのではなく、分解効率が低い酵素を大量に生産する「低品質戦略」を採用していることが判明した。
この現象を説明するため、研究チームは新たに「酵素劣化仮説(enzyme degradation hypothesis)」を提唱した。同仮説によれば、高品質な酵素はプロテアーゼによる分解の影響を受けやすく、結果的に有効性が低下するため、微生物は低品質でも大量の酵素を生産する方が有利であるとされる。
本成果は、土壌微生物の栄養獲得戦略や熱帯林におけるリン循環メカニズムの理解を深めるものである。今後、研究者は他地域の異なる気候・土壌条件において本仮説の検証を進めることで、微生物の適応戦略が環境を超えて共通するかどうかを明らかにしていく必要がある(掲載誌:Ecosystems)。
情報源 |
森林総合研究所 プレスリリース
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機関 | 森林総合研究所 |
分野 |
自然環境 水・土壌環境 |
キーワード | 森林管理 | 熱帯林 | 土壌微生物 | リン循環 | 酵素劣化仮説 | フォスファターゼ | 基質親和性 | プロテアーゼ | 長期施肥実験 | 栄養獲得戦略 |
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