決定論的カオスの代表的概念として知られる「バタフライ効果」は、"ブラジルでのチョウの羽ばたきが、数日後にテキサスで竜巻を引き起こすかもしれない"と表現されるように、初期条件のごくわずかな違いが時間の経過とともに指数関数的に増幅され、将来の状態を大きく分岐させる性質を指す。この性質は、数日先の天気予報に限界をもたらす主要因として理解されてきた一方で、「これほど予測不能な現象を、果たして意図的に制御できるのか」という根源的な問いを生み出してきた。理化学研究所計算科学研究センターの三好建正チームプリンシパルは、この長年のパラドックスに対し、カオス理論の枠組みを拡張する新たな数理的視点を提示した(掲載誌:Nonlinear Dynamics)。
本研究の出発点にあるのは、気象予測で確立されてきたデータ同化の考え方である。データ同化とは、観測データを用いて計算モデルの状態を現実の自然現象に同期させる技術であり、原理的に予測限界を持つカオス系に対しても、現在の状態を高精度に再現できることが知られている。三好氏はまず、データ同化の発想を制御問題へと拡張した「制御シミュレーション実験」を一般的かつ厳密な数理枠組みとして定式化し、特定のモデルや手法に依存しない形でカオス制御の理論的基盤を構築した。
そのうえで提唱されたのが、『双対性原理(Duality Principle)』である。この原理では、データ同化と制御は数学的に双子の関係にあると解釈される。すなわち、データ同化が観測によって計算モデルを自然の軌道に同期させるプロセスであるのに対し、制御は介入によって自然現象そのものを、あらかじめ設定した目標軌道に同期させるプロセスとして位置付けられる。カオス全体を無理に抑え込むのではなく、元の軌道とは異なる力学的性質を持つ、より扱いやすい目標軌道を選び、そこへの同期を維持する点に本質がある。
予測不能性と制御可能性が対立する概念ではなく、カオスの高い感度という同一の性質の表裏であることを理論的に示した点に、本研究の意義がある。この双対性原理は、直ちに台風や豪雨を制御する技術を意味するものではないが、将来の極端気象を回避するための防災・減災研究への理論的道筋を与えるとともに、生態系や経済システムなど、カオス的挙動を示す複雑系への応用展開が期待される。
| 情報源 |
理化学研究所 研究成果(プレスリリース)
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| 機関 | 理化学研究所 |
| 分野 |
地球環境 自然環境 大気環境 水・土壌環境 |
| キーワード | データ同化 | 極端気象 | 防災・減災 | 双対性原理 | 決定論的カオス | バタフライ効果 | カオス同期 | 制御シミュレーション実験 | 非線形力学系 | 複雑系 |
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