量子科学技術研究開発機構(QST)・モノベエンジニアリング・倉敷繊維加工の共同研究グループは、排水中ホウ素を従来比約500倍の速度で除去する小型・高効率の水処理技術を発表した。水質汚濁防止法ではホウ素の一律排水基準を10 mg/Lと定めている。しかし、めっき業・ガラス製造・温泉施設など広範な業種での達成は困難であり、暫定排水基準の適用が長期化してきた。この課題に対し、QSTらは処理速度を飛躍的に向上させる新技術を開発した(第35回日本MRS年次大会招待講演)。
本技術の核心は、セルロース基材にホウ素選択性官能基を高密度導入する「放射線グラフト重合」と、圧力損失を抑えつつ接触効率を高める「独自構造のバネフィルター」の組合せである。前者により選択的吸着材(adsorbent)が得られ、後者により水流と吸着材の実効接触面積が最大化される。従来技術が「大型塔で長時間通水」を前提としていたのに対し、本技術は小型系で高スループットを実現する設計思想に特徴がある。
具体的には、親水性・比表面積に優れたパウダー状セルロースにラジカル生成後、機能性モノマーをグラフトして選択的吸着能を付与し、これをバネ線間隙を制御したフィルターに充填する。その結果、圧力損失を抑えながら接触効率を向上し、ホウ素除去速度を約500倍に加速した。除去後のホウ素は吸着材の酸処理で回収可能であり、運転コスト低減と資源循環の両立に道を拓いた。また、小型化により限られたスペースでも高効率処理が可能となり、中小事業所や温泉施設での基準遵守促進が期待される。
研究グループは、有害物質除去から有用元素回収まで適用範囲が広い点を強調しており、社会実装材料の観点から産業排水の包括的高度化に寄与し得るという。本研究は、環境省・環境再生保全機構の環境総合研究推進費「バネの隙間を利用した超高速ホウ素除去技術の開発」等の支援を受けて実施された。
| 情報源 |
QST プレスリリース
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|---|---|
| 機関 | 量子科学技術研究開発機構(QST) (株)モノベエンジニアリング 倉敷繊維加工(株) |
| 分野 |
水・土壌環境 |
| キーワード | 資源循環 | 一律排水基準 | 暫定排水基準 | 水質汚濁防止法 | 産業排水処理 | 放射線グラフト重合 | バネフィルター | 選択的吸着材 | 圧力損失 | 接触効率 |
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