総合地球環境学研究所(地球研)とインドの研究者チームからなるAakashプロジェクトのワーキンググループ3は、パンジャブ州の稲わら焼却に伴う大気汚染と健康リスクに関する住民認識を調査した成果を発表した。調査は同州の22地区・2,202世帯を対象に実施され、都市部の大気汚染に対する認識と地域内の焼却問題への理解度を比較している(掲載誌:Scientific Reports)。
インド北部では稲わら焼却が農作業の一環として慣行化しており、デリー首都圏(NCR)を含む広域の大気質悪化に影響を及ぼしている。しかし、こうした焼却が自らの生活環境や健康に及ぼす影響を住民がどの程度認識しているかは不明であった。既往研究では都市部のPM2.5汚染が注目される一方、農村部の焼却行為に対するリスク認識は過小評価される傾向が指摘されていた。
今回の調査では、約46%の住民がデリーの大気汚染を「深刻」と認識していたが、パンジャブ州内の汚染を「深刻」と捉えたのは25%にとどまった。また、家族に呼吸器や循環器疾患を抱える世帯では、稲わら焼却の煙を健康上の脅威として強く認識する傾向が確認された。さらに、空気汚染に関する健康リスクを理解している世帯ほど、焼却問題を「対応すべき課題」と捉えていた。
研究者らは、こうした結果から、地域に根ざした環境保健教育や科学的観測データに基づく情報発信の重要性を指摘している。Aakashプロジェクトは、大気浄化・公衆衛生の改善・持続可能な農業への転換を目指す学際研究として、観測データとモデル解析を組み合わせた行動変容支援を進めている。