近年、IoTセンサーとAIアルゴリズムを統合した環境制御技術が農業分野で急速に進展している。温度・湿度・光・CO₂濃度などの環境因子をリアルタイムで最適化することで、作物の収量と品質を同時に高める取り組みが広がっており、都市部の垂直農業や資源制約下の閉鎖型農業において、持続可能な食料生産の基盤として注目されている(e.g., Eze et al., 2025)。
東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループは、大玉トマト「CF桃太郎ファイト」を用いた実験により、完全閉鎖型LED植物工場での安定栽培に世界で初めて成功した。温室栽培との比較により、LED環境下では植物の成長量や果実のビタミンC含量が高く、温室では果実のサイズや糖度が優れていることが明らかとなった。
本研究では、LED植物工場と温室を同一品種・同一時期・同一栽培基質で比較。LED環境下では気温(25.9 ± 1.1 ℃)と光強度(276 µmol m⁻² s⁻¹)を安定的に維持し、茎の伸長速度・茎径・葉緑素量(SPAD値)が温室を上回った。果実中のビタミンC含量も有意に高く、栄養価の面で優位性が確認された。一方、温室では自然光の強度が最大2,000 µmol m⁻² s⁻¹に達し、果実の重量・糖度・リコピン濃度において高い値を示した。――ただし、温室では日射量や外気温の変動が避けられず、周年栽培では生育や収量に季節的ばらつきが生じる。一方、LED植物工場では環境を一貫して制御できるため、計画的かつ高頻度な収穫が可能となる。矢守准教授らは、今後の展望として、「AIを活用したリアルタイム環境制御の導入により、収量と品質の同時向上が可能になる」と述べている。
本成果は、都市における地産地消モデルの実現に加え、月面基地や深宇宙探査ミッションといった閉鎖型の極限環境における食料生産にも応用可能であり、持続可能な農業の未来を切り拓く技術基盤として注目される。