気象庁は、文部科学省・理化学研究所、大学・研究機関らと共同で進めている、「線状降水帯の半日前予測」の令和7年検証結果と、「観測・数値予報技術の強化」に関する取り組みの進捗を公表した。今年度は捕捉率が約71%へ大幅改善、適中率も約14%へやや向上した。改善要因として、前線や台風接近時の事例で数値予報の予測可能性が高かったこと、予想降水域を踏まえた対象府県の絞り込み、ならびに「線状降水帯の発生形態に関する分類表」の活用が挙げられている。
気象庁は出水期を中心に観測網とモデルを段階的に増強してきた。アメダスには湿度観測を全地点で追加整備予定、気象レーダーは二重偏波レーダーへの更新を進め、令和7年7月に函館レーダーが運用を開始した。加えて、日本海など洋上のGNSS水蒸気観測、地上マイクロ波放射計、水蒸気ライダーなどの観測を拡充し、次期静止気象衛星「ひまわり10号」の整備を進めている。予測面では、局地モデルの高解像度化(2km→1km)と局地アンサンブル予報システム(LEPS)の運用開始に向けて開発を継続し、世界トップレベルのスーパーコンピュータ「富岳」を活用したリアルタイムシミュレーション実験(6月2日〜10月31日)を実施した。
技術的には、富岳1km LFMとLEPSにより、現業MEPSでは捉えきれない強雨の可能性を確率分布で表現できることを複数事例で確認した。令和7年には北日本・北陸地方で発生頻度が増えたが、半日前の呼びかけが適切でない事例もあり、予測改善の課題が残る。分類表の適用判断が難しいケース(形状不適ながら降水量大、面積不十分など)も検証対象として整理され、今後は1km LFMやLEPSの活用方法の見直し、当てはめルールの精緻化が検討される。定量的結果では、適中率約14%(88回中12回)、捕捉率約71%(17回中12回)、呼びかけ時の3時間降水量100mm以上の大雨は約60%で確認されている。
来年度(令和8年)出水期頃には、今後3時間以内の線状降水帯発生による非常に激しい雨の継続可能性が高まった場合に「気象防災速報(線状降水帯直前予測)」を一次細分区域で発表し、併せて「線状降水帯予測マップ」の提供を開始予定である。気象庁は、観測・予測の強化成果を順次、早期避難や地域の防災対応につなげるとしており、ひまわり10号整備、局地アンサンブル運用開始、線状降水帯直前予測の開始という制度・運用の実装へ段階的に移行するという。