京都大学生態学研究センターを中心とする研究グループは、テン・タヌキ・キツネの糞に含まれる種子の「組み合わせ」と「密度」が、それぞれの採餌様式や食性の違いを反映していることを明らかにした(掲載誌:Acta Oecologica)。
動物による種子散布(動物被食散布)は、森林生態系の再生や植物の分布に大きな影響を与えるが、糞内の種子の堆積パターンに着目した研究は少なく、散布者の生態的特徴との関係は十分に解明されていなかった。本研究では、栃木県日光市の戦場ヶ原において、テン(樹上採食性・果実中心)、タヌキ(地上採食性・果実中心)、キツネ(地上採食性・動物中心)の糞105個を採集・分析し、合計9,385個の種子を同定した。その結果、テンの糞には主にズミ(バラ科)の種子が単独で含まれていたのに対し、タヌキとキツネの糞にはサルナシ(マタタビ科)やツルウメモドキ(ニシキギ科)など複数種の種子が混在していた。特に、2種以上の種子を含む糞の割合は、テンが15.3%、タヌキが51.9%と大きな差が見られた。また、糞内の種子密度は、果実中心の食性を持つテンとタヌキでは1糞あたり50〜80個と高密度であったのに対し、動物中心のキツネでは約13個と低密度であった。これらの結果は、種子散布者の採餌様式が種子の組成に、食性が密度に影響することを示しており、芽生えの競争環境や定着成功に関わる重要な要素であると考えられる。
研究者らは、今後、堆積パターンが植物の発芽・成長・群集形成に与える影響を実験的に検証することで、「動物種ごとの散布機能を定量的に評価する新たな枠組みの構築」を目指すと述べている。