東京大学、埼玉大学らの研究グループは、量子古典混合法を拡張し、水や氷の赤外光物性を定量的に計算できる手法を開発した(掲載誌:The Journal of Physical Chemistry Letters)。
水や氷の微粒子や薄膜は、地球の雲粒子や星間塵として存在し、大気や気候、宇宙の物質進化に影響するため、その構造理解は科学的・社会的に重要である。水は融点より高い温度で最大密度を示すなど特異な性質を持ち、氷も結晶・アモルファスを含む多様な構造を形成する。水や氷の分子集合構造を調べるため、赤外分光法が広く利用されてきたが、OH伸縮振動バンドのスペクトル形状は複雑で、実験データから構造情報を直接読み取ることは困難であった。また、従来の量子古典混合法はスペクトル形状の再現にとどまり、縦軸の絶対値や複素誘電率の実部・虚部を扱えないという制約があった。
量子古典混合法とは、量子化学計算の精度と古典分子動力学のスピードを組み合わせることで、大規模な水分子集合体の赤外スペクトルを効率的に予測する計算手法。今回の研究では、誘電体の線形応答理論に基づき計算式を再導出し、複素誘電率の実部と虚部を同時に求める枠組みを構築した。さらに局所場補正を取り入れ、複素屈折率や吸収断面積、モル吸光係数を物理的に意味のある値として算出できるようにした。剛体水モデルを用いた検証では、計算結果が実験値と良く一致し、定量性が確認された。この成果により、界面効果が大きい微粒子や薄膜の赤外スペクトルを理論的に予測できるようになり、雲粒子や氷星間塵の構造解析に新たな可能性が開かれた。
研究グループは、「より広範な温度・圧力条件での応用を視野に、地球科学や天文学への貢献」を期待している。本研究は科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業およびJSPS科研費の支援を受けて実施された。