分子科学研究所と早稲田大学の研究グループは、電流を使って低温で温室効果ガスを資源化する仕組みを世界で初めて解明した(掲載誌:アメリカ化学会誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」)。
地球温暖化の原因物質である二酸化炭素(CO₂)とメタン(CH₄)を資源に変えることができれば、環境問題とエネルギー問題の両方を解決する糸口となる。本研究は、その可能性を大きく広げる成果である。
従来、この変換反応(メタンドライリフォーミング反応:CH₄+CO₂→2CO+2H₂)には800℃以上の高温が必要であった。CO₂とCH₄は非常に安定な分子であるためである。しかし、高温を維持するには膨大なエネルギーが必要であり、触媒の劣化も避けられないという課題があった。
そこで研究グループは「電気の力」に着目した。触媒に直流電流を流すと、反応が約200℃という低温で進むことが知られていたが、その理由は長年不明であった。今回、リアルタイム質量分析や赤外・可視分光などを組み合わせたマルチモーダルオペランド計測によって、反応の本質が明らかになった。ポイントは、電流によって触媒に電子(-)と正孔(+)が注入され、それぞれがCO₂の還元とCH₄の酸化を助けていることである。すなわち、熱ではなく「電荷の働き」で反応が進むのである。
この発見が重要である理由は三つある。第一に、低温で反応できるためエネルギー消費が減り、触媒の寿命も延びる。第二に、電気で駆動するため再生可能エネルギーと組み合わせやすく、余剰電力を化学エネルギーに変えるPower-to-Gas技術に直結する。第三に、仕組みが解明されたことで、電子や正孔を制御する新しい触媒を設計できるようになる。これにより、温室効果ガスを資源に変える持続可能な技術の設計指針が示されたのである。今後、地域のバイオガス利用や合成燃料製造にも応用される見込みである。
| 情報源 |
分子科学研究所 Press Release
早稲田大学 プレスリリース |
|---|---|
| 機関 | 分子科学研究所 早稲田大学 |
| 分野 |
環境総合 |
| キーワード | 合成ガス | Power-to-Gas | Dry Reforming of Methane | 非熱的触媒 | 電流印加 | 電子・正孔 | CeO₂ | 局所還元 | 格子歪 | Ligand-to-Metal Charge Transfer |
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