東京大学大気海洋研究所は、北西太平洋における鉛直断面観測を通じて、マイワシ（主分布水深：100 m以浅）が生息していない水深1000 mで同種の環境DNAが検出され、同海域の深海に広く存在することを明らかにした。これまで、"環境DNAは放出された水深にとどまりながら比較的速やかに分解される"という従来の認識を覆す成果であり、海洋における環境DNAモニタリングの精度向上が期待される（掲載誌：Progress in Oceanography）。
今回の観測では、マイワシの環境DNAが表層・浅層から深層に至る保存・輸送プロセスも示唆された。一連の観測結果を分析した結果、環境DNAは先ず、表層で生産された植物プランクトンの死骸などから成る「マリンスノー（marine snow）」に吸着し、その後、深層へと沈降する。その後、低水温環境では分解が抑制されるため、長期にわたり保存されると考えられた。
また、表層の植物プランクトン生産が盛んな海域では、深層における環境DNAの割合が増加する傾向が確認された。研究チームは、「環境DNAによるモニタリング設計においては保存・輸送過程の考慮が不可欠であり、表層一次生産の季節変動や低水温域の広がり、沈降粒子の動態を併せて評価することが有効」だと述べている。今後は、鉛直輸送モデルを組み込んだ解析手法の開発や外洋生態系モニタリングへの応用が期待される。